ミニマム法律学

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人権/ 非嫡出子の国籍取得差別と法の下の平等

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⚫非嫡出子の国籍取得差別と法の下の平等

 

人権60-67/ 562-569/ 改正前国籍法3条1項は,同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ,#日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設け,これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍取得を認めることとした。#このような立法目的自体には_合理的な根拠がある。

[最大判平20・6・4民集62-6-1367『判例プラクティス憲法』増補版〔48〕,T29(3ア)参照。立法目的の認定]

 

 

/ 日本国民たる父_母の嫡出子,日本国民たる父から胎児認知された非嫡出子,日本国民たる母の非嫡出子も,生来的に日本国籍を取得するのに,日本国民を血統上の親として出生し,法律上の親子関係ある子にもかかわらず,#日本国民たる父から出生後に認知された子のうち準正により嫡出子たる身分を取得しないもの

 

/ に限り,生来的に日本国籍を取得しないのみならず,改正前国籍法3条1項所定の届出により日本国籍を取得することもできないことになる。このような区別の結果,#日本国民たる父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子のみが日本国籍取得について著しい差別的取扱いを受けているものといわざるを得ない。

[事実の分析評価]

 

 

/ #日本国民たる父から胎児認知された子と出生後に認知された子との間において日本国民たる父との家族生活を通じた我が国社会との結び付きの程度に一般的な差異が存するとは考え難く,日本国籍取得に関して上記の区別を設けることの合理性を我が国社会との結び付きの程度という観点から説明するのは困難。

 

/ また,#父母両系血統主義を採用する国籍法の下で,日本国民たる母の非嫡出子が出生により日本国籍を取得するにもかかわらず,日本国民たる父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子が届出による日本国籍取得すら認められないのは,#両性の平等という観点からみてその基本的立場に沿わないところがある。

[同上]

 

/ 日本国民との間に法律上の親子関係を生じた子であるにかかわらず,上記のような非嫡出子にのみ,父母の婚姻という,#子にはどうすることもできない父母の身分行為なき限り,生来的にも届出でも日本国籍取得を認めない点は,立法府裁量権を考慮しても,#立法目的との合理的関連性の範囲を著しく超える手段

[同上。T29(3イ)参照]

 

 

/ 本件区別は,遅くともXが法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時に,#立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間に合理的関連性を欠くものとなっていたと解され,上記時点において,合理的理由のない差別であり,#国籍法33項が本件区別を生じさせていることは_憲法141項に違反する

 

/ 憲法14条1項の平等取扱い要請と国籍法の父母両系血統主義を踏まえれば,父母婚姻により嫡出子身分取得という部分を除き3条1項所定要件を満たす場合,届出で日本国籍取得を認める,#合憲的で合理的な解釈可能で_本件区別による不合理な差別的取扱いを受けている者に直接的な救済のみちを開くためにも相当

[結論]

 

会社法/ 敵対的買収と防衛策

〔企業の買収・結合・再編〕

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敵対的買収と防衛策

 

⚫取締役会による防衛策

[・現に経営支配権争いが生じている場面において、経営支配権の維持・確保を目的(主要目的)とした新株予約券の発行がされた場合には、原則として、不公正な発行として差止請求が認められるべきである(主要目的ルール)。誰を経営者としてどのような事業構成の方針で会社を経営させるかは、株主総会における取締役選任を通じて株主が資本多数決によって決すべき問題というべきだからである。

 もっとも、株主全体の利益保護の観点から当該新株予約権発行を正当化する特段の事情があること、具体的には、敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復し難い損害をもたらす事情があることを会社が疎明、立証した場合には(主要目的ルールの例外)、当該新株予約券発行を差止めることはできない。]

 

 

⚫支配権維持・確保目的の新株等の発行が例外的に適法となる特段の事情の具体例(4類型)

[・支配権維持・確保目的の新株等の発行が例外的に適法となる特段の事情として、以下の4類型をあげることができる。

 買収者が、①ただ株価をつり上げて株式を高値で会社関係者に買い取らせる目的(グリーンメーラー)、②対象会社の知的財産権やノウハウ等を買収者に移譲する目的、③対象会社の資産を買収者の債務の担保や弁済原資として流用する目的、④会社経営を一時的に支配して事業に当面関係していない高額資産等を売却処分させ、売却資金により一時的高配当させる目的、で買収する場合である。

