140字法律学

法律書等を読んで,理解し覚えられるように140字以内にまとめています。

犯罪事実の認識・予見(認識説)

*行為者が処罰されるためには、犯罪事実をどのように捉えている必要があるか(故意の内容)(1050字)

 

 故意とは犯罪事実の認識をいうと解する。行為以前においては、認識ではなく、厳密にいえば予見である。これに対して故意の内容として、犯罪の認識(予見)、プラス、認容も必要とする見解があるが、妥当ではない。認容という意思的な態度ないし要素については、それは行為にでる意思(行為意思)であって、行為の要素にすでに含まれているからである。(なお、この行為意思を超えてさらに意欲的ないし情緒的な態度・要素としての認容まで要求することは、行為者の悪しき性格を根拠に、認識内容をとくに問わないまま故意が認められることになりかねず、不当である。)

[山口『刑法総論』3版(2016年)215頁(最判昭23・3・16刑集2-3-227),43頁注15など,平野『刑法概説』(1977年)82頁,参照]

 

1.問題の所在(略)

 

2.実行行為について

(1) 殺人罪の実行行為とは、生命侵害の現実的危険性のある、正犯の行為をいう。

(2) ナイフという殺傷能力の高い凶器が使用され、腹部という多数の臓器が存在する人体の枢要部(部位)を、切りつけるより深い傷を負わせることのできる指すという方法を用い、それを3回も行っていることから、生命侵害の危険性が高く、さらに、Vは大量に出血し意識を失っていることから、刺突行為の程度がいかに激しかったかを物語っている。このことから、乙が自らの意思で行ったV刺突行為には、生命侵害の現実的危険性が認められる。

 また、この行為により、V死亡という構成要件的結果惹起の原因が支配されており、乙に正犯性も認められる。

(3) したがって、乙のV刺突行為は、殺人罪の実行行為にあたる。

 

3.結果の発生、因果関係(など、略)

 

4.故意について

(1) 故意とは犯罪事実の認識・予見をいう。犯罪事実とは違法性を基礎づける事実であり、違法性を基礎づける点で原則にあたる構成要件該当事実と、例外としての違法性阻却事由、その不存在の事実が、犯罪事実にあたる。故意があるというためには、その双方の事実の認識を要する。

(2) 本件では、前述のように、乙は自らの意思(行為意思)で殺人罪の実行行為を行っており、殺人罪の実行行為を行うという構成要件該当事実の認識が認められる。

 また(本件では)、違法性阻却事由に関する事由は存在しないので、乙に、違法性阻却事由が存在しないという事実の認識があるといえる。

(3) したがって、乙に、V殺害についての犯罪事実の認識・予見、すなわち故意が認められる。

 

5.罪数(など、略)

[大塚裕史・受験新報799号(2017年9月)109頁;山口『刑法総論』3版(2016年)68頁,51頁,平野『刑法概説』(1977年)78頁など,参照]

以上 2020©right_droit

  

 

*以下,故意の認識内容について、参照文献を短くまとめました(出典等の部分を除き,140字×5ヶ=700字)

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◇犯罪事実のどのような認識が必要か(故意の認識内容)
[・行為とは意思にもとづく身体の動静であり、意思的な要素は、行為概念のなかにある。故意は、その意思の内容は何かという問題である。
自己の行為の結果として人が死ぬであろうことを認識・予見したときは、これを、行為を思いとどまる動機にしなければならない。それにもかかわらず、思いとどまる動機とせず、その行為をしたことを非難するのである(認識説=動機説)。
結果の発生を認識しながら、あえてでなく、行為に出るということはありえない。いいかえると、認識しながら行為にでたときは常に故意がある。とくに認容という(情緒的な)概念が必要というわけではない。]

◇故意の認識内容(認識説=動機説)
刑法63/ 行為は意思にもとづく身体の動静。意思的な要素も含む。故意は,その意思の内容は何かという問題。自己の行為の結果として人が死ぬであろうことを認識・予見したときは,#行為を思いとどまる動機にしなければならない。にもかかわらず,#思いとどまる動機とせず,行為したことを非難するのである(動機説)。
[平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)185頁参照]

◇認識説(動機説)
刑法228/ 故意を認めるために意思的要素を要するとしても,それは,行為に出る意思たる行為意思であり,故意の要素ではなく,行為の要素として既に行為認定時に考慮済。#故意の有無にとっては行為者の認識内容が問題であり(認識説),TB実現が行為者の意識内に浮かんだが,それを否定しつつ行為にでたときも,故意あり。
[山口『刑法総論』3版43頁注15,214頁-215頁参照。
・いわゆる認容説では,故意を認めるためには,認容という意思的態度(意思的要素)が必要だとする。この見解によると,構成要件の実現が一旦は行為者の意識内に浮かんだが,それを否定しつつ行為にでた場合には,故意そのものではなく,未必の故意として故意責任が認められるようであるが,平野教授・山口教授のとられる認識説(動機説)によると,その場合も端的に故意ありとされるようである。平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)186頁-187頁も参照。
 認識説(動機説)の方がよりシンプルでわかりやすいと,私は思います。]

◇凶器の種類・用法,創傷の部位・程度(客観的な情況証拠の積み重ね)
刑法229/ 故意につき認容説に基づけば,意思的要素まで認定要。殺人の故意の認定では,①どのような凶器を使用したか(凶器の種類),②それをどのように使ったか(用法),③身体のどの部位に,どの程度の創傷を負わせたか(創傷の部位と程度)が重要という。but,これは,#実行行為に生命侵害の現実的危険性があるかの問題?
[大塚裕史『ロースクール演習 刑法』2版(2013年)6頁,受験新報799号(2017年9月)109頁,山口『刑法総論』3版214頁-215頁,参照]

殺人罪の実行行為
[・殺人罪の実行行為は、生命侵害の現実的危険性のある行為をいう。
 本件では、ナイフという殺傷能力の高い凶器が使用されており、創傷の部位は、腹部という多数の臓器が存在する人体の枢要部である。切りつけるより深い傷を負わせることのできる、刺すという方法を用い、それを3回も行っていることから、生命侵害の危険性が高い。さらに、Vは大量に出血し意識を失っていることから、刺突行為がいかに激しかったかを物語っている(創傷の程度)。
 したがって、乙のV刺突行為は、生命侵害の危険性の高い行為であり、(傷害罪ではなく)殺人罪の実行行為にあたる。]

刑法61/ 殺人罪の実行行為は,生命侵害の現実的危険性ある行為。
本件で,ナイフという殺傷能力の高い凶器が使用され,創傷部位は,#腹部という人体の枢要部。深い傷を負わせられる,#刺すという方法を用い,それを3回も行っている。さらに,Vは大量出血し意識を失っていることから,#刺突行為の激しさがわかる(程度)。
[大塚裕史・受験新報799号(2017年9月)109頁参照。→したがって,乙のV刺突行為は,生命侵害の危険性の高い行為であり,(傷害罪ではなく)殺人罪の実行行為にあたる。殺人罪の実行行為(正犯性の認められる行為者の行為)。]

殺人罪の実行行為性
刑法233/ Aが高速度走行する車から転落すれば相当の衝撃を受けること,頭を強打すれば死亡する危険が高いこと,市内の国道上なので深夜とはいえある程度,交通量があり,路上転落により他車に轢かれる可能性も少なくないこと等を考えると,甲の行為は,Aの生命に対する高度の危険をもった行為,#殺人の実行行為性あり
[『刑法事例演習教材』初版(2009年)有斐閣〔1〕ボンネットの上の酔っぱらい 3頁参照。R23①]

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略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)
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故意

*故意について(1364字)

