ミニマム法律学

法律書等を読んで,理解し覚えられるように短くまとめて行こうと思っています。ツイッター→https://twitter.com/right_droit YouTube(判例原文の音読)→https://www.youtube.com/channel/UCqVOy5zBmI3GzOI_WF5Dc6Q/featured

不法行為/ 因果関係

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●因果関係要件の意義・機能

[・不法行為法は、権利・利益侵害によって被害者に生じた損害を加害者に転嫁するわけだが、そのような転嫁(帰責)が可能となるためには、まず、行為と権利利益侵害との間に、さらに権利利益侵害(侵害損害)とそれにつづく損害(後続損害)との間に、因果関係がなければならない。前者を責任設定的因果関係、後者を責任範囲の因果関係(責任充足的因果関係)と呼ぶ。民法709条が「故意又は過失によって」というのは、前者の因果関係であり、「これによって生じた」というのは、実質的には、後者の因果関係である。]

 

法定債権12/ 547/ 権利利益侵害によって被害者に生じた損害の加害者への転嫁(帰責)のために,行為と権利利益侵害の間,権利利益侵害(侵害損害)とつづく損害(後続損害)の間に,因果関係要。民法709条「故意又は過失によって」(#責任設定的因果関係),「これによって生じた」(責任範囲の因果関係,#責任充足的因果関係)に該当。

[四宮『不法行為(事務管理・不当利得・不法行為 中・下巻)』403頁-404頁参照。不法行為の因果関係(学説)]

 

●事実的因果関係の意義と認定基準

[・事実的因果関係とは、当該具体的加害者(被告)の行為(conduct=C)が当該具体的被害者(原告)の損害(damage=D)を現実に惹起した、という事実の平面における関係である。

 事実の平面における問題であるから、事実によって立証可能なものであってはじめて判断対象となる。したがって、Cは、外界に変化を生じさせたものでなければならないから、作為義務という規範的判断を前提としてはじめて責任を追及できる事実はCには含まれない。不作為の因果関係として判決例上論じられたものは、作為義務すなわち過失の程度または範囲の問題として考えれば足りる。同様に、Dも事実(外界の変化)であること、すなわち、損害=事実説における損害たることを要する。

 CとDとの間に、もしCがなかったならば、Dは生じなかったであろう(あれなければこれなし公式)という関係が存在すると認められるならば、原則として、事実的因果関係が存在する。もし過失がなかったならば損害が生じなかったであろうと問うことは、過失が規範的概念である以上、事実的因果関係の問題ではなく、過失(行為義務)の程度の問題である。]

 

法定債権19,20/ 554,555/ 事実的因果関係は,具体的加害者(被告)の行為(conduct=C)が具体的被害者(原告)の損害(damage=D)を現実惹起した,という事実平面における関係(事実により立証可能なもの)。Cは外界に変化を生じさせたものでなければならず,#規範的判断を前提とする事実_含まない。Dも損害=#事実説における損害たること要。

[平井『債権各論Ⅱ不法行為』初版(1992年)82頁-83頁参照。事実的因果関係の意義]

 

/ CとD間に,もしCなかったならば,D生じなかったであろう(#あれなければこれなし公式)という関係が存在すると認められるならば,原則,事実的因果関係存在。もし過失なかったならば損害生じなかったであろうと問うことは,過失が規範的概念である以上,事実的因果関係の問題でなく,過失(行為義務)の程度問題。

[平井・同書83頁参照。事実的因果関係の存在が認められる場合(あれなけばこれなし公式,法的判断枠組み)]

 

 

担保物権/ 抵当権に基づく妨害排除請求

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●抵当権に基づく妨害排除請求

[・抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けて占有する者についても、その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認めれ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができる。

 また、抵当権に基づく妨害排除請求権の行使にあたり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できないような場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる。]

 

