ミニマム法律学

法律書等を読んで,理解し覚えられるように短くまとめて行こうと思っています。ツイッター→https://twitter.com/right_droit YouTube(判例原文の音読)→https://www.youtube.com/channel/UCqVOy5zBmI3GzOI_WF5Dc6Q/featured

弁論主義、裁判上の自白、既判力(客観的範囲など)等(民訴法 , 1/13/2018)

法律に関することを、140字以内にまとめ、可能な範囲で、①法的判断枠組み、②事実の分析・評価に分けています。 twitter.com, http://twpf.jp/right_droit

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[訴訟の審理と進行]
〔裁判資料の収集〕

■弁論主義
民訴法22/ 209/
弁論主義は裁判所と当事者間の作業分担の原理であるし、主張責任は事実が弁論に現れなかった場合に働く不利益だから、事実が弁論に現れている限り、主張責任を負う当事者が主張しようと、相手方が主張しようと、裁判の基礎となる(主張共通の原則)。#相手方の援用しない自己に不利益な事実 も同様。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版120頁参照。なお、同頁注1、R21①も、参照。[法的判断枠組み(法原理の説明)]

民訴法45/ 275/
弁論主義は裁判所と当事者間の作業分担原理であり、いずれか当事者が主張する限り、その事実を認定し裁判の基礎としうる。ある事実(例、使用貸借の事実)につきある局面で主張責任を負う相手方が主張・援用せずとも、他当事者が主張提出すれば、その事実を裁判の基礎としても、#第1原則に反しない。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版120頁、119頁、R21①設問1(ii)②(iii)③(この場合には、建物買取請求権行使の事実。)、参照。[法的判断枠組み(法原理の詳細)。
 主張責任を負う相手方は主張・援用もしていないので、口頭弁論・準備的口頭弁論・弁論準備手続における相手方の主張する自己に不利益な事実の陳述(裁判上の自白)でも、先行自白にもあたらず、証明不要効(179条)、裁判所拘束力(弁論主義第2原則)、当事者拘束力(自己責任と禁反言都を根拠とする)も、いまだ生じていないのだろう。
 だから、相手方が争う場合には(R21①設問1(i)①参照)、証拠調べは必要になるだろう(『民事訴訟判例百選』5版108頁(最判平9・7・17判時1614-72)解説タテ2、従来の通説(兼子一教授)参照)。]

民訴法46/ 278/
不要証なら(#民訴法179条)相手方は証拠調べ準備をやめ争点から除かれる。自白事実と違う事実認定がされ当事者に不意打ちとならないよう、裁判所は、不要証事実をそのまま判決の基礎としなければならない(#弁論主義第2原則)。ただ、#247条との関係で、裁判所拘束力は主要事実に限られる。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』50頁、51頁参照。[法的判断枠組み(制度間の関係)]

 

民訴法23/ 210/
#主要事実 は、権利の発生、変更、消滅という法律効果の判断に直接必要な事実(直接事実)をいう。訴訟物(審判対象)たる一定の権利・法律関係は直接の立証命題たりえないため、権利の発生、変更、消滅という法律効果を発生させる法律要件に該当する、具体的事実(主要事実)の存否を通じ判定する。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版121頁、122頁、57頁、『新問題研究 要件事実』3頁参照。[法的判断枠組み(概念の説明)]

民訴法24/ 211/
所有権に基づく返還請求や所有権確認など所有権訴訟の請求原因たる、原告の係争不動産等の現在(口頭弁論終結時)所有を、被告が否認すれば、原告は自己への #所有権移転経過(来歴経過)を主張立証する必要がある。これは主要事実であり、当事者主張と異なる来歴経過の認定は、弁論主義違反となる。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版126頁、127頁参照。[事実の分析・評価例(所有権訴訟において当事者が主張する所有権移転経過(来歴経過)の事実は、主要事実か間接事実か。現在はこれを主要事実見ることに争いはないということのようであるが、そうすると、要件事実(現在所有)と主要事実とは異なることになるのか?)]