1.犯罪が成立するためには、構成要件(TB)に該当し、違法性(Rw)阻却事由に該当せず、責任(S)要件をみたし、かつ、責任阻却事由に該当しないことが必要である。

  故意は、責任の領域に属し、犯罪事実の認識を指す。条文上は38条1項で「罪を犯す意思」と規定されている。犯罪事実とは、違法性を基礎づける事実である。故意があるというためには、違法性を基礎づける点で原則である構成要件と、その例外である違法性阻却事由が存在しないこと、その双方についての認識を要する。

 

2.故意は基本的に3つに分けられる。①犯罪事実実現を意図する場合(結果を意図した場合)、②それを確定的なものとして認識・予見する場合(結果の発生が確実だと思った場合、確定的故意)、③犯罪事実実現の蓋然性を認識・予見している場合(結果が発生しないことを信頼していなかった、すなわち、結局において結果が発生すると思っていた場合未必の故意)の3つである。

 ①では、結果発生の可能性が小さかったとしても、構成要件的故意に因果関係を有する結果が発生したか、発生する可能性があれば、(結果を意図した)故意による故意犯(既遂犯または未遂犯)が成立しうる。遠くにいる人を銃で狙い射ったときは、当たる可能性が小さくとも、構成要件的行為(銃の引き金を引いた行為)と因果関係のある結果(殺害)が発生しうる訳であるから、故意は認められる。

 ②では、いかにその発生を嫌い回避したいと思っていたとしても、故意ありといえる(確定的故意)。

 ③と故意・過失の分水嶺を画する概念である認識のある過失は、結果の発生が可能だと考えたにもかかわらず、それが発生しないと(不注意で)信頼した場合をいう。

 なお、故意とは犯罪事実の認識であるが、当然のことながら犯罪事実の実行前の段階においては、犯罪事実自体はまだ実行されていない訳であるから、その認識ではなく、予見ということになる。

 

3.(1) 行為者に認識・予見された構成要件該当は、何も特定されたものでなくともよく、一定の概括的なもので足りるとされる。この場合の故意を概括的故意という。

 例えば、A殺害のため、留守中に鉄瓶の湯に毒薬を投入し、Aほか3名が飲んだが、味がおかしいのでやめたので、殺害に至らなかった場合に、Aに対して意図した故意が認められるが、殺害を意図しなかった他の家人に対しても、その家人が飲むことの予見があれば、故意(未必の故意)ありといえる。この場合の故意が概括的故意であり、実際に飲んだ人数に応じた故意犯(未遂罪)が、複数成立する。

(2) 複数の被害者のいづれかに結果が発生することを認識しながら行為性要件的行為を行った場合の故意を、択一的故意という。

 パーティー会場でABに一緒に出されうるグラスの一方だけ致死量の毒薬を混入するような場合である。一方に対して択一的な確定的故意があるといえる。この場合、前述の概括的故意とは異なり、もともとの故意の個数は1つである。しかし、この場合も、複数の故意犯が成立する(既遂犯と未遂犯)。これは、未遂犯概念の特性によるものであり、未遂犯の故意(犯罪事実の認識)は、既遂結果は発生していない場合であり、既遂の可能性があれば足りるといえるからである。

 1つの故意で複数の故意犯が成立しうるのは、未遂犯に限られる。1つの故意で複数の未遂犯も成立しうる。

 

以上 2020©right_droit

 

 

*以下,故意の認識対象,認識内容,故意と過失の違いなどについて,参考にした文献を短くまとめています(出典等の部分を除き,140字×16ヶ=2240字)
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◇故意の認識対象(平野説)
刑法3/ 故意とは「罪を犯す意思」(#刑法38条1項)すなわち犯罪事実の認識をいう。犯罪事実とは行為の違法性を基礎づける事実である。違法性を基礎づける点で構成要件が原則、違法性阻却事由が例外であり、故意があるというためには、構成要件該当事実、違法性阻却事由の不存在の双方の認識が必要である。
[平野『刑法概説』75,78頁参照]

◇故意の体系的位置づけ(団藤説)
刑法13/ 「罪を犯す意思」(#刑法38条1項、故意)は、故意犯の構成要件(構成要件的故意)かつ責任要素である。犯罪事実の表象・認容が認められれば、構成要件該当性・有責性が基礎づけられ、犯罪事実の表象・認容を欠けば、構成要件該当性そのものが阻却される。期待可能性がなければ、責任が阻却される。
[団藤『刑法綱要総論』290、291頁参照。
 故意(mens rea)=構成要件(TB)・責任要素(S)。
 そもそも故意は、責任(S)の領域の問題である。しかし、小野博士(団藤綱要134頁参照)・団藤教授は、故意は構成要件かつ責任要素であるとする。もっとも構成要件としての故意は、それを主観的・客観的な全体として考察した『違法類型』としての『客観的構成要件要素』と見ているようである(同頁参照)。さらに、この構成要件的故意(構成要件としての故意)は、責任要素の定型化としての意味も持ち、『有責類型』でもあるとされる(同書136~138頁参照)。]

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◇犯罪事実のどのような認識が必要か(故意の認識内容)
[・行為とは意思にもとづく身体の動静であり、意思的な要素は、行為概念のなかにある。故意は、その意思の内容は何かという問題である。
自己の行為の結果として人が死ぬであろうことを認識・予見したときは、これを、行為を思いとどまる動機にしなければならない。それにもかかわらず、思いとどまる動機とせず、その行為をしたことを非難するのである(認識説=動機説)。
結果の発生を認識しながら、あえてでなく、行為に出るということはありえない。いいかえると、認識しながら行為にでたときは常に故意がある。とくに認容という(情緒的な)概念が必要というわけではない。]

◇故意の認識内容(認識説=動機説)
刑法63/ 行為は意思にもとづく身体の動静。意思的な要素も含む。故意は,その意思の内容は何かという問題。自己の行為の結果として人が死ぬであろうことを認識・予見したときは,#行為を思いとどまる動機にしなければならない。にもかかわらず,#思いとどまる動機とせず,行為したことを非難するのである(動機説)。
[平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)185頁参照]

◇認識説(動機説)
刑法228/ 故意を認めるために意思的要素を要するとしても,それは,行為に出る意思たる行為意思であり,故意の要素ではなく,行為の要素として既に行為認定時に考慮済。#故意の有無にとっては行為者の認識内容が問題であり(認識説),TB実現が行為者の意識内に浮かんだが,それを否定しつつ行為にでたときも,故意あり。
[山口『刑法総論』3版43頁注15,214頁-215頁参照。
・いわゆる認容説では,故意を認めるためには,認容という意思的態度(意思的要素)が必要だとする。この見解によると,構成要件の実現が一旦は行為者の意識内に浮かんだが,それを否定しつつ行為にでた場合には,故意そのものではなく,未必の故意として故意責任が認められるようであるが,平野教授・山口教授のとられる認識説(動機説)によると,その場合も端的に故意ありとされるようである。平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)186頁-187頁も参照。
 認識説(動機説)の方がよりシンプルでわかりやすいと,私は思います。]

◇凶器の種類・用法,創傷の部位・程度(客観的な情況証拠の積み重ね)
刑法229/ 故意につき認容説に基づけば,意思的要素まで認定要。殺人の故意の認定では,①どのような凶器を使用したか(凶器の種類),②それをどのように使ったか(用法),③身体のどの部位に,どの程度の創傷を負わせたか(創傷の部位と程度)が重要という。but,これは,#実行行為に生命侵害の現実的危険性があるかの問題?
[大塚裕史『ロースクール演習 刑法』2版(2013年)6頁,受験新報799号(2017年9月)109頁,山口『刑法総論』3版214頁-215頁,参照]

