ミニマム法律学

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会社法: 機関 - 役員等の義務、利益衝突

法律関係書を読み,140字以内にまとめ. 可能な範囲で①法的判断枠組み.②事実の分析・評価に分けています。間違い等のご指摘いただけたら有難いです、よろしくお願い致します。 https://twitter.com/right_droit  http://twpf.jp/right_droit

 

〔役員等の義務、利益衝突〕

商法22/ 会社法22/ 167/ 取締役が自己または第三者のために会社と取引をしようとするときは(直接取引)、当該取締役は、重要な事実を開示し、取締役会ないし株主総会の承認を受けなければならない(#会社法356条1項2号・365条1項参照)。当該取締役は、特別利害関係があるため、議決に加われない(369条2項)。
[『LEGAL QUEST会社法』3版219、221頁参照。法的判断枠組み。]

 

商法23/ 会社法23/ 168/ 会社が取締役以外の者と、会社と取締役の利益が相反する取引をしようとするときも(間接取引)、取締役会ないし株主総会の承認を要する(#会社法356条1項3号・365条1項)。取締役の債務を保証し債務不履行となれば債権者が会社に請求するのであり、取締役への貸付と同様といえるからである。
[『LEGAL QUEST会社法』3版220頁参照。法的判断枠組み。]

 

商法47/ 会社法47/ 204/ #会社法356条1項3号に例示される債務保証のほか、債務引受、担保の提供も規制される。その他、会社と第三者の間の取引で、外形的・客観的に会社の犠牲で取締役に利益が生じる形の行為が同条項3号の規制対象になると解される。相対的無効説をとっても、取引安全は十分に確保されないからである。
[『LEGAL QUEST会社法』3版220頁参照。法的判断枠組み(条文の規制対象。規範の定立)。]

 

商法24/ 会社法24/ 169/ 会社法356条1項3号は、会社と第三者の間の間接取引で外形的・客観的に会社の犠牲で取締役に利益が生じる形の行為も規制する。
ただし、同条項2号3号は、取締役が裁量行使し会社の利益を害するおそれなき行為は規制しない。無担保での借受け、債務の履行、普通取引約款による取引などである。
[『LEGAL QUEST会社法』3版220、221頁参照。法的判断枠組み、および、事実の評価例。]

 

商法25/ 会社法25/ 170/ 承認なき利益相反取引(#会社法356条1項2号3号)につき、直接取引の相手方取締役に対し、会社は、取引無効を主張できる。間接取引の相手方や、会社振出の約束手形等の転得者に対し、取引安全のため、その者の悪意の主張立証を要する。会社利益保護制度なので、相手方からの無効主張はできない。
[『LEGAL QUEST会社法』3版222頁参照。法的判断枠組み。]

 

商法26/ 会社法26/ 171/ 取締役が会社事業と競業する事業を行うことは、会社の利益を害する危険が大きい。取締役は会社のノウハウや顧客を奪ったり、自身の職務を手抜きするおそれもある。取締役が別の会社を代表して行う場合も同様である。会社の利益を守るため、競業取引の規制がなされている(#会社法356条1項1号)。
[『LEGAL QUEST会社法』3版223頁、『合格答案を即効で書けるようになる本 ②民事系』143頁、参照。法的判断枠組み(制度趣旨)。]

 

商法27/ 会社法27/ 172/会社法356条1項1号 の「ために」とは、同2号と異なり、取引の実質的な利益帰属者(の計算で)を示すと解する。「会社の事業の部類に属する取引」とは、会社の現在の事業、および、進出のために準備を進めている事業、で行われる取引と目的物、市場(地域・流通段階等)が競業する取引をいう。
[『LEGAL QUEST会社法』3版223、224頁、『合格答案を即効で書けるようになる本 ②民事系』143頁、参照。法的判断枠組み(条文の文言解釈)。]

 

■報酬等の決定
商法58/ 会社法58/ 227/ 定款または株主総会決議(株主総会で総額を定め、取締役会で各取締役の配分を決議した場合含む)で取締役の報酬額が #具体的に定められた 場合、会社と取締役間の契約内容となり、当事者双方を拘束するから、その後株主総会で無報酬と決議しても、当該取締役の同意なき限り、報酬請求権は存続する。
[『事例で考える会社法』初版〔事例③〕50頁(最判平4・12・18民集46-9-3006)参照。法的判断枠組み(判例による法解釈)。]

 

商法59/ 会社法59/ 228/ ①取締役の報酬が具体的に定められると、会社・取締役間の契約内容となり、両者を拘束する、②その後これを無報酬とする株主総会決議が行われても、当該取締役が同意しないかぎり報酬請求権は失われない、③取締役の #職務内容に著しい変更がある場合 も同様である。これは、報酬減額にも妥当する。
[『事例で考える会社法』初版〔事例③〕54頁(最判平4・12・18民集46-9-3006)参照。法的判断枠組み(判例による法解釈)。]