[証拠]
〔事実認定と証拠・証明〕

■裁判上の自白
民訴法3/ 97/
裁判上の自白は、当事者が口頭弁論または弁論準備手続で、相手方が主張する自己に不利益な事実を認める陳述をいう。不利益とは相手方に証明責任がある事実をいう。主要事実に限られる。間接事実、補助事実は証拠と同様の機能を営むため、裁判官の自由心証(#民訴法247条)を害さないよう除かれる。
 『基本から合格答案を即効で書けるようになる本』民事系(平成26年1月)254頁参照。[法的判断枠組み。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系493頁「裁判上の自白の意義」参照。]

民訴法55/ 291/
所有権に基づく建物明渡請求訴訟で、被告が占有権原の抗弁として使用貸借を主張し、原告がその解約告知を主張後、被告が主張を賃貸借に変更した場合、自白の撤回か。
占有権原の抗弁は被告に証明責任のある事実であり、#相手方が証明責任を負う事実ではないので、自白の撤回ではなく、任意に行える。
 藤田『講義 民事訴訟』2版46頁参照。[事実の分析・評価例。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系493頁論点「不利益の意義」参照。]


民訴法41/ 262/
①証明不要効(民訴法179条)。#証明責任を負う相手方が証明負担から開放される。②対裁判所拘束力。裁判所は、#当事者間に争いのない事実はそのまま判決の基礎としなければならない(弁論主義第2原則)。③対当事者拘束力。自白した者は、#自己責任と禁反言により、原則、自白を撤回できない。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版182頁、183頁参照。[法的判断枠組み(裁判上の自白の効力)]

民訴法56/ 292/
裁判上の自白は、証明不要効(民訴法179条)、弁論主義第2原則から裁判所の審判排除効、禁反言および信頼した相手方保護から撤回禁止効を持つ。撤回要件規定はないが、①#相手方同意、②#刑事上罰すべき他人の行為の介在、③#自白の内容が真実に反しかつ自白が錯誤に基づく、場合に認められる。
 藤田『講義 民事訴訟』2版47頁参照。[法的判断枠組み(法律効果、法律要件)。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系494頁論点「自白の撤回の要件」参照。]

民訴法42/ 263/
#自白の撤回 は、①相手方同意ある場合。②自白内容が真実に反し、かつ、錯誤に基づくと立証された場合。不利益な自白ゆえに真実に合致する蓋然性が高いことが審判排除の根拠だが、その基礎が失われ、錯誤ならば、禁反言といえないからである。③刑事上罰すべき他人の行為の介在の場合、に許される。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版183頁参照。[法的判断枠組み(基礎的説明)]

民訴法57/ 293/
撤回禁止効の根拠の、#禁反言を破る要件として錯誤が重要、#相手方の信頼保護を破る要件として反真実が重要である。#反真実が証明されれば錯誤が推定されるので、反真実は錯誤を推認する間接事実であり、理論上では錯誤が上位だが、#現実の機能上は反真実の立証がメイン。錯誤要件の意義は乏しい。
 藤田『講義 民事訴訟』2版47頁(最判昭25・7・11民集4-7-316)参照。[法的判断枠組み(法律効果の根拠と、例外的に効果が消滅する場合の要件についての、根拠からの説明など)。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系493頁効果、494頁論点「自白の撤回の要件③」参照。]

民訴法58/ 294/
自白の撤回に反真実の証明を求めることにより、そもそも相手方に証明責任のあった自白対象事実との関係で、#自白者に立証責任転換という重いサンクションが課されている。また、#本来の立証主題から外れ派生争点の審理対象が拡散し複雑化するのを避け訴訟全体の迅速を阻害しないよう仕組まれている。
 藤田『講義 民事訴訟』2版47頁参照。[法的判断枠組み(法律要件の機能の考察)。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系494頁論点「自白の撤回の要件③」参照。]


民訴法43/ 264/
自白対象は具体的事実に限られ、法規、経験則、法規解釈は対象ではない。権利の発生、変更、消滅の判断に直接必要な、主要事実につき、自己に不利益な事実とは、#相手方が証明責任を負う事実と解する。証明責任の所在と一致しない首尾一貫しない陳述の撤回を認めるべきだし、明確な基準だからである。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版184頁、121頁参照。[法的判断枠組み(下位規範)。原文は、「証明責任の所在と『齟齬し』首尾一貫しない…」となっているが、具体的にどういうことを書いているのか、現時点でまだ理解できていません。とりあえず、記憶に残りやすいように、同じ意味合いの別の言葉で言い換えました。後日の勉強にまわします。]