殺人罪の実行行為
[・殺人罪の実行行為は、生命侵害の現実的危険性のある行為をいう。
 本件では、ナイフという殺傷能力の高い凶器が使用されており、創傷の部位は、腹部という多数の臓器が存在する人体の枢要部である。切りつけるより深い傷を負わせることのできる、刺すという方法を用い、それを3回も行っていることから、生命侵害の危険性が高い。さらに、Vは大量に出血し意識を失っていることから、刺突行為がいかに激しかったかを物語っている(創傷の程度)。
 したがって、乙のV刺突行為は、生命侵害の危険性の高い行為であり、(傷害罪ではなく)殺人罪の実行行為にあたる。]

刑法61/ 殺人罪の実行行為は,生命侵害の現実的危険性ある行為。
本件で,ナイフという殺傷能力の高い凶器が使用され,創傷部位は,#腹部という人体の枢要部。深い傷を負わせられる,#刺すという方法を用い,それを3回も行っている。さらに,Vは大量出血し意識を失っていることから,#刺突行為の激しさがわかる(程度)。
[大塚裕史・受験新報799号(2017年9月)109頁参照。→したがって,乙のV刺突行為は,生命侵害の危険性の高い行為であり,(傷害罪ではなく)殺人罪の実行行為にあたる。殺人罪の実行行為(正犯性の認められる行為者の行為)。]

殺人罪の実行行為性
刑法233/ Aが高速度走行する車から転落すれば相当の衝撃を受けること,頭を強打すれば死亡する危険が高いこと,市内の国道上なので深夜とはいえある程度,交通量があり,路上転落により他車に轢かれる可能性も少なくないこと等を考えると,甲の行為は,Aの生命に対する高度の危険をもった行為,#殺人の実行行為性あり。
[『刑法事例演習教材』初版(2009年)有斐閣〔1〕ボンネットの上の酔っぱらい 3頁参照。R23①]

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◇故意と過失のヴァリエーション
刑法230/ 故意:①#犯罪事実実現を意図する場合,②それを確定的なものとして認識・予見する場合(#確定的故意),③#その蓋然性の認識・予見のある場合(未必の故意)。過失(犯罪事実の認識・予見の可能性ある場合):①犯罪事実が一旦は行為者の意識に上がったがそれを否定した場合,②行為者意識に上がらなかった場合。
[山口『刑法総論』3版214頁,平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)187頁,参照。
・故意:①意図,②確定的故意,③未必の故意。過失:①認識ある過失,②認識なき過失。]

◇二種類の確定的故意
[・確定的故意には二種類のものがある。一つは、結果を意図した場合であり、今一つは、結果の発生が確実だと思った場合である。結果を意図したときは、その発生の可能性が小さい場合でも(因果関係がない場合は別)、故意がある。たとえば、遠くにいる人を銃で狙って射ったときは、当たる可能性が小さい時でも殺人の故意がある。他方、結果の発生が確実であるときは、いかにその発生を嫌い、これを回避したいと思っていたとしても、故意がある。たとえば、保険金をとろうとして家に放火したとき、家の中に寝ている病人が焼死することは確実だと思っていたとすれば、いかにこれを嫌う人格態度を示していたとしても、やはり殺人の故意があるといわざるをえない。]

刑法65/ 確定的故意には,①#結果を意図した場合,②#結果発生が確実だと思った場合あり。①では,その発生可能性が小さくても(因果関係ない場合,別),故意あり。遠くにいる人を銃で狙い射ったときは,当たる可能性小さくても殺人の故意あり。②では,いかにその発生を嫌い回避したいと思っていたとしても,故意あり。
[平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)187頁参照。二種類の確定的故意]

◇故意と過失の分水嶺(認識説による)
[・故意と過失とには、質的な差がある。蓋然的であるか可能であるかという判断は、一般的な判断であるが、具体的な当該事件では、結果は発生するかしないかのどちらかであって、その中間は存在しない。したがって行為者も、一応は、結果発生の蓋然性がある、あるいは可能性があると考えたとしても、結局においては、結果が発生するであろうという判断か、結果は発生しないであろうという判断かのどちらかに到達しているものと考えることができる。このような意味での犯罪事実の認識の有無が、故意と過失との限界をなす。]

刑法64/ 故意と過失の差は質的。具体的当該事件では,結果発生・不発生のどちらか。行為者は,一応は,結果発生の蓋然性・可能性があると考えたとしても,#結局_結果が発生するだろうという判断か_結果は発生しないだろうという判断かどちらかに到達。このような意味での犯罪事実の認識の有無が,故意・過失の限界。
[平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)187頁参照]

◇認識のある過失
[・認識のある過失とは、結果の発生が可能だと考えたにもかかわらず、それが発生しないと信頼した場合をいう(ドイツ刑法,1956年総則草案17条参照)。未必の故意は、結果が発生しないと信頼はしなかった、すなわち、結局において発生すると思った場合をいう(同1962年草案参照)。
認識のある過失も、結局は結果の不認識と不注意にその本質があるといえる。したがって、認識のない過失と全く性質の違ったものとしての認識のある過失(結果の発生を認識しながら、認容しなかった場合=不注意という要素がない)というものは、存在しない。それはただ、一応、結果の発生が可能だと考えたが、結局は否定したという場合にすぎない。]

刑法66/ 認識のある過失は,#結果発生が可能だと考えたにもかかわらず_それが発生しないと信頼した場合。未必の故意は,#結果が発生しないと信頼せず_発生すると思った場合。前者は,結果不認識と不注意が本質。結果発生を認識しながら,認容しなかった場合ではない。結果発生可能だと考えたが,結局,否定した場合。
[平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)188頁-189頁参照。認識のある過失と未必の故意との違い(認識説,動機説)]

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◇故意の構成要件関連性
刑法231/ メタノール所持・販売処罰の罰則適用にあたり,行為者にはメタノールたることの認識が必要で,単に身体に対する有害性の認識があったのでは足りない。もっとも,覚せい剤輸入・所持事案で,#覚せい剤たることの可能性が行為者の認識から排除されていなければよいとし,TB該当事実の認識が緩やかに解された。
[山口『刑法総論』3版202頁(最判昭24・2・22刑集3-2-206,最決平2・2・9刑集1341-157)参照]

◇概括的故意
232/ 行為者に認識・予見されたTB該当事実は,特定されたものでなく,一定の概括的なものも可(#概括的故意)。たとえば,A殺害のため,留守中に鉄瓶の湯に毒薬を投入,Aほか3名が飲んだが,味がおかしいので飲むのをやめ,殺害に至らなかった場合,家人も飲む予見あれば,#実際に飲んだ人数に応じ故意犯(未遂罪)成立。
[山口『刑法総論』3版203頁(大判大6・11・9刑録23-1261)参照]

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◇規範的構成要件要素の認識の問題
刑法212/ TBの認識のために規範的判断を要するものがある(#規範的TB要素)。行為者に規範の正しい当てはめ,すなわち,高度の法的知識が求められるわけではないが,裸の自然的事実の認識以上の,#意味の認識が要求される。意味の認識あれば,故意犯成立は否定されず,違法の意識の可能性を欠く場合にのみ否定されうる。
[山口『刑法総論』3版204頁-206頁参照]

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◇択一的故意
刑法9/ 母と妻からこもごも小言を言われ酒癖の悪いXは憤懣やる方なく、囲炉裏の反対側の両人めがけ憤激の余り本件鈎吊し(かぎつるし)を振りつけ、母Bの前頭部にあてたものである。Xは両人のいずれかにあたることを認識しながらこれを振ったのであり、その暴行はいわゆる択一的故意によるといえる。#刑法
[東京高判昭35・12・24下刑集2-11・12-1365『判例ラクティス』刑法Ⅰ総論〔90〕参照]

◇択一的故意と故意の個数(未遂概念の特性)
刑法10/ パーティー会場でABに一緒に出されるグラスの一方だけ致死量の毒薬を混入するような、いわゆる択一的殺意ある場合、1個の故意(殺意)で複数の故意犯(既遂犯と未遂犯)成立を肯定できる。既遂の可能性で足りる未遂概念の特性による。併存しうるのは未遂犯に限られ、未遂罪二罪も成立しうる。#刑法
[山口『刑法総論』2版211頁参照]