 しかしこれらのうち、③は、対象会社の資産を担保にして買収資金の融資を受ける方法(レバレッジド・バイアウト(LBO)、MBOなどに通常利用される方法)を、また、④は、遊休資産を処分し株主に分配するという経済合理性のある行為を含みうる点で、問題がある。効率的な買収を阻害する結果とならないよう、この4類型は合理的に解釈する必要がある。]

 

 

 

会社法96,97,98/ 企業の買収・結合・再編23,24,25/ 557,558,559/ 現に経営支配権争いが生じている場面で,#経営支配権の維持・確保を主要目的とする新株予約券発行は,原則,不公正な発行として差止請求が認められるべき。誰を経営者としてどのような事業構成の方針で会社を経営させるかは,#株主総会における取締役選任を通じ株主が資本多数決により決すべき問題だから。

 

/ もっとも,#株主全体の利益保護の観点から当該新株予約権発行を正当化する特段の事情,具体的には,敵対的買収者が真摯に合理的経営を目指すものでなく,#敵対的買収者による支配権取得が会社に回復し難い損害をもたらす事情あることを会社が疎明_立証した場合(例外),当該新株予約券発行を差止めできない。

 

/ 支配権維持・確保目的の新株等発行が適法となる特段の事情。買収者が,①株価をつり上げ株式を高値で会社関係者に買い取らせる目的(#グリーンメーラー),②#知的財産権やノウハウ等を横取る目的,③対象会社資産を買収者の債務の担保等に流用する目的,④高額資産等を売却処分させ一時的高配当させる目的。

 

[『LEGAL QUEST会社法』3版441頁-442頁(東京高決平17・3・23判時1899-56,ニッポン放送事件)参照。取締役会の判断による敵対的防衛に対する防衛策(新株予約権発行)への差止請求が認められるか(主要目的ルール,および,例外),例外の4類型]

 

会社法99/ 企業の買収・結合・再編26/ 560/ しかしこれらのうち,③は,#対象会社の資産を担保にして買収資金の融資を受ける方法(レバレッジド・バイアウト(LBO)。MBOなどに通常利用される方法)を,また,④は,#遊休資産を処分し株主に分配するという経済合理性のある行為を含みうる点,問題。効率的買収を阻害しないよう,この4類型を合理的に解釈要。

[『LEGAL QUEST会社法』3版443頁参照。裁判例の呈示したいわゆる4類型の問題点]

 

 

⚫より限定的な目的で取締役会の判断で防衛策を行使すること

[・企業の経営支配権の争いがある場合、現経営陣と敵対的買収者のいずれに経営を委ねるべきかの判断は、株主によってされるべきである。

 対象会社の取締役会としては、株主に適切な情報提供を行い、その適切な判断を可能とする目的で、敵対的買収者に対して事業計画の提案と相当な検討期間の設定を任意で要求することができるのみならず、合理的な要求に応じない買収者に対しては、株主全体の利益保護の観点から相当な手段を採ることが許容される場合が存する。]

 

会社法100/ 企業の買収・結合・再編27/ 561/ 経営支配権争いある場合,現経営陣と敵対的買収者のいずれに経営を委ねるべきか,#株主が判断。対象会社の取締役会は,株主に適切な情報提供,判断を可能にさせる目的で,#買収者に対し事業計画の提案と相当な検討期間の設定を要求でき,合理的要求に応じなければ,#株主全体の利益保護のため相当手段採れる。

[『LEGAL QUEST会社法』3版443頁(東京地決平17・7・29判時1909-87,日本技術開発事件)参照。情報提供と検討期間確保目的のための,取締役会による防衛策]

 

不法行為/ 損害賠償の範囲

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●損害賠償の範囲

[・損害賠償の範囲は、①まず賠償を求められている損害が加害行為と事実的因果関係に立つかどうかが判断される(事実認定)。それが肯定されるならば、②事実的因果関係に立つ損害のうちどこまでのものが保護範囲に含まれるかが判断され(法律解釈とその適用)、含まれるべきだという規範的判断が下されるならば、③保護範囲内の損害について金銭的評価が行われる(裁量的判断)。]

 