民訴法49/ 281/
不利益要件は、当事者のどちらが撤回不可かを決める当事者拘束力の場面だけで機能する。#首尾一貫しない陳述、かつ、#証明責任の所在と齟齬し、別に不利益でないものならば、撤回させてよい。裁判所からみれば、不要証効と裁判所拘束力こそが重要で、いずれの当事者に不利益かは関心外だからである。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』59頁、『民事訴訟法講義案』再訂補訂版184頁L19「証明責任の所在と齟齬し首尾一貫しない陳述…」、参照。[法的判断枠組み(どの法律効果との関係で、法律要件が機能するかについての、一考察)]


民訴法44/ 265/
間接事実の自白には、①相手方の証明不要効は認められる。②しかし、#主要事実を推認させる機能の点で証拠と等しく、裁判所の自由心証主義の下、裁判所拘束力は認めるべきではない。裁判官のできるだけ自然で合理的な判断に委ねるべきである。③禁反言・自己責任原則から、当事者拘束力は認められる。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版184頁、185頁参照。[法的判断枠組み(基礎理論)]


民訴法47/ 279/
当事者拘束力は、不要証効(民訴法179条)を前提に相手方の信頼保護、自白当事者の禁反言・自己責任を直接の、司法資源の無駄使いを間接の根拠とし、間接事実や補助事実にも妥当しうる。他方、#裁判所拘束力も間接の根拠なので、247条より、それら事実に当事者拘束力が及ばない場合もありうる。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』56頁、52頁~55頁、51頁「自由心証主義との関係で、」(247条)参照。[法的判断枠組み(裁判上の自白の当事者拘束力が、主要事実に限られる場合がありうることの根拠)]


民訴法48/ 280/
弁論主義は裁判所と当事者間の役割分担の規律で、いずれの当事者の不利益かは考慮事由でない(第2原則)。当事者間に争いない事実ならば、いずれの当事者に不利益だろうとなかろうと、証拠調べをわざわざやる必要はない(民訴法179条)。他方、裁判上の自白は、#自己に不利益な事実要件を要する。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』58頁参照。[法的判断枠組み(弁論主義第2原則と裁判上の自白との要件の違い)]

民訴法50/ 282/
①不要証(#民訴法179条、争点整理)とされた自白事実と異なる認定をされる不意打ち防止のため、②弁論主義が要請され(第2原則、裁判上の自白の裁判所拘束力、審判排除。自由心証主義との関係で主要事実に限定)、①を前提に、禁反言・自己責任に基づき、③不利益陳述の当事者拘束(不可撤回)。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』60頁、61頁参照。[法的判断枠組み(法的効果の関係性の説明)]

民訴法52/ 284/
争点整理手続における自白は、#不要証事実の選別作業の範囲で不要証効のみを認めれば十分。闊達なやり取りを重視し、相手方が裁判上の自白の拘束力を欲するなら、通常の口頭弁論への上程時点(民訴法165条1項・170条5項・177条、規則89条)で、改めて自白としよいかの意思確認をすべき。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』62頁注26参照。[法的判断枠組み]


民訴法51/ 283/
当事者拘束力の、#相手方信頼保護(禁反言・自己責任)のための効果消滅のハードルを乗り越え、審理中撤回されれば、不要証効は消え当該事実は要証事実になる(ただし、民訴法167条・174条・178条、157条参照)。裁判所拘束力は判決段階で機能するので、その時点で争いあれば機能しない。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』64頁参照。[法的判断枠組み(法的効果間の連関)]


民訴法6/ 100/
訴訟物の前提をなす先決的権利・法律関係についての権利自白には、①不要証効(#民訴法179条)は認められるが、法律解釈は裁判所の専権なので、弁論主義が妥当せず、原則②裁判所拘束力、③当事者拘束力は認めるべきでない。ただ、日常法律概念には具体的事実の陳述として②③を認めるべきである。
 『工藤北斗の合格論証集』商法・民事訴訟法(平成26年8月)146頁、166、167頁、『民事訴訟法講義案』再訂補訂版186頁参照。[法的判断枠組み]

 