担保物権4/ 540/ 抵当権設定登記後に,抵当不動産所有者の占有権原設定に競売手続妨害目的があり,交換価値実現が妨げられ優先弁済請求権行使が困難なとき,抵当権者は,占有者に,#抵当権に基づく妨害排除請求可。所有者に不動産の適切維持管理が期待できないなら,抵当権者は,占有者に,#直接自己への不動産明渡しを請求可

[最判平17・3・10民集59-2-356(『判例プラクティス民法Ⅰ』〔340〕),T28(7エ),参照。抵当権に基づく妨害排除請求権]

行政法/ 行政行為の裁量

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●伝統的学説と戦後の判例

[・行政行為は、羈束行為と裁量行為に二分できる。さらに後者は、司法審査の対象となる法規裁量(羈束裁量)と、司法審査の対象外の自由裁量(便宜裁量)に二分できる。これは、行政庁の裁量が要件の認定(要件裁量)にあるのか、行為の選択(効果裁量)にあるのか、の違いである。

 伝統的には、行政庁の要件裁量を法規裁量(羈束裁量)であるとして否定し、司法審査の対象とする(審査密度を高める)ことが試みられてきたが、戦後の判例は、要件の認定にも裁量を認める傾向にある。]

 

行政法38/ 534/ 行政行為を羈束行為と裁量行為に,後者を司法審査対象の法規裁量(羈束裁量)と対象外の自由裁量(便宜裁量)に分け,行政庁の裁量が要件の認定(#要件裁量)にあるか,行為の選択(#効果裁量)にあるか検討。行政庁の要件裁量を羈束裁量として否定し審査密度を高める試み。現在,要件の認定にも裁量を認める傾向。

[『行政判例百選Ⅰ』6版〔76〕155頁参照。行政裁量の統制についての伝統的学説(戦前)および戦後の傾向]

 

●現在の学説

[・現在は、行政庁の判断過程を段階ごとに考察することにより、裁判所の審査密度を高めている。

 すなわち、①法文の意味の確定、②事実認定、③事実認定の構成要件へのあてはめ(要件の認定)、④手続の選択、⑤行為の選択、⑥時の選択というように、各段階に応じて裁量の有無や裁判所による審査の密度が検討される。

 これまでの要件裁量は③の段階、効果裁量は⑤の段階における裁量の問題である。現在では、裁判所の審査密度も高くなってはいるが、③要件裁量の承認や④手続の裁量、⑥時の裁量の登場により、行政庁の裁量領域も拡張の傾向を示しているといえる。]

 

行政法39/ 535/ ①法文の意味確定,②事実認定,③事実認定の構成要件へのあてはめ(#要件の認定),④手続の選択,⑤#行為の選択,⑥時の選択という各段階に応じ裁量の有無,裁判所による審査密度を検討。要件裁量は③,効果裁量は⑤の問題。③要件裁量の承認,④手続裁量,⑥時の裁量の登場により,行政庁の裁量領域も拡張傾向。

[『行政判例百選Ⅰ』6版〔76〕155頁,『LEGAL QUEST行政法』3版108頁,参照。行政庁の判断過程の段階ごとの考察と,裁判所による裁量統制]

 

●行政行為の裁量

行政法15/ 286/ 行政行為は根拠規範の個別事案への法適用結果であり、行政庁の判断は、①法文の意味の確定、②事実認定、③当該事実への法適用(法への事実のあてはめ)、④実際にどのような行政行為を行うかの決定、という過程を経る。①②は裁判所判断が優越し、#③④段階についてのみ行政に終局的に委ねられ得る。

[『LEGAL QUEST行政法』3版108頁参照。法的判断枠組み(基礎的な説明)。]

 

行政法16/ 287/ 事実への法適用(法への事実の包摂)につき、行政庁の判断に終局性が認められる場合を #要件裁量(ただし、覊束裁量、法規裁量)、実際にどのような行政行為を行うかにつき終局性が認められる場合を #効果裁量という。#いつの時点で行うかの裁量、#いかなる手続を経て行うかの裁量の余地もある。

[『LEGAL QUEST行政法』3版108頁~110頁参照。法的判断枠組み(法概念の基礎的説明)。]