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略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)
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刑法における責任,違法の意識

*責任および違法の意識について(1180字,一部,自分なりの表現含む)

1.前提事項

 犯罪とは、構成要件に該当する違法で有責な行為をいう。

 構成要件とは違法行為の類型であると解する(結果無価値論系の考え方。他の見解は省略)。

 

2.責任の意義

 責任は、非難可能、すなわち、規範意識を働かせれば当該行為を行うことなく他の行為を行うことができたであろう(他行為可能性があった)にも関わらず、当該構成要件該当・違法行為にでたことを非難できるということを意味する

 このように、責任は規範的評価に基づくものであるが(規範的責任論)、その判断対象である行為者の内面の心理的事実が何であったかを明確することが重要である。

 

3.責任の要素

 責任要件として、故意(犯罪事実の認識・予見)と過失(犯罪事実の認識可能性・予見可能性)とがある。したがって、責任は、故意責任形式と過失責任形式に分けることができる。

 期待可能性違法の意識の可能性責任能力は、責任阻却事由にあたると考える。

 

4.違法の意識(違法性の意識)

 故意が認められれば、通常、違法の意識に達していたと考えられるので、行為者が自己の違法を意識していなくとも、故意犯としての責任を問える(38条3項本文参照)。

 ただ、違法の意識に達しないことに相当の理由がある、すなわち、違法の意識の可能性すらない場合には、責任が阻却され刑が減軽されると解する(同条項ただし書。責任説)。なお、判例は故意が阻却される旨判示しているが(最大判昭44・6・25刑集23-7-975,夕刊和歌山時事事件)、厳密な意味で書かれているものではなと考える。理論的には(故意がなくなるというのではなく、)故意は認められるが(その上位概念たる)責任が阻却されると解すべきである。

 なお、違法の意識ないしその可能性がない場合には、上位概念たる責任ではなく、故意そのものが阻却されるとする見解を、故意説という。違法の意識ないしその可能性を、故意の要素(要件または阻却事由)と考える訳である。

 

5.責任説の分枝

 そして、責任説中、故意の認識対象は、構成要件該当事実違法性阻却事由の不存在とする見解を、制限責任説と呼ぶ。

 これに対して、違法性阻却事由の不存在の認識を、責任の要素(責任阻却事由)とする見解を、厳格責任説と呼ぶ。

 

6.それぞれの見解のまとめ

(1) 上位概念として責任が存在し、その下位概念中、故意と過失が責任要件であり、期待可能性、違法の意識の可能性、責任能力などが責任阻却事由と解するのが制限責任説である。

 故意の認識対象を構成要件該当事実に限り、違法性阻却事由の不存在の認識も責任阻却事由とするのが厳格責任説である。

(2) 故意説は、構成要件該当事実の認識(故意の阻却事由)と共に、違法の意識ないし違法の意識の可能性(故意阻却事由)を、故意の要素とする。この見解では、違法性阻却事由の不存在の認識を責任故意とするようである。

 なお、厳格故意説と制限故意説の違いについては省略。

 

 以上 ©2020@right_droit

 

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*責任全般に関する参照文献ダイジェスト(全角140字×3文)

◇責任の構造
刑法218/ 平野龍一『刑法概説』(1977年)の責任(S)理解。
#犯罪とは_構成要件に該当する違法で有責な行為。
構成要件(TB)は,#違法行為の類型。
犯罪成立の一般的要件(原則的要件),#TB該当性とS要件をみたし(犯罪類型),犯罪阻却事由たる,#違法性阻却事由とS阻却事由がなければ,犯罪成立。
https://twitter.com/right_droit3/status/1167804270642511873?s=20
[同書27頁,28頁,33頁,47頁,71頁,91頁,『刑法 総論Ⅰ』(1972年)105頁,『刑法 総論Ⅱ』(1975年)209頁,など参照]

◇責任の意義
刑法265/ TBに該当しRwな行為も,それを行ったことに責任(S)なければ,犯罪成立を認め得ない(責任主義)。刑罰の付科には,非難という特別の意味があり,#非難可能性としてのS要。こうした非難を基礎づけるのが他行為可能性で,#規範意識を働かせていれば_当該TB該当・Rw行為にでなかっただろうということを意味する。
[山口『刑法総論』3版(2016年)195頁-196頁参照]

◇規範的責任論
刑法266/ 責任の内容として重要なのは,#行為にでるべきではなかったという規範的評価(非難)であり,故意・過失に共通する(規範的責任論)。他に,期待可能性や違法性の意識なども,責任の要素。but,#責任評価は_その判断対象たる行為者の内面に存した心理的事実の上に形成されるので,それを明確にすることを要する。
[山口『刑法総論』3版(2016年)197頁参照]


―――――

*違法の意識(違法性の意識)に関する参照文献ダイジェスト(全角140字×5文)

◇違法の意識
刑法4/ 故意が認められれば、通常は違法の意識に達していたと考えられるので、自己の行為の違法を意識してなくとも、故意犯としての責任を問われる(#刑法38条3項本文)。ただ、違法の意識に達しないことに相当な理由がある、違法の意識の可能性すらない場合、責任が阻却され刑が減軽される(ただし書)。
[平野『刑法概説』92頁参照。いわゆる制限責任説。
 最大判昭44・6・25刑集23-7-975(夕刊和歌山事件)は、このような場合には、「犯罪の故意がな」いとするが、故意が認められた上での、情状に関することであるから、表現としては妥当でない。
 判例は厳密な意味で「故意がな」いと書いているのではない、いわゆる(制限)故意説(平野・概説94頁説明参照)をとったものではないと考える。
 大越『刑法各論』3版89頁説明(判例=制限故意説?)参照。]

◇違法の意識の可能性
刑法126/ 刑法38条3項は,自己の行為が違法だと認識していなくとも,犯罪事実の認識あれば,故意責任を問いうる旨規定(法の不知は恕せず)。情状により,刑の減軽あり。しかし,違法だと知らなかったことに相当な理由があり,そのことに過失なき場合(#違法の意識の可能性なき場合),非難できず,責任を問えないと解する。
[平野『刑法概説』92頁参照。違法性の意識の可能性必要説]

刑法127/ 故意犯成立に違法の意識を要するとする見解を,故意説,#違法の意識の可能性あれば,故意の責任を問えるという見解を,責任説という。#違法の意識の可能性は_故意_過失に共通の_かつ_別個の責任要素(責任阻却事由)で,#違法性阻却事由不存在は_構成要件該当事実と同様_故意の認識対象と解する(制限責任説)。
[平野『刑法概説』94頁-95頁,77頁-78頁参照。
 なお,司法協会『刑法総論講義案』三訂補訂版は,違法性の意思の可能性がなければ,(責任)故意を阻却すると解している。
 平野先生のとる制限責任説との違いは,違法性の意識の可能性がなければ,故意を阻却するか(刑法総論講義案),故意の上位概念である責任を阻却するか(刑法概説),である。山口教授も制限責任説をとられる(『刑法総論』3版266頁-268頁参照)。]

◇故意説と責任説
刑法208/ #故意犯が成立するためには違法性の意識が必要とする見解は故意説と呼ばれる。これは,違法の意識を故意の概念固有の要素とする。
#違法の意識の可能性あれば,故意責任を問えるとする見解は責任説と呼ばれる。違法の意識の可能性を,故意・過失とは別の責任の要素たる #責任阻却事由と解するわけである。
[平野『刑法概説』95頁参照]

