ミニマム法律学

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犯罪事実の認識・予見(認識説)

*行為者が処罰されるためには、犯罪事実をどのように捉えている必要があるか(故意の内容)(1050字)

 

 故意とは犯罪事実の認識をいうと解する。行為以前においては、認識ではなく、厳密にいえば予見である。これに対して故意の内容として、犯罪の認識(予見)、プラス、認容も必要とする見解があるが、妥当ではない。認容という意思的な態度ないし要素については、それは行為にでる意思(行為意思)であって、行為の要素にすでに含まれているからである。(なお、この行為意思を超えてさらに意欲的ないし情緒的な態度・要素としての認容まで要求することは、行為者の悪しき性格を根拠に、認識内容をとくに問わないまま故意が認められることになりかねず、不当である。)

[山口『刑法総論』3版(2016年)215頁(最判昭23・3・16刑集2-3-227),43頁注15など,平野『刑法概説』(1977年)82頁,参照]

 

1.問題の所在(略)

 

2.実行行為について

(1) 殺人罪の実行行為とは、生命侵害の現実的危険性のある、正犯の行為をいう。

(2) ナイフという殺傷能力の高い凶器が使用され、腹部という多数の臓器が存在する人体の枢要部(部位)を、切りつけるより深い傷を負わせることのできる指すという方法を用い、それを3回も行っていることから、生命侵害の危険性が高く、さらに、Vは大量に出血し意識を失っていることから、刺突行為の程度がいかに激しかったかを物語っている。このことから、乙が自らの意思で行ったV刺突行為には、生命侵害の現実的危険性が認められる。

 また、この行為により、V死亡という構成要件的結果惹起の原因が支配されており、乙に正犯性も認められる。

(3) したがって、乙のV刺突行為は、殺人罪の実行行為にあたる。

 

3.結果の発生、因果関係(など、略)

 

4.故意について

(1) 故意とは犯罪事実の認識・予見をいう。犯罪事実とは違法性を基礎づける事実であり、違法性を基礎づける点で原則にあたる構成要件該当事実と、例外としての違法性阻却事由、その不存在の事実が、犯罪事実にあたる。故意があるというためには、その双方の事実の認識を要する。

(2) 本件では、前述のように、乙は自らの意思(行為意思)で殺人罪の実行行為を行っており、殺人罪の実行行為を行うという構成要件該当事実の認識が認められる。

 また(本件では)、違法性阻却事由に関する事由は存在しないので、乙に、違法性阻却事由が存在しないという事実の認識があるといえる。

(3) したがって、乙に、V殺害についての犯罪事実の認識・予見、すなわち故意が認められる。

 

5.罪数(など、略)

[大塚裕史・受験新報799号(2017年9月)109頁;山口『刑法総論』3版(2016年)68頁,51頁,平野『刑法概説』(1977年)78頁など,参照]

以上 2020©right_droit

  

 

*以下,故意の認識内容について、参照文献を短くまとめました(出典等の部分を除き,140字×5ヶ=700字)

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◇犯罪事実のどのような認識が必要か(故意の認識内容)
[・行為とは意思にもとづく身体の動静であり、意思的な要素は、行為概念のなかにある。故意は、その意思の内容は何かという問題である。
自己の行為の結果として人が死ぬであろうことを認識・予見したときは、これを、行為を思いとどまる動機にしなければならない。それにもかかわらず、思いとどまる動機とせず、その行為をしたことを非難するのである(認識説=動機説)。
結果の発生を認識しながら、あえてでなく、行為に出るということはありえない。いいかえると、認識しながら行為にでたときは常に故意がある。とくに認容という(情緒的な)概念が必要というわけではない。]

◇故意の認識内容(認識説=動機説)
刑法63/ 行為は意思にもとづく身体の動静。意思的な要素も含む。故意は,その意思の内容は何かという問題。自己の行為の結果として人が死ぬであろうことを認識・予見したときは,#行為を思いとどまる動機にしなければならない。にもかかわらず,#思いとどまる動機とせず,行為したことを非難するのである(動機説)。
[平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)185頁参照]

◇認識説(動機説)
刑法228/ 故意を認めるために意思的要素を要するとしても,それは,行為に出る意思たる行為意思であり,故意の要素ではなく,行為の要素として既に行為認定時に考慮済。#故意の有無にとっては行為者の認識内容が問題であり(認識説),TB実現が行為者の意識内に浮かんだが,それを否定しつつ行為にでたときも,故意あり。
[山口『刑法総論』3版43頁注15,214頁-215頁参照。
・いわゆる認容説では,故意を認めるためには,認容という意思的態度(意思的要素)が必要だとする。この見解によると,構成要件の実現が一旦は行為者の意識内に浮かんだが,それを否定しつつ行為にでた場合には,故意そのものではなく,未必の故意として故意責任が認められるようであるが,平野教授・山口教授のとられる認識説(動機説)によると,その場合も端的に故意ありとされるようである。平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)186頁-187頁も参照。
 認識説(動機説)の方がよりシンプルでわかりやすいと,私は思います。]

◇凶器の種類・用法,創傷の部位・程度(客観的な情況証拠の積み重ね)
刑法229/ 故意につき認容説に基づけば,意思的要素まで認定要。殺人の故意の認定では,①どのような凶器を使用したか(凶器の種類),②それをどのように使ったか(用法),③身体のどの部位に,どの程度の創傷を負わせたか(創傷の部位と程度)が重要という。but,これは,#実行行為に生命侵害の現実的危険性があるかの問題?
[大塚裕史『ロースクール演習 刑法』2版(2013年)6頁,受験新報799号(2017年9月)109頁,山口『刑法総論』3版214頁-215頁,参照]

殺人罪の実行行為
[・殺人罪の実行行為は、生命侵害の現実的危険性のある行為をいう。
 本件では、ナイフという殺傷能力の高い凶器が使用されており、創傷の部位は、腹部という多数の臓器が存在する人体の枢要部である。切りつけるより深い傷を負わせることのできる、刺すという方法を用い、それを3回も行っていることから、生命侵害の危険性が高い。さらに、Vは大量に出血し意識を失っていることから、刺突行為がいかに激しかったかを物語っている(創傷の程度)。
 したがって、乙のV刺突行為は、生命侵害の危険性の高い行為であり、(傷害罪ではなく)殺人罪の実行行為にあたる。]

刑法61/ 殺人罪の実行行為は,生命侵害の現実的危険性ある行為。
本件で,ナイフという殺傷能力の高い凶器が使用され,創傷部位は,#腹部という人体の枢要部。深い傷を負わせられる,#刺すという方法を用い,それを3回も行っている。さらに,Vは大量出血し意識を失っていることから,#刺突行為の激しさがわかる(程度)。
[大塚裕史・受験新報799号(2017年9月)109頁参照。→したがって,乙のV刺突行為は,生命侵害の危険性の高い行為であり,(傷害罪ではなく)殺人罪の実行行為にあたる。殺人罪の実行行為(正犯性の認められる行為者の行為)。]

殺人罪の実行行為性
刑法233/ Aが高速度走行する車から転落すれば相当の衝撃を受けること,頭を強打すれば死亡する危険が高いこと,市内の国道上なので深夜とはいえある程度,交通量があり,路上転落により他車に轢かれる可能性も少なくないこと等を考えると,甲の行為は,Aの生命に対する高度の危険をもった行為,#殺人の実行行為性あり
[『刑法事例演習教材』初版(2009年)有斐閣〔1〕ボンネットの上の酔っぱらい 3頁参照。R23①]

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略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)
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