ミニマム法律学

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共犯の因果性,および教唆・幇助の従属性,共同正犯の共同性 (2020/4/1訂正,タテ2.⑴⑷)

*共犯について(724字)

1.共同正犯(60条)が成立するためには,共同加巧の意思共同加功の事実とが必要である。そして,共犯規定は,正犯または他の共同者により惹起された結果についても,共犯の因果性が認められる限り共犯者を拡張処罰するものである(⇔行為無価値によれば,拡張ではなく,修正とされる)。

2.(1) 共犯全般の要件として,因果性が求められる。

 さらに,狭義の共犯(教唆・幇助)では,従属性を要し共同正犯では,共同性を要する。

(2) 正犯の行為を介して法益侵害(構成要件該当事実,TB該当事実)を自ら惹起したことが共犯の処罰根拠(惹起説),すなわち,自らの行為と構成要件的行為との間に因果性(物理的因果性または心理的因果性)が認められるから処罰されるのである。

(3) 狭義の共犯(教唆・幇助)は二次的責任類型であり,従属性を要する

 団藤教授(行為無価値)は,これを従属性の有無と従属性の程度に分けて考察されており,平野教授(結果無価値)は,実行従属性,要素従属性,罪名従属性に分けて考察されている。

 これに対し,山口教授(結果無価値)は,実行従属性は未遂犯の構成要件該当性判断とし,要素従属性に含める。罪名従属性についても,要素従属性による拘束をどのように理解するかという問題に帰するとされる。

(4) 共同正犯は一次的責任類型(正犯)であり,従属性は問題とならず,共同性を要する

 共同正犯とは犯罪を共同するものか,行為を共同するものか,見解が分かれ(共同実行の対象・意義),判例は部分的犯罪共同説をとっているが,行為共同説が妥当であると考える(下記,◇部分的犯罪共同説の不当性,参照) 。これは,同じ犯罪(罪名)についてだけ共同正犯の成立を認めるのか否かの問題である(狭義の共犯における罪名従属性とは,異なる)。

 

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*以下,教唆・幇助の従属性について,基本書等の表現を短くまとめています(全角140字×7文)。ご参照下さい。

 

◇共犯の従属性
刑法245/ 1157/ 共犯の従属性は,①実行従属性,②要素従属性,③罪名従属性に分けうる。①正犯が現実に実行行為をしたことは,共犯成立要件か(#教唆したが_正犯が実行しなかった場合の教唆未遂の取扱い),②正犯行為に,TB該当,違法,有責,処罰条件という要件具備をどこまで要求するか,③共犯は正犯と同じ罪名であるべきか。
[平野『刑法』総論Ⅱ(1975年)345頁-346頁参照]

刑法246/ 1158/ 実行従属性は,正犯行為(実行行為)が可罰的な段階に至ることを,共犯の成立要件とするものと解される。#これは未遂犯のTB該当性判断に帰するのであり,要素従属性(正犯行為はいかなる要件を備える必要があるか)に既に含まれている。罪名従属性も,#要素従属性による拘束をどのように理解するかに帰着する。
[山口『刑法総論』3版325頁-326頁,実行行為については,6頁LL6,参照]

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◇純粋惹起説
刑法243/ 1150/ 共犯処罰根拠たる法益侵害の間接的惹起を,共犯の立場から見て,正犯を通じ,法益侵害結果(TB該当事実)を惹起することと理解し,共犯成立要件に関し,#正犯にTB該当性のない場合も共犯成立しうるとする見解を,純粋惹起説という。従属性否定,正犯なき共犯肯定だが,現行法の教唆,幇助概念の逸脱との批判あり。
[山口『刑法総論』3版312頁-313頁参照。
*疑問:要素従属性の問題か?]

◇混合惹起説
刑法240/ 1147/ 共犯(教唆,幇助)は,TB該当事実を惹起したことにつき第1次的責任を負う正犯の背後に位置し,#その者に影響を与えTB該当事実を間接的に惹起するにすぎない第2次的責任類型。背後者としての共犯の罪責は,結果を直接惹起した者に,刑法が否認対象とする(#TB該当_Rw)事実の直接惹起があって初めて認められる。
[山口『クローズアップ 刑法総論』第6講236頁参照]

◇狭義の共犯(教唆・幇助)の成立要件(混合惹起説)
刑法241/ 1148/ 正犯行為に①#TB該当性と②#Rw性が認められることが,従属的な関与形態たる共犯(教唆,幇助)の成立要件として必要(共犯の従属性の要件)。これに,共犯処罰根拠として因果共犯論(惹起説)に基づく処罰要件である,③#法益侵害に対する因果性,それに対する④#有責性が認められる限り,共犯のTB該当性を肯定可。
[山口『刑法総論』3版314頁-315頁参照]