◇厳格責任説と制限責任説
刑法209/ 厳格責任説:構成要件該当事実の認識だけが故意の要素。違法阻却事由の認識の有無は,#違法性の意識の有無と同じく責任阻却事由。違法阻却事由の不存在を認識しなかったことに相当な理由があった,過失がなかったときに,責任阻却。
制限責任説:#構成要件該当事実と違法阻却事由不存在の認識が故意の要素。
[平野『刑法概説』95頁参照]
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略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)。R01:論文令元年。
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*故意に関する参照文献ダイジェスト(16文)

https://right-droit.hatenablog.com/entry/2019/11/29/235929

 

 

単独正犯における正犯性

正犯性について(755字)

1.(1) 正犯として構成要件(TB)的結果を惹起したと認め得るためには,構成要件的結果惹起の原因を支配したといいうること(正犯性)を要する。この正犯性(結果惹起原因の支配)は,基本的に,構成要件的結果についての十分な認識・予見をもちつつそれを直接惹起した者に認められる。この正犯性の認められる行為者の行為実行行為という。

 したがって,そのような実行行為を行う直接惹起者の背後にあって,結果惹起に間接的な原因性・因果性を有するにすぎない者には正犯性を肯定できないのが原則である。すなわち,原則として,故意行為以前に遡って結果惹起の正犯責任を追及することはできない(訴求禁止の原則)。

 

(2) もっとも,行為者の行為と構成要件的結果との間に結果を物理的に惹起する他人の行為が介在する場合に,その他人に答責性(自律性)があれば,その限りで,行為者の支配(結果惹起原因の支配)の観念が排除され,その他人自身の責任における結果惹起と評価されることになる。例えば,被害者の行為の介入事例や第三者の行為の介入事例においては,その行為が故意行為ならば,答責性(自律性)が認められ,背後の行為者の支配の観念を排除し,背後者の正犯性が否定される。すなわち,故意行為の介入の有無が,背後者の正犯性判断の重要な基準となる。

 

 背後者が,結果を物理的に直接惹起する故意行為者に強勢を加えた場合は,その故意行為者には答責性(自律性)がなく,訴求禁止原則例外として,その故意行為者の背後に位置する者(背後者)に正犯性が肯定される。

 

2.なお,単独正犯におけるこの正犯性(結果惹起原因の支配)の要件の役割は,共同正犯(60条)においては,共同性(共同実行)の要件が担っている。共犯者間に共同性が認められることにより,一次的責任類型(正犯)たり得ることになるからである。

 

以上

 ©2020@right_droit

 

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* 以下,正犯性,間接正犯(10ヶ)について,参考にした基本書等の表現を短くまとめています。ご参照下さい。

 

◇単独正犯における正犯性
刑法22/ 297/ 正犯として構成要件的結果を惹起したと認めるためには、#構成要件的結果惹起の原因を支配したといいうること(#正犯性)が必要である。正犯性は基本的に、構成要件的結果についての十分な認識・予見をもちつつそれを直接惹起した者に認められる。#正犯性の認められる行為者の行為を実行行為という。
[山口『刑法総論』3版68頁参照]

◇正犯性
刑法251/ 1184/ 単独正犯における正犯性が認められるのは,TB的結果惹起の原因を支配した場合。これは,#TB的結果について十分な認識・予見をもちつつ直接惹起した者に認められる。このような正犯性(結果惹起原因の支配)が認められる行為者の行為を実行行為という。∴原則,故意行為以前に遡って結果惹起の正犯責任追及不可。
[山口『刑法総論』3版68頁参照]

◇他人の答責性(自律性)
刑法252/ 1185/ 行為者の行為とTB的結果との間に,結果を物理的に惹起する他人の行為が介在する場合,#当該結果惹起についてその他人に答責性(自律性)があれば,その限りで行為者の支配の観念を排除する。その他人自身の責任における結果惹起と評価される。#他人の故意行為の介入の有無が,正犯性判断の重要な基準となる。
[山口『刑法総論』3版69頁参照]

ーーーーー
◇独立の3人による,致死量の3分の1の投毒
刑法261/ 1195/ 被害者を恨む3名が,他2人も同じことをするに違いないと思いながら,A,B,C順で致死量の3分の1ずつ被害者の飲み物に毒を入れ,死亡させた。
3人の行為はどれをとっても他2人の投毒に頼らねば結果発生させ得ない。but,#どれを取り除いても致死量に達し得ず_あれなければこれなし公式をみたし,条件関係あり。
[高山佳奈子『クローズアップ刑法総論』51頁参照]

◇不作為犯における因果性と正犯性
刑法262/ 1196/ 溺れかけている人を複数名が見ている場合,誰かが助ければ助かるという意味で,各人が法益の運命を左右しうる立場。⇒それぞれの立ち去りに,不作為の因果性を認め得る。
各人の間に暗黙の共犯関係あれば,1個の正犯性肯定。そうでない場合,#助かる見込みをゼロにした最後に立ち去った者にのみ正犯性肯定。
[高山佳奈子『クローズアップ刑法総論』51頁-52頁参照]

―――――
◇間接正犯
刑法21/ 296/ 被害者の自宅に宅配便で毒入り饅頭を送り、知らない被害者に食べさせて殺害する場合など、行為者の行為後に結果を直接惹起する他人の行為が介入するにもかかわらず、行為者が結果を自ら惹起したと見うるときがある(#間接正犯)。直接正犯とは事実上の違い。非身分者に身分犯の間接正犯は成立しない。
[山口『刑法総論』3版44頁参照]

◇間接正犯
刑法253/ 1186/ 間接正犯が認められるためには,TB的結果惹起の原因を支配した(#結果を直接惹起する他人の行為を_自己の犯罪実現のための道具として利用したといいうる)ことが必要。⇒利用者の行為に正犯性が肯定される。#これはTB要素であり_故意の認識対象なので,これについての事情を利用者が認識している必要あり。
[山口『刑法総論』3版70頁(最決平9・10・30刑集51-9-816)参照]

◇被害者の行為の介入
刑法254/ 1187/ 行為者の行為後,#TB的結果を瑕疵のない意思で惹起する被害者行為(意識的な自損行為・自傷行為・自殺行為)が介入した場合,間接正犯認められない。生命以外の法益については被害者意思に合致し,法益侵害性なし。後見的保護が認められる生命の場合,#法益侵害性あるが_正犯性なく,自殺関与罪のみ認め得る。
[山口『刑法総論』2版70頁-71頁参照]

◇構成要件非該当行為の介入
刑法24/ 299/ 構成要件要素たる身分や目的のない第三者の行為により構成要件的結果を生じさせた場合、第三者の行為に構成要件該当性は肯定できない。しかし、#背後者に直接正犯が成立し第三者に共同正犯ないし幇助が成立しうるので、身分なき故意ある道具・目的なき故意ある道具を利用する間接正犯とすべきでない。
[山口『刑法総論』3版73頁参照。R21①参照,80万円の横領につき,背後者甲が直接正犯,占有という身分のない乙に幇助犯が成立しうる(?)。]

◇適法行為の介入
刑法255/ 1188/ 第三者の行為によりTB該当事実を生じさせたが,#第三者の行為はRw阻却事由により処罰対象とならない場合,背後者に間接正犯成立するか。
#TB的結果惹起の支配(正犯性)を肯定する余地あり。
国際宅配便利用の大麻密輸事案で,コントロールド・デリバリーされた場合も,禁制品輸入罪(既遂)の間接正犯成立。
[山口『刑法総論』3版73頁-74頁(最決平9・10・30刑集51-9-816)参照]

 

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* 共同正犯の共同性(11ヶ)については,こちらで基本書等の表現をまとめています。ご参照下さい。→ 共犯の従属性・共同性 (2020/4/1訂正,タテ2.など) - 140字法律学

 

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略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)

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過失

*過失犯についての理解(一部私見,含む。880字)