法定債権13/ 548/ 損害賠償の範囲は,①#賠償請求される損害が加害行為と事実的因果関係に立つか判断し(事実認定),肯定されるなら,②#事実的因果関係に立つ損害のうちどこまでが保護範囲に含まれるか判断し(法律解釈とその適用),含まれるべきと規範的判断が下されれば,③#保護範囲内の損害につき金銭的評価(裁量的判断)。

[平井『債権各論Ⅱ不法行為』初版110頁(内田『民法Ⅱ』3版390頁)参照。法的判断枠組み(平井理論)]

 

●保護範囲

[・保護範囲は、生じた損害に対する責任を加害者に帰せしめるのが妥当かどうかどの規範的判断であるから、不法行為の要件のうちの故意・過失と密接にかかわることになる。

 まず、故意不法行為においては、原則として事実的因果関係のある損害はすべて賠償されるべきだが、異常な事態の介入の結果生じた損害についてはこの限りでない。

 これに対して過失不法行為においては、保護範囲は、ある損害に対して加害者がそれを回避する義務を負っていると判断されるかどうか、すなわち、ある損害が損害回避義務(過失判断の基準となる行為義務)の及ぶ射程距離内あると判断されるかどうかによって画定される(行為義務の射程、義務射程)。]

 

法定債権15/ 550/ 保護範囲は,故意不法行為では,原則,#事実的因果関係ある損害はすべて賠償さるべきだが,異常な事態介入の結果生じた損害は除く。過失不法行為では,加害者がある損害を回避する義務,すなわち損害回避義務(過失判断の基準となる行為義務)の及ぶ射程距離(#義務射程)内あると判断されるかにより画定される。

[・内田『民法Ⅱ』3版431頁,平井『債権各論Ⅱ不法行為』初版(1992年)110頁,参照。不法行為による損害賠償の範囲についての法的判断枠組み]

 

 ●損害の金銭的評価

[・民法が金銭賠償の原則に立脚する以上(722条1項・417条)、保護範囲内の損害は「金〇〇円」と表示されて賠償請求されなければならず、判決主文は「金〇〇円を支払え」と表示されなければならない(損害の金銭的評価)。

 金額への表示は、事実の確定ではないという意味において、何らかの評価作用の産物である。この点で、金銭的評価は事実的因果関係とは異なる性質を有する。

 しかし、評価作用であるとしても、保護範囲の確定における法律論の定立・適用という規範的判断とも異なる。具体的金額を決定するのは、規範の適用ではなく、あくまで個別的・具体的事案における裁判官の創造的・裁量的判断である。すなわち、その場合に、①諸般の事情を参酌して算定でき(事実審裁判官の専権)、②算定の根拠を示すことを要せず、かつ③事実認定ではなく評価である以上、立証責任の観念を容れる余地がない。]

 

法定債権16/ 551/ 損害の金銭的評価(「金〇〇円」)は,#事実確定ではなく評価作用。事実的因果関係と異なる性質。

保護範囲のような規範的判断(法律論)とも別。具体的金額決定は,#規範適用でなく_個別的・具体的事案での裁判官の創造的・裁量的判断。①諸般の事情参酌し算定,②算定根拠表示不要,③立証責任観念入らない。

[・平井『債権各論Ⅱ不法行為』初版(1992年)129頁-130頁参照。損害の金銭的評価の性質]

 

 ●寄与度減責

[・因果関係が全損害に及ぶとの民法719条1項後段の推定は及びつつ(事実的因果関係あり)、保護範囲ないしは、その範囲内の損害に対する寄与度が、損害全額にまでは及ばない場合(寄与の度合いが明らかに著しく小さい場合)がある。換言すると、当該加害行為が損害発生に寄与した割合の限度で賠償義務を負うとの原理(寄与度減責、帰責性の原理)が働く場面といえる。

 損害一体型における1項後段の類推適用による推定は、事実的因果関係についてなされるに過ぎないとみるべきだから、効果においてこのような考慮をすることは背理ではない。]

 

法定債権17/ 552/ 損害一体型では,因果関係が全損害に及ぶとの民法719条1項後段の推定は及びつつ(事実的因果関係あり),#保護範囲ないし,その範囲内の損害に対する寄与度が損害全額にまでは及ばない場合あり。当該加害行為が損害発生に寄与した割合の限度で賠償義務を負うとの原理(#寄与度減責,帰責性の原理)が働く場面。