 

行政法17/ 288/ 法への事実の包摂につき、#不確定な法概念でもそれだけで要件裁量は認められない。通常人の経験則や社会通念により客観的に認定しうる場合は除く。#専門技術的・政治政策的判断も要する場合に認められうる。その場合も、司法審査を免れる自由裁量(便宜裁量)でなく、覊束裁量(法規裁量)と解する。

[『LEGAL QUEST行政法』3版109頁参照。法的判断枠組み(法律要件についての行政庁の裁量)。]

 

●実体的統制

行政法1/ 33/ 裁量基準は、法律が与えた裁量の範囲内で合理的でなければならず、法律の趣旨・目的を逸脱した不合理なものであれば、それに従ってなされた行政処分も違法となる。もっとも、ある特定のケースへの機械的適用が、かえって法律の趣旨・目的を損なうような場合、個別的な特殊性への配慮を要する。#行政法

[『事例研究 行政法』2版350頁、351頁参照。法的判断枠組み。]

 

●判断過程の統制

行政法14/ 285/ 被侵害利益が重大か、多数人の利益調節を要する場合、原告の権利保護の見地から、裁量判断の逸脱・濫用につき審査密度を高める必要がある。①#重要な事実の基礎を欠くか、②考慮不尽、他事考慮、事実評価の不合理により、#判断内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くならば、違法であると解する。

[『基本から合格答案を即効で書けるようになる本』公法系168頁(最判平18・11・2民集60-9-3239、小田急訴訟本案判決。『事例研究 行政法』2版56頁)参照。法的判断枠組み(裁量について判断過程審査を行うべき場合、および、審査基準)。]

 

●手続の統制 [←後日,書き足すかもしれませんが,とりあえず,タイトルだけ記載。]

行政法/ 不作為による国家賠償責任(申請に対する不応答。規制権限の不行使)

不作為による国家賠償責任(申請に対する不応答。規制権限の不行使)

 

●不作為責任の類型

[・不作為責任には2類型ある。ひとつは、許認可などを求める申請に対する不応答により生じた損害の賠償責任(申請不応答型)であり、もうひとつは、国民の生命・身体・財産等に対する危険を防止するための規制権限の行使の懈怠により生じた損害の賠償責任(規制権限不行使型)である。

 申請に対する不応答に対しては、不作為違法確認訴訟(行訴法3条5項・37条)のほか、行訴法37条の3に基づき、申請型義務付け訴訟も併せて提起して、許認可等の義務付け判決をうることができる。これとは別に、不作為が継続していた間に申請者に生じた損害について、申請処理の遅延による財産的損害の賠償のほか、精神的苦痛に対する慰謝料も賠償の対象となる。

 規制権限不行使型については、行政庁に対して規制権限を行使することの義務付けを求める訴え(行訴法37条の2)のほか、国民の生命、身体等への危険を防止するための規制権限が行使されず、その結果、被害が発生した場合には、国または公共団体が損害賠償責任を追求されることになる(危険管理責任ないし危険防止責任)。]

 

行政法30/ 517/ ①許認可などを求める申請に対する不応答より生じた損害の賠償責任,②国民の生命_身体_財産等に対する危険防止のための規制権限行使の懈怠により生じた損害の賠償責任。①#不作為違法確認訴訟(行訴法3条5項_37条),#申請型義務付け訴訟(37条の3)も提起。②#規制権限行使の義務付け訴訟(37条の2)も提起。

[『LEGAL QUEST行政法』3版312頁-313頁参照。行政庁の不作為責任追求のための現行法上の制度枠組み]

 

■申請に対する不応答

 

■規制権限の不行使

●反射的利益論、行政便宜主義と批判

[・人の生命・身体に関わる利益については行政活動において常に考慮・尊重されるべきものであるから、国家賠償法上も法的保護利益であると解する(単なる反射的利益ではない)。そして、規制権限を付与した法令の目的が、たとえば、水産動植物の繁殖保護である場合、文言上明らかな直接の目的に限定せず、それら水産動植物を摂取する者の生命・健康という利益をも究極の目的とするものとみて、保護範囲を拡張的に解釈すべきである。