1.過失とは,不注意,すなわち,注意義務違反をいう(結果無価値系の考え方)。この注意義務は,結果予見義務と結果回避義務とからなり,前者の義務には結果予見可能性あることが前提であり(責任の領域),後者の義務には結果回避可能性あることが前提となる(構成要件の領域)。

2.過失犯の構造も,構成要件該当性(構成要件要素, TB),違法性(違法要素Rw),有責性(責任要素,S)に分けて考えることができる。

(1) 過失犯の構成要件要素は,実質的な危険から生じ得べき結果について回避可能性があることを前提とする(結果回避義務違反)行為をいう。

(2) 行為者による,実質的危険行為が,許された危険(危険の引受けなど)にあたるときには,違法性が阻却されることになる(違法要素)。

 構成要件は違法類型であり(結果無価値系の考え方),違法性を基礎づける点で構成要件が原則,違法阻却事由が例外となる。

(3)ア.過失という不注意の内の,結果予見義務違反という不注意が,責任要素にあたる。これは,結果について具体的な予見可能性があることを前提とするが,結果と,因果関係の基本的部分についての予見可能性で足りる。

イ.行為者に認識・予見可能だった因果経過と実際の因果経過とが食い違っても,構成要件としての因果関係存在の点で両者が符合し,かつ,結果の具体的予見(予見の具体性)を担保しうる因果経過の基本的部分の予見可能性があれば足りることになる(錯誤論)。

3.具体例

 医療事故事案において,電気メス器についての接続・ダイヤル調整を行った間接介助看護師(Y)は,ケーブルの誤接続をしたまま電気手術器を作動させれば,電気手術器の作用に変調を生じさせ,本体からケーブルを経て,患者の身体に流入する電流の状態に異常を来し,結果として,患者の身体に電流作用による傷害を被らせるおそれがあるという,(結果に至る)因果関係の基本的部分についての予見可能性が認められた(厳密な文言については,判決原文をご参照下さい。札幌高判昭51・3・18高刑集29-1-78(北大電気メス事件))。

⇒結果について具体的予見可能性あり。⇒結果予見義務違反あり。⇒過失犯の責任要素をみたす。

 

以上

©2020@right_droit

 

*以下,過失に関し,基本書等の説明を要約しています(10ヶ)。ご参照下さい。
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◇明文なき過失犯処罰。結果的加重犯における重い結果
刑法判例24/ 明文なき過失犯処罰につき,関連法令や立法趣旨等からその意図が看守できる場合,判例は,法規の実効性確保等の観点から肯定。/責任主義から,結果的加重犯の成立を認めるのに,基本犯と重い結果との間の因果関係だけでなく,重い結果の発生に過失(予見可能性)が必要かにつき,判例は因果関係あれば足るする。
[『判例ラクティス 刑法Ⅰ』112 頁(順に,最決昭 57・4・2,最判昭 32・2・26)参照]

―――――
◇過失犯の構造,構成要件要素(構成要件該当性),責任要素(有責性)
刑法85/ 783/ #過失は不注意_すなわち注意義務違反。過失犯の注意義務は,結果予見義務と結果回避義務とからなる。#結果予見義務違反は予見可能性あることが前提,故意犯の故意に対応(責任要素)。過失犯の構成要件該当性は_結果回避義務違反および結果回避可能性を前提とする(故意犯の構成要件該当性もそれらが前提)。
[山口『刑法総論』3 版 246 頁参照。
 山口説,旧過失論の立場からも,過失犯の構成要件該当性について検討を要する固有の問題,すなわち,結果回避義務違反の点(この点で,危険の引受け,ないし,許された危険の法理が問題となるようである)が問題となる。この結果回避義務は,故意犯の構成要件該当性を認めるために同様に必要な前提要件といえるが,過失犯の構成要件該当性の認定と異なり,許された危険の法理は論じられない。]

◇過失犯の成立要件
[・過失犯の構成要件要素(TB): 実質的な危険があり,それが許された危険でなく,かつ結果回避可能性があることを前提とする,結果回避義務違反(実行行為),結果の発生,回避義務違反行為と結果との間の因果関係。
・過失犯の責任要素(S):結果予見義務違反=不注意=過失。
(前提たる予見可能性は,原則,高度な予見可能性を要するが,例外的にある程度まで緩やかなものまで認めざるをえない(自動車事故など類型的に予見可能性が認められる事案,管理過失の事案など)。
 構成要件該当事実に関する具体的な予見可能性。ただ,その細部に至るまでの予見可能性は必要なく,構成要件的結果および結果発生に至る因果関係の基本的部分の予見可能性で足りる。
 構成要件たる因果関係の認識・予見可能性を要するが,行為者に認識・予見可能だった因果経過と実際の因果経過とが違っても,構成要件としての因果関係存在の点で両者が符合し,かつ, 結果の具体的予見(予見の具体性)を担保しうる因果経過の基本的部分の予見可能性があればよい。)
 私なりに理解した,平野説および山口説による(旧過失論),過失犯の基本的な構造です。過失犯において,違法性阻却事由(Rw)はどのように問題となるのかは,よくわかりません。]

刑法102/ 800/ 過失犯の要件:実質的な危険あり,それが許された危険でなく,結果回避可能性あることを前提とする,#結果回避義務違反(TB)。過失,すなわち,#結果予見義務違反という不注意あること(S)。TB該当事実に関する具体的な予見可能性要。細部に至るまでは必要なく,結果・因果関係の基本的部分の予見可能性で足る。
[平野『刑法概説』85 頁-87 頁,山口『刑法総論』3 版 246頁,247頁,『判例ラクティス 刑法 Ⅰ』112 頁(大阪高判平 3・3・22),参照。
 山口説は,平野説(旧過失論)をより詳しく説明したものだと思う。また,実務の過失の理解と必ずしも対立するものではない(山口同書245頁L12 参照)。]

―――――
◇過失犯の結果回避義務と不作為犯の作為義務
刑法188/ 988/ 違法性に関わる義務たる,過失犯の結果回避義務,不作為犯の作為義務の発生根拠は,#ともに結果原因の支配(危険限の支配,脆弱性の支配)であり,過失犯では,作為犯と不作為犯との区別に特に意味はない。行為の危険性をTB的結果が生じることが通常ありえない程度にまで減少させることが,結果回避義務の内容。
[山口『刑法総論』3版248頁参照]

◇過失犯の因果関係
刑法189/ 989/ 結果回避義務を尽くさず結果発生した場合も,#危険性を減少させる義務としての結果回避義務を履行したとしても_結果発生を回避できなかったときは(あれなければこれなしとはいえない),結果発生は結果回避義務違反に基づくとはいえず(因果関係なし),結果惹起を理由とする処罰不可,過失犯のTB該当性なし。
[山口『刑法総論』3版248頁参照]

―――――
○信頼の原則(過失犯の客観的構成要件該当性としての実質的な危険)
刑法判例26/ ある行為をなすに当たって_被害者または第三者が適切な行動をすることを信頼するのが相当な場合には_被害者または第三者の不適切な行動によって結果が発生したとしても_行為者は責任を負わない(信頼の原則)。これは,過失行為の実質的危険性(客観的予見可能性)がない場合の原則(客観的構成要件該当性)。
[『判例ラクティス 刑法Ⅰ』113頁(最判昭41・12・20),平野『刑法概説』86頁,85頁,山口『刑法総論』3版257頁LL2,247頁LL11-9,参照]

◇信頼の原則
刑法140/ 879/ 交差点右折途中,車道中央付近でエンストした自動車が,再始動し時速約5kmで発車する際,自動車運転者としては,#特別の事情なきかぎり_右側方の他車両が交通法規を守り衝突を回避する適切な行動に出ることを信頼し運転すれば足り,法規に違反し追い抜こうとする車両ありうることまで予測する注意義務なし。
[最判昭41・12・20刑集20-10-1212『判例ラクティス 刑法Ⅰ』〔122〕参照]

