ミニマム法律学

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刑法における責任,違法の意識

*責任および違法の意識について(1180字,一部,自分なりの表現含む)

1.前提事項

 犯罪とは、構成要件に該当する違法で有責な行為をいう。

 構成要件とは違法行為の類型であると解する(結果無価値論系の考え方。他の見解は省略)。

 

2.責任の意義

 責任は、非難可能、すなわち、規範意識を働かせれば当該行為を行うことなく他の行為を行うことができたであろう(他行為可能性があった)にも関わらず、当該構成要件該当・違法行為にでたことを非難できるということを意味する

 このように、責任は規範的評価に基づくものであるが(規範的責任論)、その判断対象である行為者の内面の心理的事実が何であったかを明確することが重要である。

 

3.責任の要素

 責任要件として、故意(犯罪事実の認識・予見)と過失(犯罪事実の認識可能性・予見可能性)とがある。したがって、責任は、故意責任形式と過失責任形式に分けることができる。

 期待可能性違法の意識の可能性責任能力は、責任阻却事由にあたると考える。

 

4.違法の意識(違法性の意識)

 故意が認められれば、通常、違法の意識に達していたと考えられるので、行為者が自己の違法を意識していなくとも、故意犯としての責任を問える(38条3項本文参照)。

 ただ、違法の意識に達しないことに相当の理由がある、すなわち、違法の意識の可能性すらない場合には、責任が阻却され刑が減軽されると解する(同条項ただし書。責任説)。なお、判例は故意が阻却される旨判示しているが(最大判昭44・6・25刑集23-7-975,夕刊和歌山時事事件)、厳密な意味で書かれているものではなと考える。理論的には(故意がなくなるというのではなく、)故意は認められるが(その上位概念たる)責任が阻却されると解すべきである。

 なお、違法の意識ないしその可能性がない場合には、上位概念たる責任ではなく、故意そのものが阻却されるとする見解を、故意説という。違法の意識ないしその可能性を、故意の要素(要件または阻却事由)と考える訳である。

 

5.責任説の分枝

 そして、責任説中、故意の認識対象は、構成要件該当事実違法性阻却事由の不存在とする見解を、制限責任説と呼ぶ。

 これに対して、違法性阻却事由の不存在の認識を、責任の要素(責任阻却事由)とする見解を、厳格責任説と呼ぶ。

 

6.それぞれの見解のまとめ

(1) 上位概念として責任が存在し、その下位概念中、故意と過失が責任要件であり、期待可能性、違法の意識の可能性、責任能力などが責任阻却事由と解するのが制限責任説である。

 故意の認識対象を構成要件該当事実に限り、違法性阻却事由の不存在の認識も責任阻却事由とするのが厳格責任説である。

(2) 故意説は、構成要件該当事実の認識(故意の阻却事由)と共に、違法の意識ないし違法の意識の可能性(故意阻却事由)を、故意の要素とする。この見解では、違法性阻却事由の不存在の認識を責任故意とするようである。

 なお、厳格故意説と制限故意説の違いについては省略。

 

 以上 ©2020@right_droit

 

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*責任全般に関する参照文献ダイジェスト(全角140字×3文)

◇責任の構造
刑法218/ 平野龍一『刑法概説』(1977年)の責任(S)理解。
#犯罪とは_構成要件に該当する違法で有責な行為。
構成要件(TB)は,#違法行為の類型。
犯罪成立の一般的要件(原則的要件),#TB該当性とS要件をみたし(犯罪類型),犯罪阻却事由たる,#違法性阻却事由とS阻却事由がなければ,犯罪成立。
https://twitter.com/right_droit3/status/1167804270642511873?s=20
[同書27頁,28頁,33頁,47頁,71頁,91頁,『刑法 総論Ⅰ』(1972年)105頁,『刑法 総論Ⅱ』(1975年)209頁,など参照]

◇責任の意義
刑法265/ TBに該当しRwな行為も,それを行ったことに責任(S)なければ,犯罪成立を認め得ない(責任主義)。刑罰の付科には,非難という特別の意味があり,#非難可能性としてのS要。こうした非難を基礎づけるのが他行為可能性で,#規範意識を働かせていれば_当該TB該当・Rw行為にでなかっただろうということを意味する。
[山口『刑法総論』3版(2016年)195頁-196頁参照]