 また、行政庁の権限行使の裁量を尊重しつつも、一定の場合にそれが収縮して権限の行使が義務づけられると解しうる(裁量収縮論)。さらに、被規制者の利益よりも規制の受益者となる国民の生命・健康を重視すべきであり(健康権論)、これを保護するための権限行使の裁量性(行政便宜主義、自由裁量論)は認められず、一定の場合に端的に権限行使が義務づけられると解する(作為義務論)。]

 

行政法37,38/ 532,533/ #人の生命_身体に関わる利益は行政活動で常に考慮_尊重されるべきだから,国家賠償法上も法的保護利益(#反射的利益でない)。規制権限を付与した法令の目的が,例えば,水産動植物の繁殖保護なら,文言上明らかな直接目的に限らず,摂取する者の生命_健康という利益をも究極目的とみて保護範囲を拡張すべき。

[『LEGAL QUEST行政法』3版314頁-315頁(最判平16・10・5民集58-7-1802,水俣病関西訴訟)参照。規制権限に係る根拠規範の保護範囲内か(規制権限の不行使が違法となるか。大前提)]

 

/ 行政庁の権限行使裁量を尊重しつつ,#一定の場合_それが収縮し権限行使が義務づけられる(裁量収縮論)。#被規制者の利益より規制の受益者たる国民の生命_健康を重視すべき(健康権論),これを保護するための権限行使の裁量(行政便宜主義,自由裁量論)は認められず,#一定の場合_義務づけられる(作為義務論)。

[同書315頁参照。行政便宜主義ないし自由裁量論の否定(理論的説明)]

 

●違法性の判断枠組み・要素

行政法4/ 84/ 規制権限不行使は、根拠法令の趣旨目的、権限の性質等に照らし、具体的事情の下、その不行使が許容される限度を逸脱し著しく合理性を欠くと認められるときに不行使による被害者との関係において、#国賠法1条1項 の適用上違法となる。危険の存在、予見可能性、回避可能性、期待可能性等が考慮される。

[『LEGAL QUEST 会社法』3版316頁(最判平16・10・15民集58-7-1802)参照。法定判断枠組み(違法性の判断基準)]

 

●規制権限不行使による国家賠償責任

[・権限の不行使を違法と判断するためには、①国民の生命・身体・健康に対する毀損という結果発生の危険(危険の存在)、②行政庁において危険の切迫を知りまたは容易に知り得べかりし情況にあったこと(予見可能性)、③行政庁において規制権限を行使すれば容易に結果の発生を防止できたこと(結果回避可能性)、④行政庁が権限を行使しなければ結果の発生を防止できなかったこと(補充性)、⑤被害者として規制権限の行使を要請し期待することが社会的に容認されうること(期待可能性)の5要件をみたす必要があると解する。]

 

行政法29/ 516/ 権限不行使の違法は,①#国民の生命_身体_健康の毀損の危険の存在,②行政庁が危険の切迫を知り・容易に知り得た(#予見可能),③権限行使すれば容易に防止可(#結果回避可能),④行使なければ結果発生を防止できなかった(#補充性),⑤規制権限行使への被害者の期待が社会的に容認しうる(#期待可能)かで判断。

[『事例研究 行政法』2版125頁(東京地判昭53・8・3判時899-48,東京スモン訴訟第1審)参照。事例の分析・評価方法]

 

right-droit.hatenablog.com

刑訴法/ 強制処分と任意処分

 法律書等を読み140字以内でまとめています。法律論文試験の法的三段論法で,①大前提(法的判断枠組み)として使えるか,②小前提(事実の分析・評価)として使えるかなど考えています。

 規範・定義などの法的判断枠組み(法的知識)も,①大前提で使う場合もあれば,②小前提における事実の分析道具として使う場合もあれば,問題提起において,与えられた事実の分析道具(事案の問題提起)として使い,その事案で何が一番法的に問題となるのか(論点の問題提起)を導く知識として使う場合もあるんだろうなーと思います。