◇信頼の原則(北大電気メス事件)
刑法139/ 878/ 執刀医Xにとり,ケーブルの誤接続のありうることの具体的認識を欠いたなどのため,#誤接続に起因する傷害事故発生の予見可能性が必ずしも高度のものでなく,手術開始直前,#ベテランの看護婦Yを信頼し接続の成否を点検しなかったことが当時の具体的状況下無理からぬものだったといえ,Xに注意義務違反なし。
[札幌高判昭51・3・18高刑集29-1-78『判例ラクティス 刑法Ⅰ』〔124〕参照]

―――――
予見可能性
刑法判例25/ 過失成立要件としてとしての予見可能性は,内容の特定しない抽象的な危惧感・不安感では不十分で,#構成要件該当事実に関する具体的な予見可能性でなければならない。もっとも,その細部に至るまでの予見可能性は必要なく,#構成要件的結果および結果発生に至る因果関係の基本的部分の予見可能性で足りる。
[『判例ラクティス 刑法Ⅰ』112 頁(大阪高判平 3・3・22)参照]

◇因果関係の基本点部分の予見可能性
刑法11/ 127/ 過失犯成立には、構成要件たる因果関係の認識・予見可能性を要する。行為者に認識・予見可能だった因果経過と実際の因果経過とが違っても、構成要件としての因果関係存在の点で両者が符合し、かつ、結果の具体的予見(予見の具体性)を担保しうる因果経過の基本的部分の予見可能性があればよい。#刑法
[山口『刑法総論』2版235・236頁参照。法的判断枠組み(理論的説明)。札幌高判昭 51・3・18 高刑集29-1-78(北大電気メス事件)の言い回しと,山口教授の説明とをなんとか組み合わせた。
 北大電気メス事件の「因果関係の基本的部分」という言い回しが,故意の錯誤論の裏返しだ(と思う。私の理解がまだ足りていないかもしれませんが)ということに上記の文章まとめていて気が付きました。刑法T29(11ウ)参照]

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略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)。R01:論文令元年。
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共犯の因果性,および教唆・幇助の従属性,共同正犯の共同性 (2020/4/1訂正,タテ2.⑴⑷)

*共犯について(724字)

1.共同正犯(60条)が成立するためには,共同加巧の意思共同加功の事実とが必要である。そして,共犯規定は,正犯または他の共同者により惹起された結果についても,共犯の因果性が認められる限り共犯者を拡張処罰するものである(⇔行為無価値によれば,拡張ではなく,修正とされる)。

2.(1) 共犯全般の要件として,因果性が求められる。

 さらに,狭義の共犯(教唆・幇助)では,従属性を要し共同正犯では,共同性を要する。

(2) 正犯の行為を介して法益侵害(構成要件該当事実,TB該当事実)を自ら惹起したことが共犯の処罰根拠(惹起説),すなわち,自らの行為と構成要件的行為との間に因果性(物理的因果性または心理的因果性)が認められるから処罰されるのである。

(3) 狭義の共犯(教唆・幇助)は二次的責任類型であり,従属性を要する

 団藤教授(行為無価値)は,これを従属性の有無と従属性の程度に分けて考察されており,平野教授(結果無価値)は,実行従属性,要素従属性,罪名従属性に分けて考察されている。

 これに対し,山口教授(結果無価値)は,実行従属性は未遂犯の構成要件該当性判断とし,要素従属性に含める。罪名従属性についても,要素従属性による拘束をどのように理解するかという問題に帰するとされる。

(4) 共同正犯は一次的責任類型(正犯)であり,従属性は問題とならず,共同性を要する

 共同正犯とは犯罪を共同するものか,行為を共同するものか,見解が分かれ(共同実行の対象・意義),判例は部分的犯罪共同説をとっているが,行為共同説が妥当であると考える(下記,◇部分的犯罪共同説の不当性,参照) 。これは,同じ犯罪(罪名)についてだけ共同正犯の成立を認めるのか否かの問題である(狭義の共犯における罪名従属性とは,異なる)。

 

以上 ©2020@right_droit

 

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*以下,教唆・幇助の従属性について,基本書等の表現を短くまとめています(全角140字×7文)。ご参照下さい。

 

◇共犯の従属性
刑法245/ 1157/ 共犯の従属性は,①実行従属性,②要素従属性,③罪名従属性に分けうる。①正犯が現実に実行行為をしたことは,共犯成立要件か(#教唆したが_正犯が実行しなかった場合の教唆未遂の取扱い),②正犯行為に,TB該当,違法,有責,処罰条件という要件具備をどこまで要求するか,③共犯は正犯と同じ罪名であるべきか。
[平野『刑法』総論Ⅱ(1975年)345頁-346頁参照]

刑法246/ 1158/ 実行従属性は,正犯行為(実行行為)が可罰的な段階に至ることを,共犯の成立要件とするものと解される。#これは未遂犯のTB該当性判断に帰するのであり,要素従属性(正犯行為はいかなる要件を備える必要があるか)に既に含まれている。罪名従属性も,#要素従属性による拘束をどのように理解するかに帰着する。
[山口『刑法総論』3版325頁-326頁,実行行為については,6頁LL6,参照]

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◇純粋惹起説
刑法243/ 1150/ 共犯処罰根拠たる法益侵害の間接的惹起を,共犯の立場から見て,正犯を通じ,法益侵害結果(TB該当事実)を惹起することと理解し,共犯成立要件に関し,#正犯にTB該当性のない場合も共犯成立しうるとする見解を,純粋惹起説という。従属性否定,正犯なき共犯肯定だが,現行法の教唆,幇助概念の逸脱との批判あり。
[山口『刑法総論』3版312頁-313頁参照。
*疑問:要素従属性の問題か?]

◇混合惹起説
刑法240/ 1147/ 共犯(教唆,幇助)は,TB該当事実を惹起したことにつき第1次的責任を負う正犯の背後に位置し,#その者に影響を与えTB該当事実を間接的に惹起するにすぎない第2次的責任類型。背後者としての共犯の罪責は,結果を直接惹起した者に,刑法が否認対象とする(#TB該当_Rw)事実の直接惹起があって初めて認められる。
[山口『クローズアップ 刑法総論』第6講236頁参照]

◇狭義の共犯(教唆・幇助)の成立要件(混合惹起説)
刑法241/ 1148/ 正犯行為に①#TB該当性と②#Rw性が認められることが,従属的な関与形態たる共犯(教唆,幇助)の成立要件として必要(共犯の従属性の要件)。これに,共犯処罰根拠として因果共犯論(惹起説)に基づく処罰要件である,③#法益侵害に対する因果性,それに対する④#有責性が認められる限り,共犯のTB該当性を肯定可。
[山口『刑法総論』3版314頁-315頁参照]

◇混合惹起説
刑法260/ 1193/ 因果共犯論(惹起説)を採りつつ,#教唆・幇助の二次的責任性を考え併せると,正犯行為にTB該当性・Rwを要求すべき(混合惹起説)。正犯行為にTB該当性・Rwが認められる場合,教唆・幇助に法益侵害に対する因果性と有責性が認められる限り,教唆・幇助のTB該当性が認められ,Rw阻却・S阻却がない限り,共犯成立。
[山口『刑法総論』3版314頁-315頁参照]