〔物証に関する証拠方法と証拠調べ手続〕
民訴法19/ 証拠/ 174/
文書が証拠方法となりうる資格を証拠能力という。原則、いかなる文書も証拠能力を有する。
文書が、特定人の一定の思想内容を表現した、当人の意思に基づくもの(文書の真正)と認められれば、形式的証拠力あり、その思想内容が係争事実の認定に役立ち得るならば、実質的証拠力ありとされる。#民訴法
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版208、209頁参照。[法的判断枠組み(概念の意義)]

民訴法18/ 148/
処分証書とは、意思表示その他の法律行為を記載した文書。判決書のような公文書のほか、遺言書、売買契約書、手形のような私文書がある。報告文書とは、作成者の経験した事実認識(見聞、判断、感想)を記載した文書。受取証、商業帳簿、調書、戸籍簿・登記簿謄本、日記、診断書などがある。 #民訴法
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版208頁参照。[法的判断枠組み(法律用語説明)]

民訴法16/ 146/
#民訴法228条4項 は、私文書について本人または代理人が、意思に基づき署名または押印した場合、文書全体も同人の意思に基づく真正なものである場合が多い、という経験則を法定したものである。事実認定の際の裁判官の自由心証に対する一応の拘束となる。推定を破るためには反証をすれば足りる。
 『ステップアップ民事事実認定』69、70頁参照。[法的判断枠組み(条文、理論)]

民訴法17/ 147/
文書欄外等に押したいわゆる捨印(すていん)は、当事者の意思としては、どのような文言が付け加えられても構わないという訳ではなく、誤字や誤算等相手方に訂正等を委ねるのが合理的であるような事項に限り、訂正等を委ねた趣旨と解するのが合理的である。訂正箇所の訂正印とは同視できない。#民訴法
 『ステップアップ民事事実認定』71頁参照。[事実の分析(事実を評価して一定の法律要件に当てはまるか否かの前提として必要な、事実的な判断)]

民訴法10/ 115/
文書提出命令の対象文書の所持者が、#民訴法220条4号ハ、197条1項3号により文書提出を拒絶できるのは、職業の秘密が保護に値する場合に限られ、情報の内容、性質、開示により所持人に与える不利益の内容、程度等、当該民事事件の内容、性質、証拠価値の程度等の諸事情を衡量して決せられる。
 最決平20・11・25民集62-10-2507『民事訴訟判例百選』5版〔68〕、判旨(ii)参照。[法的判断枠組み]

民訴法11/ 116/
一般に、金融機関が顧客の財務状況、業務状況等を分析・評価した情報は、開示されれば当該顧客が重大な不利益を被り、金融機関の信頼は損なわれ業務に深刻な影響が及び、以後の業務遂行が困難になるものといえるので、「職業の秘密」(#民訴法220条4号ハ・197条1項3号)にあたると解される。
 最決平20・11・25民集62-10-2507『民事訴訟判例百選』5版〔68〕、判旨(ii)参照。[法的判断枠組み]

民訴法12/ 117/
本件分析評価情報は、再生手続開始決定前の財務状況等に関するので、開示による企業Aの受ける不利益は小さく、メインバンクYの業務への影響は軽微であり、監督官庁の事後的検証に備えた率直で正確な認識の記載も見込め、証拠価値は高く、保護に値する職業の秘密にはあたらない。#民訴法220条4号ハ
 最決平20・11・25民集62-10-2507『民事訴訟判例百選』5版〔68〕、判旨(ii)参照。[法的判断枠組み]

民訴法13/ 118/
作成目的、内容、所持までの経緯などから考え、①専ら内部者の利用目的で作成され、外部者への開示予定なき文書で、②開示されるとプライバシー侵害、自由な意思決定の阻害など、所持者側に看過し難い不利益が生ずるおそれある場合、③特段の事情のない限り、#民訴法220条4号ニ の文書にあたる。
 最決平11・11・12民集53-8-1787『民事訴訟判例百選』5版〔69〕参照。[法的判断枠組み]

民訴法14/ 119/
作成目的、内容等からすると、銀行の貸出稟議書は、銀行内部で融資案件について意思形成を円滑、適切に行うために作成され、忌たんのない評価や意見の記載も予定されている。したがって、上記①外部非開示性、②不利益性が認められ、③特段の事情のない限り、#民訴法220条4号ニ の文書にあたる。
 最決平11・11・12民集53-8-1787『民事訴訟判例百選』5版〔69〕参照。[法的判断枠組み]


