ミニマム法律学

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証明責任の意義(『民事訴訟法講義案』再訂補訂版231-232頁)

証明責任の意義

 

1.訴訟物たる権利関係判定ため、主要事実の存否確定が不可欠。しかし、事実の確定は原則、当事者の申し出に基づく証拠調べの結果として得られる証拠資料に基づき行われること等から、真偽不明(ノン・リケット)になることもあり得る。この場合、主要事実を要件とする法律効果発生の有無が判断できないとして、裁判所が裁判を拒絶することは許されない。

 法規は、定める要件に該当する事実の存在が確定できた場合に適用できるという形式で存在する。したがって、主要事実不存在の場合はもとより、存否不明の場合も法規を適用できない(法不適用原則)。それゆえ、真偽不明の事実は不存在と擬制でき、その事実を要件とする法律効果の発生は認められないことになる。

 このように、ある事実が真偽不明な場合に、その事実を要件とする自己に有利な法律効果が認められないという一方当事者の不利益ないし危険証明責任(立証責任)と言う。証明責任は事実が存否不明の場合にも裁判を可能にする法技術である。

 

2.証明責任は、口頭弁論終結時において、裁判官が証拠を評価してもなお主要事実の存否に確信を抱くことができない場合に初めて機能する。その意味で、自由心証の働きの尽きたところから証明責任の役割が始まる、と言われる。

 もっとも、証明責任は自由心証主義や弁論主義に特有の問題ではない、法定証拠主義の下でも、職権探知主義の下でも、真偽不明の生ずる余地がある以上、裁判を可能にするため必要な観念。

 また、証明責任は、真偽不明の場合に法適用の可否の判断を可能にするものだから、法律効果の発生と直接関連する主要事実を対象にすれば足り、間接事実、補助事実、経験則等については問題にならない。

 

3.証明責任は必ず当事者の一方のみが負担する。

 証明責任をいずれの当事者に負担させるかは、個々の要件事実毎に予め抽象的・客観的に定まっている(客観的証明責任)。例えば、ある事実につき原告が証明責任を負う場合、原告は、裁判官に確信を抱かせるため立証努力する(本証)。本証が成功しそうになれば、敗訴を免れるため被告は、裁判官の心証を動揺させ真偽不明に追い込むため証拠を提出する(反証)。これは立証の必要性が被告に移動しただけで、証明責任が移った訳ではない。証明責任の所在は終始不動。