 間違い等ご指摘頂ければ,ありがたいです。 twitter.com, http://twpf.jp/right_droit

 

●強制処分

[・強制処分(刑訴法197条1項ただし書)とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない処分いう。その程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合がある。ただ、強制手段にあたらない有形力の行使であっても、何らかの法益を侵害しまたは侵害するおそれがあるのだから、状況のいかんを問わず常に許容されるものではなく、必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度で許容される。]

 

刑訴法51/ 505/ 強制処分(刑訴法197条1項ただし書)は,#個人意思を制圧し_身体_住居_財産等を制約し強制的に捜査目的を実現するなど,特別の根拠規定なければ許容されない処分。その程度に至らない有形力行使も,何らか法益侵害のおそれあるので,#必要性_緊急性など考慮し_具体的状況下_相当と認められる限度でのみ許容。

[最決昭51316刑集30-2-187(刑事訴訟法判例百選』10版〔1),R27②採点実感(刑事系科目第2)3,参照。法的判断枠組み(判例)]

 

刑訴法4/ 捜査4/ 22/ 「強制の処分」(#刑訴法197条1項 ただし書)とは、人の(明示ないし黙示の)意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、重要な権利・利益の侵害となるため、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段による場合をいう。

[辰巳『趣旨・規範ハンドブック』刑事系5版189頁、190頁、寺崎『刑事訴訟法』3版73頁注17、など参照。法的判断枠組み(条文の文言の意義)]

 

刑訴法5/ 捜査5/ 23/ 任意捜査とはいえ何らか法益を侵害し、侵害するおそれがあるから、捜査のため必要な限度、①捜査の必要性・緊急性等を考慮し、②具体的状況のもと、相当と認められる限度、でのみ許される。①事案の性質、容疑の程度、②被疑者の意思、取調べの時間帯・長さ、行動の規制状況が考慮事情となる。#刑訴法

[辰巳『趣旨・規範ハンドブック』刑事系5版190頁参照。法的判断枠組み(事実の評価方法)]

 

●宿泊を伴う取調べ

[・任意捜査においては、強制手段すなわち、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当できない手段を用いることが許されないのはいうまでもないが、任意捜査の一環としての被疑者に対する取調べは、そのような強制手段によることができないだけでなく、さらに、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様および限度において、許容されるものである。]

[・Xの住居はT警察署からさほど遠くはなく、深夜であっても帰宅できない特段の事情も見当たらない上、第1日目の夜は、捜査官が同宿しXの挙動を直接監視し、第2日目以降も、捜査官らがホテルに同宿こそしなかったもののその周辺に張り込んでXの挙動を監視しており、しかもこの間午前中から深夜に至るまでの長時間、連日にわたって本件についての追及、取調べが続けられたものであって、これらの諸事情に徴すると、Xは、捜査官の意向にそうように、このような宿泊を伴う連日にわたる長時間の取調べに応じざるを得ない状況に置かれていたものとみられる一面もあり、その期間も長く、任意取調べとして必ずしも妥当なものであったとはいい難い。]

[・しかしながら、他面、Xは、初日の宿泊について「どこかの宿泊所に泊めてほしい」旨の答申書を出しており、また、記録上、Xが取調べや宿泊を拒否し、調べ室あるいは宿泊施設から退去し帰宅することを申し出たり、そのような行動に出た証跡はなく、捜査官らが、取調べを強行し、Xの退去、帰宅を拒絶したり制止したというような事実もうかがわれないのであって、これらの諸事情を総合すると、取調べにせよ宿泊にせよ、結局、Xがその意思によりこれを容認し応じていたものと認められる。]

[・宿泊の点など任意捜査の方法として必ずしも妥当とはいい難いが、Xが任意に応じていたものと認められるばかりでなく、事案の性質上、速やかにXから詳細な事情および弁解を聴取する必要性があったものと認められることなどの具体的状況を総合すると、結局、社会通念上やむを得なかったものというべく、任意捜査として許容される限界を超えた違法なものであったとまでは断じ難い。」