◇規範的責任論
刑法266/ 責任の内容として重要なのは,#行為にでるべきではなかったという規範的評価(非難)であり,故意・過失に共通する(規範的責任論)。他に,期待可能性や違法性の意識なども,責任の要素。but,#責任評価は_その判断対象たる行為者の内面に存した心理的事実の上に形成されるので,それを明確にすることを要する。
[山口『刑法総論』3版(2016年)197頁参照]


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*違法の意識(違法性の意識)に関する参照文献ダイジェスト(全角140字×5文)

◇違法の意識
刑法4/ 故意が認められれば、通常は違法の意識に達していたと考えられるので、自己の行為の違法を意識してなくとも、故意犯としての責任を問われる(#刑法38条3項本文)。ただ、違法の意識に達しないことに相当な理由がある、違法の意識の可能性すらない場合、責任が阻却され刑が減軽される(ただし書)。
[平野『刑法概説』92頁参照。いわゆる制限責任説。
 最大判昭44・6・25刑集23-7-975(夕刊和歌山事件)は、このような場合には、「犯罪の故意がな」いとするが、故意が認められた上での、情状に関することであるから、表現としては妥当でない。
 判例は厳密な意味で「故意がな」いと書いているのではない、いわゆる(制限)故意説(平野・概説94頁説明参照)をとったものではないと考える。
 大越『刑法各論』3版89頁説明(判例=制限故意説?)参照。]

◇違法の意識の可能性
刑法126/ 刑法38条3項は,自己の行為が違法だと認識していなくとも,犯罪事実の認識あれば,故意責任を問いうる旨規定(法の不知は恕せず)。情状により,刑の減軽あり。しかし,違法だと知らなかったことに相当な理由があり,そのことに過失なき場合(#違法の意識の可能性なき場合),非難できず,責任を問えないと解する。
[平野『刑法概説』92頁参照。違法性の意識の可能性必要説]

刑法127/ 故意犯成立に違法の意識を要するとする見解を,故意説,#違法の意識の可能性あれば,故意の責任を問えるという見解を,責任説という。#違法の意識の可能性は_故意_過失に共通の_かつ_別個の責任要素(責任阻却事由)で,#違法性阻却事由不存在は_構成要件該当事実と同様_故意の認識対象と解する(制限責任説)。
[平野『刑法概説』94頁-95頁,77頁-78頁参照。
 なお,司法協会『刑法総論講義案』三訂補訂版は,違法性の意思の可能性がなければ,(責任)故意を阻却すると解している。
 平野先生のとる制限責任説との違いは,違法性の意識の可能性がなければ,故意を阻却するか(刑法総論講義案),故意の上位概念である責任を阻却するか(刑法概説),である。山口教授も制限責任説をとられる(『刑法総論』3版266頁-268頁参照)。]

◇故意説と責任説
刑法208/ #故意犯が成立するためには違法性の意識が必要とする見解は故意説と呼ばれる。これは,違法の意識を故意の概念固有の要素とする。
#違法の意識の可能性あれば,故意責任を問えるとする見解は責任説と呼ばれる。違法の意識の可能性を,故意・過失とは別の責任の要素たる #責任阻却事由と解するわけである。
[平野『刑法概説』95頁参照]

◇厳格責任説と制限責任説
刑法209/ 厳格責任説:構成要件該当事実の認識だけが故意の要素。違法阻却事由の認識の有無は,#違法性の意識の有無と同じく責任阻却事由。違法阻却事由の不存在を認識しなかったことに相当な理由があった,過失がなかったときに,責任阻却。
制限責任説:#構成要件該当事実と違法阻却事由不存在の認識が故意の要素。
[平野『刑法概説』95頁参照]
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略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)。R01:論文令元年。
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*故意に関する参照文献ダイジェスト(16文)

https://right-droit.hatenablog.com/entry/2019/11/29/235929