◇混合惹起説
刑法260/ 1193/ 因果共犯論(惹起説)を採りつつ,#教唆・幇助の二次的責任性を考え併せると,正犯行為にTB該当性・Rwを要求すべき(混合惹起説)。正犯行為にTB該当性・Rwが認められる場合,教唆・幇助に法益侵害に対する因果性と有責性が認められる限り,教唆・幇助のTB該当性が認められ,Rw阻却・S阻却がない限り,共犯成立。
[山口『刑法総論』3版314頁-315頁参照]

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☆罪名従属性
刑法事案1/ 教唆・幇助は,正犯と同じ犯罪(罪名)でのみ成立するか,正犯と異なった犯罪(罪名)の共犯を認め得るか?/罪名は自らの責任要件(故意)に対応。殺意をもって人に切り付けようとしてる正犯Aに,傷害を与えるにすぎないと思いBがナイフを貸し,被害者が傷害を負った場合,Bには自己の故意に対応する傷害幇助成立。
[山口『刑法』2版 158 頁参照。罪名は正犯に従属しない。ただし,共犯の故意が正犯の故意よりも重い罪についてのものである場合,教唆・幇助は二次的責任類型であるから,共犯の罪名は正犯の罪名を超えない。要するに,共犯の罪名は正犯の罪名よりも軽いものにはなるが,重いものにはならない(山口『刑法総論』3版331頁参照)。その意味で,罪名従属性が完全に否定されるわけではない(山口『刑法』2版158頁参照)。

 この罪名従属性は,狭義の共犯(教唆・幇助)における問題である。共同正犯者間の罪名については,犯罪を共同するか,行為を共同するかという問題であり,前者ならば同一罪名の犯罪しか成立しえず,後者であれば異なる罪名の共同正犯も成立することになる。]

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*以下,共同正犯の共同性について基本書等の表現を短くまとめています(全角140字×11文)。ご参照下さい。

 

◇共同性(共同実行)
刑法256/ 1189/ 共同正犯は法益侵害の共同惹起形態で,一次的責任類型であり,従属性要件ではなく,#共同性(共同実行)が要件。共同実行の対象・意義については,特定の犯罪を共同して実行し,数人一罪となると解するのではなく(犯罪共同説),#行為を共同し各自の犯罪を実行する数人数罪をなすと解すべきである(行為共同説)。
[山口『刑法総論』3版315頁参照]

◇共同実行(法益侵害の共同惹起)の対象
刑法183/ 983/ 共同実行(法益侵害の共同惹起)の対象? 特定の犯罪の共同実行とし,共同正犯を数人一罪と解する犯罪共同説と,#行為を共同し各自の犯罪を実行するとし,共同正犯を数人数罪と解する行為共同説あり。後者は,法益侵害共同惹起が肯定される範囲内で,各共同者の故意に応じ異なった犯罪(罪名)間の共同正犯肯定。
[山口『刑法総論』3版315頁,317頁参照]

◇行為共同説
刑法184/ 984/ #各共同者が行為を共同することにより各人の故意に応じた犯罪を実現する場合に共同正犯成立(行為共同説)。⇒共同正犯成立のためには共同者間に意思の連絡が必須としても,故意の共同までは不要。共犯規定は,正犯or他共同者により惹起された結果についても,#共犯の因果性ある限り,共犯者を拡張処罰する。
[山口『刑法総論』3版317頁-318頁参照]

◇本来の行為共同説
刑法247/ 1159/ 行為共同説:#犯罪行為の全部にわたり共同である必要はなく_一部の共同でもよい。例:Aは強盗目的,Bは強姦目的で,相互に相手の目的を知らず,共同でXに暴行したが,目的不達成の場合,A強盗未遂,B強姦未遂で,暴行の限度で共犯。相手が加えた暴行の結果たる傷害にも責任負う。罪名必ずしも同じでなくていい。
[平野『刑法 総論Ⅱ』(1975年)364頁-365頁参照]

◇行為共同説による事例処理
刑法185/ 985/ A強盗目的で,B強制性交等目的で,相互に相手の目的を知らず,共同しXに暴行したが,いずれも目的を達しなかったとき,#Aは強盗未遂_Bは強制性交等未遂で_暴行の限度で,相手が加えた暴行の結果たる傷害にも責任を負い,A:強盗(未遂)致傷,B:強制性交等(未遂)致傷で処罰可。
[平野龍一『刑法 総論Ⅱ』(1975年)364頁参照]