[裁判によらない訴訟の完結]
[終局判決]
〔既判力〕
■意義等
民訴法32/ 234/
既判力は、攻撃防御方法が尽くされた後の裁判所の判断内容に終局性を与え、同一紛争の蒸し返しを許さず、法的安定と紛争解決を与える訴訟制度内在の #制度的効力 である。処分権主義・弁論主義の下、請求定立、訴訟資料提出の権限・責任を負う #当事者の手続保障と自己責任 により正当化される。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版275頁参照。[法的判断枠組み(基礎理論)]

民訴法33/ 235/
訴訟物たる権利または法律関係の存否を確定する本案判決は、請求認容(確認、給付、形成)、棄却判決(確認)を問わず、既判力を有する。#訴訟判決 も欠缺するとされた訴訟要件につき、同一当事者、同一請求の後訴に対し既判力が作用する。訴訟指揮などの決定・命令は形成力はあるが、既判力はない。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版275頁、276頁参照。[法的判断枠組み(基礎理論)]

民訴法34/ 236/
①既判力ある判断を争う当事者の申立て、主張・抗弁の排斥を消極的作用の側面、②裁判所がその判断を前提に後訴の審判をすべきことを積極的作用の側面という。民事裁判における私法上の権利・法律関係は、確定後もその後の行為により変更可能であるから、刑事裁判と異なり、#訴権 自体は消滅しない。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版276頁、277頁参照。[法的判断枠組み(基礎理論)
 刑事裁判は、過去に行われた行為に対する刑罰効果の有無の判断であるから、その後の行為によって、その効果が変更されることはないので、裁判が確定した以上、これに対する訴権が消滅する(一事不再理)。]

民訴法35/ 237/
前訴敗訴者が同一訴訟物につき同一人物に後訴提起した場合、当該訴訟物の判断の既判力により、前訴基準時前の事由についての主張が排斥され、基準時後の新主張なければ請求棄却される。新主張あればその当否が判断される。前訴勝訴者が同一請求するとき、後訴は原則、#訴えの利益を欠き、却下される。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版277頁参照。[法的判断枠組み(基礎理論)
 例外的に、たとえば、時効中断のために他に方法がないとか、判決原本が滅失して執行正本を受けられないなどの必要があれば、訴えの利益が認められる。]


■既判力の時的的限界
民訴法28/ 218/
取消権の形成原因は訴求債権に #付着する瑕疵 で、既判力によりすべて洗い去られる(遮断効)。取消しより重大な無効事由の遮断との権衡も要する。相殺権は、訴求債権に付着する瑕疵でなく別個の債権を防御方法として主張するのだから、他の形成権以上に被告の決断の自由を尊重し、遮断が否定される。
 『民事訴訟判例百選』5版〔78〕167頁(最判平成7・12・15民集49-10-3051)参照。[法的判断枠組み(権利の法的性質の検討)。
 既判力の根拠は、権利関係の安定を図る制度的保障と、手続保障(実体法の考慮、ないし、具体的な期待可能性の考慮)である。
 取消権、白地手形補充権は、既判力により遮断される(既判力の遮断効)。
 相殺権、建物買取請求権は、訴求債権に内在(付着)する瑕疵ではなく、前訴の既判力のより遮断されることはない。]

民訴法27/ 217/
#建物買取請求権 は、賃貸人の建物収去土地明渡請求権の発生原因に内在する瑕疵に基づく権利とは別個の制度目的・原因に基づく。その行使により建物所有権が法律上当然に賃貸人に移転し、賃借人の建物収去義務は消滅する。前訴の事実審口頭弁論終結時までに行使せずとも、既判力により遮断されない。
 最判平成7・12・15民集49-10-3051『民事訴訟判例百選』5版〔78〕166頁参照。[法的判断枠組み(権利の法的性質)]

民訴法29/ 219/
前訴基準時までに建物買取請求権を行使せずとも、実体法上権利は消滅しない。#予備的抗弁 の主張も自らの立場を弱めるおそれがあり、訴訟戦略上提出しにくい。建物買取請求は前訴基準時の実体状態を前提に確定判決の法的安定要求を尊重してされるのであり、当然に請求異議事由となる。遮断されない。
 『民事訴訟判例百選』5版〔78〕(最判平成7・12・15民集49-10-3051)167頁右欄タテ4、中西ほか『LEGAL QUEST 民事執行・民事保全法』86頁、参照。[法的判断枠組み(権利の法的性質、遮断効否定の論拠)
 百選の167頁右欄タテ4はちょっと読みにくかった。14行目「立法趣旨からの論拠」は、左欄タテ3、12、13行目のことだろう。タテ4の15行目「反対説」は、中野貞一郎先生の有力説のことだろう(タテ2(2)の反対説…)。]

