ミニマム法律学

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行政法/ 不作為による国家賠償責任(申請に対する不応答。規制権限の不行使)

不作為による国家賠償責任(申請に対する不応答。規制権限の不行使)

 

●不作為責任の類型

[・不作為責任には2類型ある。ひとつは、許認可などを求める申請に対する不応答により生じた損害の賠償責任(申請不応答型)であり、もうひとつは、国民の生命・身体・財産等に対する危険を防止するための規制権限の行使の懈怠により生じた損害の賠償責任(規制権限不行使型)である。

 申請に対する不応答に対しては、不作為違法確認訴訟(行訴法3条5項・37条)のほか、行訴法37条の3に基づき、申請型義務付け訴訟も併せて提起して、許認可等の義務付け判決をうることができる。これとは別に、不作為が継続していた間に申請者に生じた損害について、申請処理の遅延による財産的損害の賠償のほか、精神的苦痛に対する慰謝料も賠償の対象となる。

 規制権限不行使型については、行政庁に対して規制権限を行使することの義務付けを求める訴え(行訴法37条の2)のほか、国民の生命、身体等への危険を防止するための規制権限が行使されず、その結果、被害が発生した場合には、国または公共団体が損害賠償責任を追求されることになる(危険管理責任ないし危険防止責任)。]

 

行政法30/ 517/ ①許認可などを求める申請に対する不応答より生じた損害の賠償責任,②国民の生命_身体_財産等に対する危険防止のための規制権限行使の懈怠により生じた損害の賠償責任。①#不作為違法確認訴訟(行訴法3条5項_37条),#申請型義務付け訴訟(37条の3)も提起。②#規制権限行使の義務付け訴訟(37条の2)も提起。

[『LEGAL QUEST行政法』3版312頁-313頁参照。行政庁の不作為責任追求のための現行法上の制度枠組み]

 

■申請に対する不応答

 

■規制権限の不行使

●反射的利益論、行政便宜主義と批判

[・人の生命・身体に関わる利益については行政活動において常に考慮・尊重されるべきものであるから、国家賠償法上も法的保護利益であると解する(単なる反射的利益ではない)。そして、規制権限を付与した法令の目的が、たとえば、水産動植物の繁殖保護である場合、文言上明らかな直接の目的に限定せず、それら水産動植物を摂取する者の生命・健康という利益をも究極の目的とするものとみて、保護範囲を拡張的に解釈すべきである。

 また、行政庁の権限行使の裁量を尊重しつつも、一定の場合にそれが収縮して権限の行使が義務づけられると解しうる(裁量収縮論)。さらに、被規制者の利益よりも規制の受益者となる国民の生命・健康を重視すべきであり(健康権論)、これを保護するための権限行使の裁量性(行政便宜主義、自由裁量論)は認められず、一定の場合に端的に権限行使が義務づけられると解する(作為義務論)。]

 

行政法37,38/ 532,533/ #人の生命_身体に関わる利益は行政活動で常に考慮_尊重されるべきだから,国家賠償法上も法的保護利益(#反射的利益でない)。規制権限を付与した法令の目的が,例えば,水産動植物の繁殖保護なら,文言上明らかな直接目的に限らず,摂取する者の生命_健康という利益をも究極目的とみて保護範囲を拡張すべき。

[『LEGAL QUEST行政法』3版314頁-315頁(最判平16・10・5民集58-7-1802,水俣病関西訴訟)参照。規制権限に係る根拠規範の保護範囲内か(規制権限の不行使が違法となるか。大前提)]

 

/ 行政庁の権限行使裁量を尊重しつつ,#一定の場合_それが収縮し権限行使が義務づけられる(裁量収縮論)。#被規制者の利益より規制の受益者たる国民の生命_健康を重視すべき(健康権論),これを保護するための権限行使の裁量(行政便宜主義,自由裁量論)は認められず,#一定の場合_義務づけられる(作為義務論)。

[同書315頁参照。行政便宜主義ないし自由裁量論の否定(理論的説明)]

 

●違法性の判断枠組み・要素

行政法4/ 84/ 規制権限不行使は、根拠法令の趣旨目的、権限の性質等に照らし、具体的事情の下、その不行使が許容される限度を逸脱し著しく合理性を欠くと認められるときに不行使による被害者との関係において、#国賠法1条1項 の適用上違法となる。危険の存在、予見可能性、回避可能性、期待可能性等が考慮される。

[『LEGAL QUEST 会社法』3版316頁(最判平16・10・15民集58-7-1802)参照。法定判断枠組み(違法性の判断基準)]

 

●規制権限不行使による国家賠償責任

[・権限の不行使を違法と判断するためには、①国民の生命・身体・健康に対する毀損という結果発生の危険(危険の存在)、②行政庁において危険の切迫を知りまたは容易に知り得べかりし情況にあったこと(予見可能性)、③行政庁において規制権限を行使すれば容易に結果の発生を防止できたこと(結果回避可能性)、④行政庁が権限を行使しなければ結果の発生を防止できなかったこと(補充性)、⑤被害者として規制権限の行使を要請し期待することが社会的に容認されうること(期待可能性)の5要件をみたす必要があると解する。]

 

行政法29/ 516/ 権限不行使の違法は,①#国民の生命_身体_健康の毀損の危険の存在,②行政庁が危険の切迫を知り・容易に知り得た(#予見可能),③権限行使すれば容易に防止可(#結果回避可能),④行使なければ結果発生を防止できなかった(#補充性),⑤規制権限行使への被害者の期待が社会的に容認しうる(#期待可能)かで判断。

[『事例研究 行政法』2版125頁(東京地判昭53・8・3判時899-48,東京スモン訴訟第1審)参照。事例の分析・評価方法]

 

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