 

刑訴法52/ 528/ 任意捜査で,強制手段(個人の意思を制圧し,身体,住居,財産等を制約し強制的に捜査目的を実現する行為など特別の根拠規定なければ許容できない手段)は用いえないが,任意捜査たる被疑者取調べは,#事案の性質_容疑の程度_被疑者態度等諸般の事情を勘案し_社会通念上相当な方法_態様_限度でのみ許容される。

[最判昭59・2・29刑集38-3-479(高輪グリーン・マンション殺人事件,『刑事訴訟法判例百選』10版〔6〕)参照。任意捜査が許容されるか否かの判断の仕方]

 

刑訴法53/ 529/ X住居は遠くなく,帰宅できない特段の事情もない上,1日目夜は,捜査官が同宿しXの挙動を直接監視,2日目以降も,捜査官らがホテル周辺に張り込み監視,しかも午前中から深夜まで長時間連日,取調べが続けられたのであり,#Xは宿泊を伴う連日の長時間取調べに応じざるを得ず_期間も長く,任意取調べとして不当。

[事実の分析・評価]

 

刑訴法54/ 530/ 他面,Xは,初日宿泊時「どこかの宿泊所に泊めてほしい」旨の答申書を出しており,#記録上,取調べや宿泊を拒否,調べ室・宿泊施設からの退去,帰宅の申し出の証跡なく,取調べの強行,退去,帰宅の拒絶・制止もうかがわれないので,#諸事情を総合すると,結局,Xがその意思によりを容認し応じていたと認められる。

[小前提(事実の分析・評価例)]

 

刑訴法55/ 531/ 宿泊など任意捜査方法として必ずしも妥当とはいい難いが,Xが任意に応じていたと認められるばかりでなく,事案の性質上,速やかな詳細な事情_弁解聴取の必要性があったなど,具体的状況を総合すると,結局,#社会通念上やむを得なかったもので,任意捜査として許容される限界を超えた違法なものとはいえない。

[結論]

 

●被告人の自白を同房者を通じて得ようとする捜査手法

刑訴法6/ 捜査6/ 24/ 被告人の自白を同房者を通じて得ようとうする捜査手法は違法である。これは任意捜査の限界を超える。身柄留置を犯罪捜査に濫用するものであり、他の捜査手法を用いることが困難であったということもできないから、捜査手法として相当性を欠く。#刑訴法

[辰巳『趣旨・規範ハンドブック』刑事系5191頁(福岡地小倉支判平2035)参照。事実の分析・評価例]

 

GPS捜査

刑訴法22/ 捜査12/ 180/ 憲法35条は、「所持品」等に準ずる私的領域へ「侵入」されない権利も保障している。個人のプライバシー侵害を可能とする機器を所持品に秘かに装着し、個人の合理的意思に反し、その私的領域に侵入する捜査手法たるGPS捜査は、個人の意思を制圧し重要な法的利益を侵害する #強制処分 にあたる。

[最大判平29・3・15平28年(あ)442号、LEX/DB25448527参照。事実の評価例(GPS捜査が、「強制の処分」(刑訴法197条1項ただし書)にあたるか)]

 

刑訴法23/ 捜査13/ 181/ #GPS捜査 は対象車両の移動状況等を把握する点、検証の性質をもつが、端末を付けた車両を通じ使用者の所在を検索する点で異なる。検証・捜索許可状でも、被疑事実と無関係の使用者の行動の、継続的網羅的で、過剰な把握を抑制できず(令状主義違反)、事前の令状呈示もできない(適正手続違反)。

[最大判2931528()442号、LEXDB25448527参照。事実の分析(GPS捜査の法的性質、検証許可状・捜索許可状の発付で行うことができるか?)GPS捜査という現に行われていた・いる事実としての捜査手法の分析。その法的評価・分析。]

 