民訴法30/ 220/
請求異議訴訟(民執法35条1項)で建物買取請求権認容の場合、建物退去土地明渡しの限度を超えては強制執行を許さない旨の判決がされる。#建物代金支払いと引換えに建物明渡しの限度においてしか執行は許さない 旨の宣言も求めうる。別訴の訴求しかできなければ、請求異議の意味がないからである。
 『民事訴訟判例百選』5版〔78〕(最判平成7・12・15民集49-10-3051)167頁タテ5参照。[法的判断枠組み(請求異議訴訟の判決の内容の説明)]

民訴法31/ 221/
請求異議訴訟認容の場合、建物収去土地明渡請求訴訟認容判決の債務名義の執行力は、建物収去を命じる限度で失われるにとどまり、建物退去土地明渡しの範囲でなお維持される。債権者は、建物引渡し土地明渡しの限度で強制執行できる旨の #転換執行文 の付与(民執法26条参照)を求めるべきである。
 『民事訴訟判例百選』5版〔78〕(最判平成7・12・15民集49-10-3051)167頁右欄タテ5、中西ほか『LEGAL QUEST 民事執行・民事保全法』53頁、54頁、参照。[法的判断枠組み(民事執行法上の請求異議訴訟についての判決の効果、執行文付与の手続についての説明)
 上記のような場合に、転換執行文の付与を求めるべきであるとするのは、有力な学説の見解のようである(上記百選167頁タテ5参照、中野貞一郎先生の文献が掲げられているが、現時点で未参照。)。条文上の根拠があるのか、よくわからない。]


■既判力の物的限界(客観的範囲)

●既判力の客観的範囲の意義

[・既判力は #判決主文 に包含されるものについてのみ生ずるのが原則である(民訴法114条1項)。主文には、本案判決の場合、請求の内容である訴訟物たる権利または法律関係の存否についての裁判所の結論的判断部分が表示され、訴訟判決には、訴えが不適法であることにつき判断が示される。もっとも、主文の文言は #簡潔 である上、請求棄却判決では「原告の請求を棄却する。」とのみ、訴え却下判決(訴訟判決)では「本件訴えを却下する。」とのみに止まるため、主文だけでなく判決の #事実 および #理由中の記載 を斟酌して、既判力の範囲を確定する必要がある。]

 

 

●既判力の客観的範囲の根拠

[・既判力の客観的範囲は、確定判決の #主文 に包含されるものに留められている(民訴法114条1項)。

 なぜなら、①当事者が攻撃防御の対象として判決を求めているのは、#訴訟物である権利関係の存否についてだから、その当事者の意思を尊重すると共に、②前提問題である権利関係や事実主張については、#既判力を及ぼすことを正当化するだけの手続保障があるとはいえないからである。

 もっとも、主文中の判断といっても、主文は #簡潔 に表現されているので、いかなる事項について既判力が及ぶかは、#判決理由中の判断 #事実の摘示 も参照する必要がある。これは、判決文の書き方という技術的理由によるものである。]

 

 

民訴法36/ 248/ 原告は訴訟物たる権利・法律関係の存否を求め、前提となる法律関係にまで既判力が及ぶのは予期しない。被告も理由中の判断に既判力が生じると計算し訴訟遂行しなければならない不自由さは望まない。そこで、#既判力を主文のみに限定し、先決問題は結論を導く上で手段的地位を占めるに止められている。

[『民事訴訟法講義案』再訂補訂版28頁、281頁参照。法的判断枠組み(基礎理論)。]

 

民訴法37/ 249/ 既判力の主文への限定は、裁判所にも、当事者の訴訟追行の自由を考慮し実体法の論理的順序に拘泥せず、比較的自由・弾力的、迅速に審判できるメリットがある。売買代金請求訴訟で、契約成立認定せず、弁済の抗弁を認定し請求棄却することもできる。根拠条文は、#民訴法114条2項、145条である。