[・内田『民法Ⅱ』3版538,447頁参照。共同不法行為(損害一体型,民法719条1項後段類推適用)において,寄与の度合いが明らかに著しく小さい加害者がいる場合の理論構成(法的判断枠組み)]

 

 ●事故+医療過誤

[・Aの過失による交通事故の後、被害者Cを治療した医師Bの過失で被害が拡大した場合、判例では通常、共同不法行為とされる。しかし、加害行為の一体性(民法719条1項前段)はない。

 この場合、Aの加害行為と全損害とは事実的因果関係があるが、Bの加害行為と一部の損害とは事実的因果関係はない。ただ、その部分を確定することが困難なことが多いだけである。そこで、その限りで損害一体型(同条項後段類推)といえる。

 したがって、医師が自己の加害行為と因果関係のない損害を明らかにすれば、その部分は責任を負わないと解する。反面、医師の行為が加わって損害が拡大したという事情を考慮すると、Aの賠償義務についても賠償額の減額がなされる場合もあるといえる。これは、因果関係の不存在による免責ではなく、保護範囲が及ばないこと、あるいは寄与度を理由とする減額である。]

 

法定債権18/ 553/ A過失の交通事故後,被害者治療した医師Bの過失で被害拡大の場合,Aの加害行為と全損害とに事実的因果関係あるが,Bの加害行為と一部損害とにはない。ただ,その部分を確定困難(#損害一体型,民法719条項後段類推)。医師の行為と因果関係なき損害,立証されれば,その部分,責任なし(保護範囲外,#寄与度減責)。

[内田『民法Ⅱ』3版540,535頁参照。事故+医療過誤型の共同不法行為(損害一体型,民法の719条1項後段類推適用)における賠償額の減額のしくみ(法的判断枠組み)]

 

 

不法行為/ 因果関係

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●因果関係要件の意義・機能

[・不法行為法は、権利・利益侵害によって被害者に生じた損害を加害者に転嫁するわけだが、そのような転嫁(帰責)が可能となるためには、まず、行為と権利利益侵害との間に、さらに権利利益侵害(侵害損害)とそれにつづく損害(後続損害)との間に、因果関係がなければならない。前者を責任設定的因果関係、後者を責任範囲の因果関係(責任充足的因果関係)と呼ぶ。民法709条が「故意又は過失によって」というのは、前者の因果関係であり、「これによって生じた」というのは、実質的には、後者の因果関係である。]

 

法定債権12/ 547/ 権利利益侵害によって被害者に生じた損害の加害者への転嫁(帰責)のために,行為と権利利益侵害の間,権利利益侵害(侵害損害)とつづく損害(後続損害)の間に,因果関係要。民法709条「故意又は過失によって」(#責任設定的因果関係),「これによって生じた」(責任範囲の因果関係,#責任充足的因果関係)に該当。

[四宮『不法行為(事務管理・不当利得・不法行為 中・下巻)』403頁-404頁参照。不法行為の因果関係(学説)]

 

●事実的因果関係の意義と認定基準

[・事実的因果関係とは、当該具体的加害者(被告)の行為(conduct=C)が当該具体的被害者(原告)の損害(damage=D)を現実に惹起した、という事実の平面における関係である。

 事実の平面における問題であるから、事実によって立証可能なものであってはじめて判断対象となる。したがって、Cは、外界に変化を生じさせたものでなければならないから、作為義務という規範的判断を前提としてはじめて責任を追及できる事実はCには含まれない。不作為の因果関係として判決例上論じられたものは、作為義務すなわち過失の程度または範囲の問題として考えれば足りる。同様に、Dも事実(外界の変化)であること、すなわち、損害=事実説における損害たることを要する。

 CとDとの間に、もしCがなかったならば、Dは生じなかったであろう(あれなければこれなし公式)という関係が存在すると認められるならば、原則として、事実的因果関係が存在する。もし過失がなかったならば損害が生じなかったであろうと問うことは、過失が規範的概念である以上、事実的因果関係の問題ではなく、過失(行為義務)の程度の問題である。]

 