行政法/ 不作為の違法確認訴訟

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●不作為の違法確認訴訟の訴訟要件

[・不作為の違法確認訴訟に原告適格を有するのは、処分(または裁決)についての申請をした者に限る(行訴法37条)。「申請」とは「法令に基づく申請」(3条5項)をいう。取消訴訟の被告適格(11条)および管轄(12条)の規定が準用されている(38条1項)。審査請求前置に関する規定(8条)も準用されているので(38条4項)、法律に前置主義を定める規定があるときは、まず審査請求を行わなければならない。処分性については、法令が処分(または裁決)を申請する制度を設けていることが前提なので、取り立てて問題とはならない。明文規定はないが、訴訟提起の後に処分がなされた場合などでは、(狭義の)訴えの利益が消滅すると解される。出訴期間は設けられていないので、不作為状態が継続する限りいつでも提起できる。]

 

行政法31/ 518/ 不作為違法確認訴訟の原告適格は,処分(裁決)の申請者にある(行訴法37条)。#法令に基づく申請(3条5項)。取消訴訟の被告適格(11条),管轄(12条)準用。#法律に前置主義規定あれば_まず審査請求要(38条4項_8条)訴訟提起後に処分がされた場合など,(狭義の)訴えの利益消滅。#不作為状態継続する限り提起可。

[『LEGAL QUEST行政法』3版260頁-261頁参照。訴訟要件]

民訴法/ 補助参加

法律書等を読み,140字以内にまとめています。その際,法律論文試験で,①法的判断枠組み(大前提),②事実の分析・評価(小前提,あるいは,問題提起部分)のどちらに使えるかも考えるようにしています。間違い等ございましたら,ご指摘お願い致します。 twitter.com, http://twpf.jp/right_droit

 

■補助参加

●補助参加の要件 

民訴法7/ 101/ 補助参加の要件は、①訴訟の結果に②利害関係を有することである(#民訴法42条)。②は、法律上の利害関係であり、私法上または公法上の法的地位法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合をいう。判決効が及ぶ場合に限られない。①は、判決主文で判断される訴訟物たる権利・法律関係の存否を指す。

[『民事訴訟法講義案』再訂補訂版312313頁参照。法的判断枠組み]

 

●補助参加の手続

民訴法93/ 495/ 補助参加の申出は,#参加の趣旨(いかなる訴訟でどちらの当事者に参加するのか),#理由(利害関係あることの事情)を明らかにし,参加後訴訟行為すべき裁判所にする(民訴法43条1項)。参加の理由具備は,当事者が異議を述べた場合に限り調査。異議が述べられたときは,参加人は,参加理由を疎明要(44条1項後段)。

[『講義案民事訴訟法』再訂補訂版313頁_314頁,森『ベーシック・ノート民事訴訟法』新訂版301頁,参照。法的判断枠組み(条文制度)]

 

 ●補助参加人の訴訟上の地位

民訴訟94/ 496/ 補助参加人は,自らの利益保全を最終目的とし,既存の訴訟当事者の意思に反しても参加でき,自己の名と費用投下において訴訟追行。単なる補助者ではなく,#当事者から独立した地位。しかし,独自請求を定立し訴訟当事者となるものではなく(#従たる当事者),あくまで他人の訴訟を補助する複合的性格を有する。

[『講義案民事訴訟法』再訂補訂版314頁,参照。法的判断枠組み]

 

 ●既判力と参加的効力の相違点

民訴法95/ 501/ ①既判力は,公権的紛争解決,蒸し返し禁止の制度で,勝訴結果にかかわらず,当事者双方に生じ,職権調査事項。②参加的効力は,#補助参加人と被参加人との共同訴訟追行に基づく敗訴責任分担のための衡平の要請。被参加人敗訴の場合だけ。当事者援用要。理由中の敗訴理由となった事実認定,法律判断に生じる。

[森『ベーシック・ノート民事訴訟法』新訂版302頁(参加的効力説,兼子・双書231頁など通説,最判昭45・10・22など),参照。法的判断枠組み(基礎理論)]