刑法 / / Aが殺人の意思,Bが傷害の意思で,被害者に共同して傷害を加え,被害者が死亡した場合,#客観的に共同惹起した人の生命侵害という構成要件該当事実の範囲内で_各共同者の認識内容に対応した共同正犯が成立し,Aに殺人罪の共同正犯,Bに(死亡につき過失ある場合)傷害致死罪の共同正犯が成立する(行為共同説)。
[出典未控え分]

〇共同実行の意義――共同性
刑法判例7/ 最決昭 54・4・13参照:ABらが,Vに暴行・傷害を加える旨共謀したところ,Aが殺意をもってVを刺殺した事案で,#殺意のなかったBらには殺人罪の共同正犯と傷害致死罪の共同正犯の構成要件が重なり合う限度で軽い傷害致死罪の共同正犯が成立するとした。/Aにつき,行為共同説によれば,殺人罪の共同正犯となる。
[山口『刑法総論』3版318頁(刑集33-3-179)参照。これは,犯罪の成立と科刑の分離を認める以前の実務の考え方(団藤・大塚説)を否定したもの。/Aの罪責につき,部分的犯罪共同説によれば,殺人罪の単独正犯となる。]

〇部分的犯罪共同説(大塚仁など)
刑法判例8/ 最決平17・7・4参照:殺意あるAと殺意なきBが共同した,不作為による殺人罪と保護責任者遺棄致死罪の共同正犯事案で,#Aに殺人罪成立_Bとの間で保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯。Aが殺人罪の共同正犯でないなど,部分的犯罪共同説だが,殺意なき共同者の行為で死の結果が直接惹起された事案で不都合。
[山口『刑法総論』3版318頁-319頁(刑集59-6-403)参照。
*以下,私の考察:
 殺意のない共同者の行為によって死の結果が直接惹起された場合,行為共同説では,Aは行為を共同して殺人結果を惹起させており,殺人罪の共同正犯といえる(殺意のないBは保護責任者遺棄致死罪の共同正犯。数人数罪。罪名従属性の否定(森圭司『ベーシック・ノート刑法総論』新訂版303頁注**参照))。
 これに対して,部分的犯罪共同説では,Aに殺人罪の単独正犯も成立せず(保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯),殺人罪の共同正犯ともいえず,Bにも保護責任者遺棄致死罪の共同正犯しか成立しない。Aに殺人の故意があり,共犯者の行為により,Aの意図した死の結果が惹起されているにも拘らず,Aは殺人未遂罪(の単独犯)と保護責任者遺棄致死罪(の共同正犯)の観念的競合ということになってしまい,殺人既遂罪の罪責を帰せしめない不都合がある。
 ということだろうか?]

◇部分的犯罪共同説の不当性
刑法257/ 1190/ 不作為による殺人罪と保護責任者遺棄致死罪の共同正犯事案で,殺意あるAに殺人罪成立,殺意のないBと保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となるとされた(部分的犯罪共同説)。but,Aが実行行為分担せず,殺意のないBにより死の結果が惹起された場合,Aに殺人未遂罪も成立せず,#殺意が全く評価されず,不当。
[山口『刑法総論』3版318頁-319頁(最決平17・7・4刑集59-6-403,シャクティ治療殺人事件)参照]

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◇他の共同者に違法性阻却が認められる場合
刑法258/ 1191/ AB共同で被害者を傷害した場合,Aへの侵害の急迫性があり,正当防衛成立なら,Bにも侵害の急迫性が認められ,他の要件がみたされれば,他人のための正当防衛が成立し,共同正犯はTB段階で認められても,Rw阻却され不成立。
#侵害の予期と積極的加害意思で侵害の急迫性否定⇒Bに正当防衛認められない場合あり。
[山口『刑法総論』3版333頁参照]

◇共同共犯と違法性阻却事由
刑法259/ 1192/ AB共同で被害者を傷害した事案で,Aへの侵害の急迫性があり,正当防衛成立する場合も,Bに,#侵害の予期と積極的加害意思があり,侵害の急迫性が否定され,or,#もっぱら攻撃の意思で行為したため防衛の意思が認められないとき,Bに正当防衛不成立。#正当防衛が成立するAと正当防衛が成立しないBとの共同正犯。
[山口『刑法総論』3版333頁(最決平4・6・5刑集46-4-245)参照]


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*☆問題(事案,設例等),〇判例(年月日付き分),◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。
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