―――――
☆罪名従属性
刑法事案1/ 教唆・幇助は,正犯と同じ犯罪(罪名)でのみ成立するか,正犯と異なった犯罪(罪名)の共犯を認め得るか?/罪名は自らの責任要件(故意)に対応。殺意をもって人に切り付けようとしてる正犯Aに,傷害を与えるにすぎないと思いBがナイフを貸し,被害者が傷害を負った場合,Bには自己の故意に対応する傷害幇助成立。
[山口『刑法』2版 158 頁参照。罪名は正犯に従属しない。ただし,共犯の故意が正犯の故意よりも重い罪についてのものである場合,教唆・幇助は二次的責任類型であるから,共犯の罪名は正犯の罪名を超えない。要するに,共犯の罪名は正犯の罪名よりも軽いものにはなるが,重いものにはならない(山口『刑法総論』3版331頁参照)。その意味で,罪名従属性が完全に否定されるわけではない(山口『刑法』2版158頁参照)。

 この罪名従属性は,狭義の共犯(教唆・幇助)における問題である。共同正犯者間の罪名については,犯罪を共同するか,行為を共同するかという問題であり,前者ならば同一罪名の犯罪しか成立しえず,後者であれば異なる罪名の共同正犯も成立することになる。]

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*以下,共同正犯の共同性について基本書等の表現を短くまとめています(全角140字×11文)。ご参照下さい。

 

◇共同性(共同実行)
刑法256/ 1189/ 共同正犯は法益侵害の共同惹起形態で,一次的責任類型であり,従属性要件ではなく,#共同性(共同実行)が要件。共同実行の対象・意義については,特定の犯罪を共同して実行し,数人一罪となると解するのではなく(犯罪共同説),#行為を共同し各自の犯罪を実行する数人数罪をなすと解すべきである(行為共同説)。
[山口『刑法総論』3版315頁参照]

◇共同実行(法益侵害の共同惹起)の対象
刑法183/ 983/ 共同実行(法益侵害の共同惹起)の対象? 特定の犯罪の共同実行とし,共同正犯を数人一罪と解する犯罪共同説と,#行為を共同し各自の犯罪を実行するとし,共同正犯を数人数罪と解する行為共同説あり。後者は,法益侵害共同惹起が肯定される範囲内で,各共同者の故意に応じ異なった犯罪(罪名)間の共同正犯肯定。
[山口『刑法総論』3版315頁,317頁参照]

◇行為共同説
刑法184/ 984/ #各共同者が行為を共同することにより各人の故意に応じた犯罪を実現する場合に共同正犯成立(行為共同説)。⇒共同正犯成立のためには共同者間に意思の連絡が必須としても,故意の共同までは不要。共犯規定は,正犯or他共同者により惹起された結果についても,#共犯の因果性ある限り,共犯者を拡張処罰する。
[山口『刑法総論』3版317頁-318頁参照]

◇本来の行為共同説
刑法247/ 1159/ 行為共同説:#犯罪行為の全部にわたり共同である必要はなく_一部の共同でもよい。例:Aは強盗目的,Bは強姦目的で,相互に相手の目的を知らず,共同でXに暴行したが,目的不達成の場合,A強盗未遂,B強姦未遂で,暴行の限度で共犯。相手が加えた暴行の結果たる傷害にも責任負う。罪名必ずしも同じでなくていい。
[平野『刑法 総論Ⅱ』(1975年)364頁-365頁参照]

◇行為共同説による事例処理
刑法185/ 985/ A強盗目的で,B強制性交等目的で,相互に相手の目的を知らず,共同しXに暴行したが,いずれも目的を達しなかったとき,#Aは強盗未遂_Bは強制性交等未遂で_暴行の限度で,相手が加えた暴行の結果たる傷害にも責任を負い,A:強盗(未遂)致傷,B:強制性交等(未遂)致傷で処罰可。
[平野龍一『刑法 総論Ⅱ』(1975年)364頁参照]

刑法 / / Aが殺人の意思,Bが傷害の意思で,被害者に共同して傷害を加え,被害者が死亡した場合,#客観的に共同惹起した人の生命侵害という構成要件該当事実の範囲内で_各共同者の認識内容に対応した共同正犯が成立し,Aに殺人罪の共同正犯,Bに(死亡につき過失ある場合)傷害致死罪の共同正犯が成立する(行為共同説)。
[出典未控え分]

〇共同実行の意義――共同性
刑法判例7/ 最決昭 54・4・13参照:ABらが,Vに暴行・傷害を加える旨共謀したところ,Aが殺意をもってVを刺殺した事案で,#殺意のなかったBらには殺人罪の共同正犯と傷害致死罪の共同正犯の構成要件が重なり合う限度で軽い傷害致死罪の共同正犯が成立するとした。/Aにつき,行為共同説によれば,殺人罪の共同正犯となる。
[山口『刑法総論』3版318頁(刑集33-3-179)参照。これは,犯罪の成立と科刑の分離を認める以前の実務の考え方(団藤・大塚説)を否定したもの。/Aの罪責につき,部分的犯罪共同説によれば,殺人罪の単独正犯となる。]

〇部分的犯罪共同説(大塚仁など)
刑法判例8/ 最決平17・7・4参照:殺意あるAと殺意なきBが共同した,不作為による殺人罪と保護責任者遺棄致死罪の共同正犯事案で,#Aに殺人罪成立_Bとの間で保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯。Aが殺人罪の共同正犯でないなど,部分的犯罪共同説だが,殺意なき共同者の行為で死の結果が直接惹起された事案で不都合。
[山口『刑法総論』3版318頁-319頁(刑集59-6-403)参照。
*以下,私の考察:
 殺意のない共同者の行為によって死の結果が直接惹起された場合,行為共同説では,Aは行為を共同して殺人結果を惹起させており,殺人罪の共同正犯といえる(殺意のないBは保護責任者遺棄致死罪の共同正犯。数人数罪。罪名従属性の否定(森圭司『ベーシック・ノート刑法総論』新訂版303頁注**参照))。
 これに対して,部分的犯罪共同説では,Aに殺人罪の単独正犯も成立せず(保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯),殺人罪の共同正犯ともいえず,Bにも保護責任者遺棄致死罪の共同正犯しか成立しない。Aに殺人の故意があり,共犯者の行為により,Aの意図した死の結果が惹起されているにも拘らず,Aは殺人未遂罪(の単独犯)と保護責任者遺棄致死罪(の共同正犯)の観念的競合ということになってしまい,殺人既遂罪の罪責を帰せしめない不都合がある。
 ということだろうか?]

◇部分的犯罪共同説の不当性
刑法257/ 1190/ 不作為による殺人罪と保護責任者遺棄致死罪の共同正犯事案で,殺意あるAに殺人罪成立,殺意のないBと保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となるとされた(部分的犯罪共同説)。but,Aが実行行為分担せず,殺意のないBにより死の結果が惹起された場合,Aに殺人未遂罪も成立せず,#殺意が全く評価されず,不当。
[山口『刑法総論』3版318頁-319頁(最決平17・7・4刑集59-6-403,シャクティ治療殺人事件)参照]

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◇他の共同者に違法性阻却が認められる場合
刑法258/ 1191/ AB共同で被害者を傷害した場合,Aへの侵害の急迫性があり,正当防衛成立なら,Bにも侵害の急迫性が認められ,他の要件がみたされれば,他人のための正当防衛が成立し,共同正犯はTB段階で認められても,Rw阻却され不成立。
#侵害の予期と積極的加害意思で侵害の急迫性否定⇒Bに正当防衛認められない場合あり。
[山口『刑法総論』3版333頁参照]

◇共同共犯と違法性阻却事由
刑法259/ 1192/ AB共同で被害者を傷害した事案で,Aへの侵害の急迫性があり,正当防衛成立する場合も,Bに,#侵害の予期と積極的加害意思があり,侵害の急迫性が否定され,or,#もっぱら攻撃の意思で行為したため防衛の意思が認められないとき,Bに正当防衛不成立。#正当防衛が成立するAと正当防衛が成立しないBとの共同正犯。
[山口『刑法総論』3版333頁(最決平4・6・5刑集46-4-245)参照]


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*☆問題(事案,設例等),〇判例(年月日付き分),◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。
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