法定債権19,20/ 554,555/ 事実的因果関係は,具体的加害者(被告)の行為(conduct=C)が具体的被害者(原告)の損害(damage=D)を現実惹起した,という事実平面における関係(事実により立証可能なもの)。Cは外界に変化を生じさせたものでなければならず,#規範的判断を前提とする事実_含まない。Dも損害=#事実説における損害たること要。

[平井『債権各論Ⅱ不法行為』初版(1992年)82頁-83頁参照。事実的因果関係の意義]

 

/ CとD間に,もしCなかったならば,D生じなかったであろう(#あれなければこれなし公式)という関係が存在すると認められるならば,原則,事実的因果関係存在。もし過失なかったならば損害生じなかったであろうと問うことは,過失が規範的概念である以上,事実的因果関係の問題でなく,過失(行為義務)の程度問題。

[平井・同書83頁参照。事実的因果関係の存在が認められる場合(あれなけばこれなし公式,法的判断枠組み)]

 

 

担保物権/ 抵当権に基づく妨害排除請求

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●抵当権に基づく妨害排除請求

[・抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けて占有する者についても、その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認めれ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができる。

 また、抵当権に基づく妨害排除請求権の行使にあたり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できないような場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる。]

 

担保物権4/ 540/ 抵当権設定登記後に,抵当不動産所有者の占有権原設定に競売手続妨害目的があり,交換価値実現が妨げられ優先弁済請求権行使が困難なとき,抵当権者は,占有者に,#抵当権に基づく妨害排除請求可。所有者に不動産の適切維持管理が期待できないなら,抵当権者は,占有者に,#直接自己への不動産明渡しを請求可

[最判平17・3・10民集59-2-356(『判例プラクティス民法Ⅰ』〔340〕),T28(7エ),参照。抵当権に基づく妨害排除請求権]

行政法/ 行政行為の裁量

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●伝統的学説と戦後の判例

[・行政行為は、羈束行為と裁量行為に二分できる。さらに後者は、司法審査の対象となる法規裁量(羈束裁量)と、司法審査の対象外の自由裁量(便宜裁量)に二分できる。これは、行政庁の裁量が要件の認定(要件裁量)にあるのか、行為の選択(効果裁量)にあるのか、の違いである。

 伝統的には、行政庁の要件裁量を法規裁量(羈束裁量)であるとして否定し、司法審査の対象とする(審査密度を高める)ことが試みられてきたが、戦後の判例は、要件の認定にも裁量を認める傾向にある。]

 

行政法38/ 534/ 行政行為を羈束行為と裁量行為に,後者を司法審査対象の法規裁量(羈束裁量)と対象外の自由裁量(便宜裁量)に分け,行政庁の裁量が要件の認定(#要件裁量)にあるか,行為の選択(#効果裁量)にあるか検討。行政庁の要件裁量を羈束裁量として否定し審査密度を高める試み。現在,要件の認定にも裁量を認める傾向。

[『行政判例百選Ⅰ』6版〔76〕155頁参照。行政裁量の統制についての伝統的学説(戦前)および戦後の傾向]

 

●現在の学説

[・現在は、行政庁の判断過程を段階ごとに考察することにより、裁判所の審査密度を高めている。

 すなわち、①法文の意味の確定、②事実認定、③事実認定の構成要件へのあてはめ(要件の認定)、④手続の選択、⑤行為の選択、⑥時の選択というように、各段階に応じて裁量の有無や裁判所による審査の密度が検討される。

 これまでの要件裁量は③の段階、効果裁量は⑤の段階における裁量の問題である。現在では、裁判所の審査密度も高くなってはいるが、③要件裁量の承認や④手続の裁量、⑥時の裁量の登場により、行政庁の裁量領域も拡張の傾向を示しているといえる。]

 

行政法39/ 535/ ①法文の意味確定,②事実認定,③事実認定の構成要件へのあてはめ(#要件の認定),④手続の選択,⑤#行為の選択,⑥時の選択という各段階に応じ裁量の有無,裁判所による審査密度を検討。要件裁量は③,効果裁量は⑤の問題。③要件裁量の承認,④手続裁量,⑥時の裁量の登場により,行政庁の裁量領域も拡張傾向。

[『行政判例百選Ⅰ』6版〔76〕155頁,『LEGAL QUEST行政法』3版108頁,参照。行政庁の判断過程の段階ごとの考察と,裁判所による裁量統制]

