ミニマム法律学

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単独正犯における正犯性

正犯性について(755字)

1.(1) 正犯として構成要件(TB)的結果を惹起したと認め得るためには,構成要件的結果惹起の原因を支配したといいうること(正犯性)を要する。この正犯性(結果惹起原因の支配)は,基本的に,構成要件的結果についての十分な認識・予見をもちつつそれを直接惹起した者に認められる。この正犯性の認められる行為者の行為実行行為という。

 したがって,そのような実行行為を行う直接惹起者の背後にあって,結果惹起に間接的な原因性・因果性を有するにすぎない者には正犯性を肯定できないのが原則である。すなわち,原則として,故意行為以前に遡って結果惹起の正犯責任を追及することはできない(訴求禁止の原則)。

 

(2) もっとも,行為者の行為と構成要件的結果との間に結果を物理的に惹起する他人の行為が介在する場合に,その他人に答責性(自律性)があれば,その限りで,行為者の支配(結果惹起原因の支配)の観念が排除され,その他人自身の責任における結果惹起と評価されることになる。例えば,被害者の行為の介入事例や第三者の行為の介入事例においては,その行為が故意行為ならば,答責性(自律性)が認められ,背後の行為者の支配の観念を排除し,背後者の正犯性が否定される。すなわち,故意行為の介入の有無が,背後者の正犯性判断の重要な基準となる。

 

 背後者が,結果を物理的に直接惹起する故意行為者に強勢を加えた場合は,その故意行為者には答責性(自律性)がなく,訴求禁止原則例外として,その故意行為者の背後に位置する者(背後者)に正犯性が肯定される。

 

2.なお,単独正犯におけるこの正犯性(結果惹起原因の支配)の要件の役割は,共同正犯(60条)においては,共同性(共同実行)の要件が担っている。共犯者間に共同性が認められることにより,一次的責任類型(正犯)たり得ることになるからである。

 

以上

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* 以下,正犯性,間接正犯(10ヶ)について,参考にした基本書等の表現を短くまとめています。ご参照下さい。

 

◇単独正犯における正犯性
刑法22/ 297/ 正犯として構成要件的結果を惹起したと認めるためには、#構成要件的結果惹起の原因を支配したといいうること(#正犯性)が必要である。正犯性は基本的に、構成要件的結果についての十分な認識・予見をもちつつそれを直接惹起した者に認められる。#正犯性の認められる行為者の行為を実行行為という。
[山口『刑法総論』3版68頁参照]

◇正犯性
刑法251/ 1184/ 単独正犯における正犯性が認められるのは,TB的結果惹起の原因を支配した場合。これは,#TB的結果について十分な認識・予見をもちつつ直接惹起した者に認められる。このような正犯性(結果惹起原因の支配)が認められる行為者の行為を実行行為という。∴原則,故意行為以前に遡って結果惹起の正犯責任追及不可。
[山口『刑法総論』3版68頁参照]

◇他人の答責性(自律性)
刑法252/ 1185/ 行為者の行為とTB的結果との間に,結果を物理的に惹起する他人の行為が介在する場合,#当該結果惹起についてその他人に答責性(自律性)があれば,その限りで行為者の支配の観念を排除する。その他人自身の責任における結果惹起と評価される。#他人の故意行為の介入の有無が,正犯性判断の重要な基準となる。
[山口『刑法総論』3版69頁参照]

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◇独立の3人による,致死量の3分の1の投毒
刑法261/ 1195/ 被害者を恨む3名が,他2人も同じことをするに違いないと思いながら,A,B,C順で致死量の3分の1ずつ被害者の飲み物に毒を入れ,死亡させた。
3人の行為はどれをとっても他2人の投毒に頼らねば結果発生させ得ない。but,#どれを取り除いても致死量に達し得ず_あれなければこれなし公式をみたし,条件関係あり。
[高山佳奈子『クローズアップ刑法総論』51頁参照]

◇不作為犯における因果性と正犯性
刑法262/ 1196/ 溺れかけている人を複数名が見ている場合,誰かが助ければ助かるという意味で,各人が法益の運命を左右しうる立場。⇒それぞれの立ち去りに,不作為の因果性を認め得る。
各人の間に暗黙の共犯関係あれば,1個の正犯性肯定。そうでない場合,#助かる見込みをゼロにした最後に立ち去った者にのみ正犯性肯定。
[高山佳奈子『クローズアップ刑法総論』51頁-52頁参照]

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◇間接正犯
刑法21/ 296/ 被害者の自宅に宅配便で毒入り饅頭を送り、知らない被害者に食べさせて殺害する場合など、行為者の行為後に結果を直接惹起する他人の行為が介入するにもかかわらず、行為者が結果を自ら惹起したと見うるときがある(#間接正犯)。直接正犯とは事実上の違い。非身分者に身分犯の間接正犯は成立しない。
[山口『刑法総論』3版44頁参照]

◇間接正犯
刑法253/ 1186/ 間接正犯が認められるためには,TB的結果惹起の原因を支配した(#結果を直接惹起する他人の行為を_自己の犯罪実現のための道具として利用したといいうる)ことが必要。⇒利用者の行為に正犯性が肯定される。#これはTB要素であり_故意の認識対象なので,これについての事情を利用者が認識している必要あり。
[山口『刑法総論』3版70頁(最決平9・10・30刑集51-9-816)参照]

◇被害者の行為の介入
刑法254/ 1187/ 行為者の行為後,#TB的結果を瑕疵のない意思で惹起する被害者行為(意識的な自損行為・自傷行為・自殺行為)が介入した場合,間接正犯認められない。生命以外の法益については被害者意思に合致し,法益侵害性なし。後見的保護が認められる生命の場合,#法益侵害性あるが_正犯性なく,自殺関与罪のみ認め得る。
[山口『刑法総論』2版70頁-71頁参照]

◇構成要件非該当行為の介入
刑法24/ 299/ 構成要件要素たる身分や目的のない第三者の行為により構成要件的結果を生じさせた場合、第三者の行為に構成要件該当性は肯定できない。しかし、#背後者に直接正犯が成立し第三者に共同正犯ないし幇助が成立しうるので、身分なき故意ある道具・目的なき故意ある道具を利用する間接正犯とすべきでない。
[山口『刑法総論』3版73頁参照。R21①参照,80万円の横領につき,背後者甲が直接正犯,占有という身分のない乙に幇助犯が成立しうる(?)。]

◇適法行為の介入
刑法255/ 1188/ 第三者の行為によりTB該当事実を生じさせたが,#第三者の行為はRw阻却事由により処罰対象とならない場合,背後者に間接正犯成立するか。
#TB的結果惹起の支配(正犯性)を肯定する余地あり。
国際宅配便利用の大麻密輸事案で,コントロールド・デリバリーされた場合も,禁制品輸入罪(既遂)の間接正犯成立。
[山口『刑法総論』3版73頁-74頁(最決平9・10・30刑集51-9-816)参照]

 

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* 共同正犯の共同性(11ヶ)については,こちらで基本書等の表現をまとめています。ご参照下さい。→ 共犯の従属性・共同性 (2020/4/1訂正,タテ2.など) - 140字法律学

 

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略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)

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