[『民事訴訟法講義案』再訂補訂版281頁参照。法的判断枠組み(制度の効果、条文根拠)。]

 

 

●例外:相殺の抗弁の判断(民訴法114条2項)

民訴法38/ 250/ 裁判所は、受働債権の存在を認めたときに、相殺の抗弁(#予備的抗弁)を判断すべきである。もし受働債権不存在なら、相殺に供した自働債権が不当に消滅せしめられるからである。

相殺の抗弁認容の場合、訴求債権と対当額部分に限り、既判力が生じ、排斥の場合、自働債権不存在につき既判力が生じる。

[『民事訴訟法講義案』再訂補訂版282頁(一部請求でない場合。自働債権の方が受働債権額を上回る場合には、自働債権の対当額部分に限り既判力が生じる。対当額部分を上回る自働債権の存否については、既判力は生じない。なお、「対当額」という文言については、民法505条1項参照。)、283頁の図(一部請求の場合)も、参照。法的判断枠組み(手続の説明。法的効果の及ぶ範囲)。]

 

 

民訴法1/ 54/ 明示的一部請求の確定判決の既判力は残部に生じないので、相殺の抗弁についての既判力も一部請求の枠外にある自働債権の存否には及ばない。そして、相殺の抗弁により自働債権の存否につき既判力が生じるのは、請求の範囲に対し「相殺をもって対抗した額」だけである(#民訴法 114条2項)。→

[『民事訴訟法講義案』再訂補訂版283頁、最判平6・11・22民集48-7-1355、参照。法的判断枠組み(判例)。]

 

民訴法2/ 55/ →当該債権総額から自働債権額を控除し①債権残存額が一部請求額より少ないときは、当該自働債権による対抗額が存在し相殺により消滅、不存在となったことが既判力により確定される。②残存額が一部請求額より多いときは、対抗額がない程少ない自働債権額だったことが既判力により確定される。#民訴法

[『民事訴訟法講義案』再訂補訂版283頁、最判平6・11・22民集48-7-1355、参照。法的判断枠組み(判例)。]


民訴法40/ 252/
債務と責任(執行の可否・範囲)につき、後者は訴訟物ではないが、訴訟物判断と密接に関連する場合、当事者の主張提出を契機に審判対象に取り込まれることがある。
引換給付判決主文に掲げられる反対債務は、このような密接な関連性なく、強制執行開始要件(#民執法31条)の注意的掲示にすぎない。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版284頁参照。[法的判断枠組み(法概念の説明。手続制度間の違いの説明)]

民訴法54/ 290/
売買契約に基づく目的物引渡請求訴訟の同時履行の抗弁による一部認容は、「被告は、500万円の支払を受けるのと引換えに、原告に対し、別紙物件目録記載の動産を引き渡せ、原告のその余の請求を棄却する」との現在給付判決となる。#執行開始要件(民執法31条)記載により単純執行文が付与される。
 藤田『講義 民事訴訟』2版377頁参照。[法的判断枠組み(判決主文の解説)。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系520頁、521頁論点「引換給付判決…」参照。]


民訴法39/ 251/
給付訴訟で、限定承認の抗弁により、責任が限定された留保付確定判決の訴訟物は、直接には給付請求権の存在・範囲だが、限定承認の存在・効力もこれに準ずるものとして審理判断され、主文に明示されるのだから、#既判力に準ずる効力 が認められる。無留保判決を求める後訴は、前訴既判力に抵触する。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版283頁、284頁(最判昭49・4・26民集28-3-503)参照。[法的判断枠組み(判例、法解釈)]

民訴法53/ 289/
訴訟物判断以外の、執行方法明示、引換給付、条件、責任限定などは、#主文に明示されることを必要条件とし_請求権の属性_訴訟物に対する審理と当価値的な攻撃防御が尽くされていることを十分条件として既判力に準ずる効力が決せられる。主文への明示による明確性の担保が争点効理論との違いである。
 藤田『講義 民事訴訟』2版379頁、376頁参照。[法的判断枠組み(判決効)。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系520頁論点「限定承認…」参照。]


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参照:『民事訴訟法講義案』、『新問題研究 要件事実』、藤田『講義 民事訴訟』、『ステップアップ民事事実認定』、『LEGAL QUEST 民事執行・民事保全法』。