 

●行政行為の裁量

行政法15/ 286/ 行政行為は根拠規範の個別事案への法適用結果であり、行政庁の判断は、①法文の意味の確定、②事実認定、③当該事実への法適用(法への事実のあてはめ)、④実際にどのような行政行為を行うかの決定、という過程を経る。①②は裁判所判断が優越し、#③④段階についてのみ行政に終局的に委ねられ得る。

[『LEGAL QUEST行政法』3版108頁参照。法的判断枠組み(基礎的な説明)。]

 

行政法16/ 287/ 事実への法適用(法への事実の包摂)につき、行政庁の判断に終局性が認められる場合を #要件裁量(ただし、覊束裁量、法規裁量)、実際にどのような行政行為を行うかにつき終局性が認められる場合を #効果裁量という。#いつの時点で行うかの裁量、#いかなる手続を経て行うかの裁量の余地もある。

[『LEGAL QUEST行政法』3版108頁~110頁参照。法的判断枠組み(法概念の基礎的説明)。]

 

行政法17/ 288/ 法への事実の包摂につき、#不確定な法概念でもそれだけで要件裁量は認められない。通常人の経験則や社会通念により客観的に認定しうる場合は除く。#専門技術的・政治政策的判断も要する場合に認められうる。その場合も、司法審査を免れる自由裁量(便宜裁量)でなく、覊束裁量(法規裁量)と解する。

[『LEGAL QUEST行政法』3版109頁参照。法的判断枠組み(法律要件についての行政庁の裁量)。]

 

●実体的統制

行政法1/ 33/ 裁量基準は、法律が与えた裁量の範囲内で合理的でなければならず、法律の趣旨・目的を逸脱した不合理なものであれば、それに従ってなされた行政処分も違法となる。もっとも、ある特定のケースへの機械的適用が、かえって法律の趣旨・目的を損なうような場合、個別的な特殊性への配慮を要する。#行政法

[『事例研究 行政法』2版350頁、351頁参照。法的判断枠組み。]

 

●判断過程の統制

行政法14/ 285/ 被侵害利益が重大か、多数人の利益調節を要する場合、原告の権利保護の見地から、裁量判断の逸脱・濫用につき審査密度を高める必要がある。①#重要な事実の基礎を欠くか、②考慮不尽、他事考慮、事実評価の不合理により、#判断内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くならば、違法であると解する。

[『基本から合格答案を即効で書けるようになる本』公法系168頁(最判平18・11・2民集60-9-3239、小田急訴訟本案判決。『事例研究 行政法』2版56頁)参照。法的判断枠組み(裁量について判断過程審査を行うべき場合、および、審査基準)。]

 

●手続の統制 [←後日,書き足すかもしれませんが,とりあえず,タイトルだけ記載。]

行政法/ 不作為による国家賠償責任(申請に対する不応答。規制権限の不行使)

不作為による国家賠償責任(申請に対する不応答。規制権限の不行使)

 

●不作為責任の類型

[・不作為責任には2類型ある。ひとつは、許認可などを求める申請に対する不応答により生じた損害の賠償責任(申請不応答型)であり、もうひとつは、国民の生命・身体・財産等に対する危険を防止するための規制権限の行使の懈怠により生じた損害の賠償責任(規制権限不行使型)である。

 申請に対する不応答に対しては、不作為違法確認訴訟(行訴法3条5項・37条)のほか、行訴法37条の3に基づき、申請型義務付け訴訟も併せて提起して、許認可等の義務付け判決をうることができる。これとは別に、不作為が継続していた間に申請者に生じた損害について、申請処理の遅延による財産的損害の賠償のほか、精神的苦痛に対する慰謝料も賠償の対象となる。

 規制権限不行使型については、行政庁に対して規制権限を行使することの義務付けを求める訴え(行訴法37条の2)のほか、国民の生命、身体等への危険を防止するための規制権限が行使されず、その結果、被害が発生した場合には、国または公共団体が損害賠償責任を追求されることになる(危険管理責任ないし危険防止責任)。]

 

行政法30/ 517/ ①許認可などを求める申請に対する不応答より生じた損害の賠償責任,②国民の生命_身体_財産等に対する危険防止のための規制権限行使の懈怠により生じた損害の賠償責任。①#不作為違法確認訴訟(行訴法3条5項_37条),#申請型義務付け訴訟(37条の3)も提起。②#規制権限行使の義務付け訴訟(37条の2)も提起。

[『LEGAL QUEST行政法』3版312頁-313頁参照。行政庁の不作為責任追求のための現行法上の制度枠組み]

 

■申請に対する不応答

 

■規制権限の不行使

●反射的利益論、行政便宜主義と批判

[・人の生命・身体に関わる利益については行政活動において常に考慮・尊重されるべきものであるから、国家賠償法上も法的保護利益であると解する(単なる反射的利益ではない)。そして、規制権限を付与した法令の目的が、たとえば、水産動植物の繁殖保護である場合、文言上明らかな直接の目的に限定せず、それら水産動植物を摂取する者の生命・健康という利益をも究極の目的とするものとみて、保護範囲を拡張的に解釈すべきである。

 また、行政庁の権限行使の裁量を尊重しつつも、一定の場合にそれが収縮して権限の行使が義務づけられると解しうる(裁量収縮論)。さらに、被規制者の利益よりも規制の受益者となる国民の生命・健康を重視すべきであり(健康権論)、これを保護するための権限行使の裁量性(行政便宜主義、自由裁量論)は認められず、一定の場合に端的に権限行使が義務づけられると解する(作為義務論)。]

 

行政法37,38/ 532,533/ #人の生命_身体に関わる利益は行政活動で常に考慮_尊重されるべきだから,国家賠償法上も法的保護利益(#反射的利益でない)。規制権限を付与した法令の目的が,例えば,水産動植物の繁殖保護なら,文言上明らかな直接目的に限らず,摂取する者の生命_健康という利益をも究極目的とみて保護範囲を拡張すべき。

[『LEGAL QUEST行政法』3版314頁-315頁(最判平16・10・5民集58-7-1802,水俣病関西訴訟)参照。規制権限に係る根拠規範の保護範囲内か(規制権限の不行使が違法となるか。大前提)]

 

/ 行政庁の権限行使裁量を尊重しつつ,#一定の場合_それが収縮し権限行使が義務づけられる(裁量収縮論)。#被規制者の利益より規制の受益者たる国民の生命_健康を重視すべき(健康権論),これを保護するための権限行使の裁量(行政便宜主義,自由裁量論)は認められず,#一定の場合_義務づけられる(作為義務論)。

[同書315頁参照。行政便宜主義ないし自由裁量論の否定(理論的説明)]

 

●違法性の判断枠組み・要素

行政法4/ 84/ 規制権限不行使は、根拠法令の趣旨目的、権限の性質等に照らし、具体的事情の下、その不行使が許容される限度を逸脱し著しく合理性を欠くと認められるときに不行使による被害者との関係において、#国賠法1条1項 の適用上違法となる。危険の存在、予見可能性、回避可能性、期待可能性等が考慮される。

[『LEGAL QUEST 会社法』3版316頁(最判平16・10・15民集58-7-1802)参照。法定判断枠組み(違法性の判断基準)]

 

●規制権限不行使による国家賠償責任

[・権限の不行使を違法と判断するためには、①国民の生命・身体・健康に対する毀損という結果発生の危険(危険の存在)、②行政庁において危険の切迫を知りまたは容易に知り得べかりし情況にあったこと(予見可能性)、③行政庁において規制権限を行使すれば容易に結果の発生を防止できたこと(結果回避可能性)、④行政庁が権限を行使しなければ結果の発生を防止できなかったこと(補充性)、⑤被害者として規制権限の行使を要請し期待することが社会的に容認されうること(期待可能性)の5要件をみたす必要があると解する。]

 

行政法29/ 516/ 権限不行使の違法は,①#国民の生命_身体_健康の毀損の危険の存在,②行政庁が危険の切迫を知り・容易に知り得た(#予見可能),③権限行使すれば容易に防止可(#結果回避可能),④行使なければ結果発生を防止できなかった(#補充性),⑤規制権限行使への被害者の期待が社会的に容認しうる(#期待可能)かで判断。

[『事例研究 行政法』2版125頁(東京地判昭53・8・3判時899-48,東京スモン訴訟第1審)参照。事例の分析・評価方法]

 

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