 

商法61/ 会社法61/ 230/ 取締役報酬額が具体的に定まれば、会社との契約内容となり拘束力をもつので、同意なき限り、事後に無報酬とする株主総会決議で報酬請求権を奪えないが、取締役の任用契約(委任契約)は継続的であり、#契約拘束力だけ で事情変更を阻む理由乏しく、正当理由あれば、報酬を地位・責任に比例させうる。
[『事例で考える会社法』初版〔事例③〕61~62頁(最判平4・12・18民集46-9-3006)参照。法的判断枠組み(法解釈)。]

 

商法60/ 会社法60/ 229/ 取締役報酬は #ある程度身分保障 されているので(会社法361条、332条、339条参照)、職務内容の著しい変更のみを理由に減額できない。しかし、①役職に応じ減額しうる事前の同意(契約内容)や、②「正当な理由」(339条2項参照)がある場合には、総会決議により減額しうると解する。
[『事例で考える会社法』初版〔事例③〕56~58頁(最判平4・12・18民集46-9-3006)参照。法的判断枠組み(法解釈)。]

 

役員等の会社に対する責任

●法令に違反してはいなかったが業務執行が不適切だとされた場合の取締役の責任

[・株主が取締役の会社に対する責任を追及する場合、会社法423条が主な根拠になる。利益相反取引の場合も、その取引にもとづく取締役の責任の要件・効果は、423条に定められている。同条を経由せず、取締役の会社に対する何らかの責任が発生するのは、取締役が利益供与を行った場合(120条4項)や、461条に違反して剰余金の配当等が行われた場合(462条)などに限られる。

 423条1項によれば、①役員等が任務を怠ったこと(任務懈怠)、②会社に損害が生じたこと、③任務懈怠と損害との間に因果関係があること、が任務懈怠責任が発生する要件とされている。取締役の行った(法令違反ではない)経営上の決定が問題となる場合、任務懈怠(①)は、善管注意義務(330条・民法644条)・忠実義務(355条)違反とも言い換えられる。さらに、423条1項と428条をあわせて読めば、④役員等の責めに帰することができる事由(帰責事由)があることも、責任発生の要件といえる。帰責事由は、故意または過失と言い換えられる。

 役員等の任務懈怠責任(423条)は、債務不履行責任(民法415条)の特則であることから、役員等の責任を追求する側が、①役員等の任務懈怠、②会社の損害、③それらの間の因果関係について証明責任を負い、④役員等の側が帰責事由がないことの証明責任を負うと解される。もっとも、任務懈怠の証明は、実際上は、帰責事由の証明と重なり合うため、責任を追求する側が、役員等の任務懈怠(①)の証明に成功すれば、役員等の側が帰責事由(④)がないことの証明に成功する余地はほとんどない。]

 

 会社法87/ 機関44/ 456/ ①役員等の任務懈怠,②会社に損害,③①②の間の因果関係(会社法423条1項),④役員等の帰責事由(428条,故意・過失)が任務懈怠責任要件。法令違反でない経営上の決定:①は善管注意義務(330条・民法644条),忠実義務(355条)違反。債務不履行責任の特則:#追求側①②③,#役員等④帰責事由なきことの証明責任。

[『事例で考える会社法』156頁,157頁参照。法的判断枠組み(条文)]

 

経営判断原則

[・取締役が業務執行としてある行為を行ったことが、事後的に任務懈怠(善管注意義務違反)だったと評価されるのは、どのような場合か。取締役は、会社が利益を上げることや会社に損害が生じないことを請け負うものではなく、善良なる管理者の注意をもって、その職務を遂行する義務を負うだけである。この点に関し、判例は、裁判所は取締役の経営判断に事後的に介入しない、という考え方(経営判断原則)を採用している。

 経営判断の内容は、取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況および会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、#当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見および経験を基準として、前提としての #事実の認識 に不注意な誤りがなかったか否かおよびその事実に基づく #行為の選択決定 に不合理がなかったか否かという観点から、当該行為をすることが #著しく不合理と評価されるか否か によるべきである、とされる。ここでいう事実の認識に不注意な誤りがなかったか否かは、具体的には、経営判断に至るまでに、通常行われるべき情報収集・調査・検討がされていたか否か、という問いである。また、その事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かは、そのような情報収集にもとづいて、経営判断を行う際にどのような選択肢があるか、その中からどれを選択するかについて著しい不合理がなかったか、という問いである。

 この経営判断原則の基礎にある実質的な考慮は、企業経営にはリスクが伴うということである。むしろ、リスクのある事業を行うことこそが、株式会社という制度の役割であり、取締役が行った経営上の決定への事後的な介入が安易に行われれば、そのような株式会社の存在価値が損なわれる。裁判官や一般の株主は、経営上の決定に関して、経営者よりも優れた能力・情報を有するわけではない。このような理由から、株式会社では、出資者である株主ではなく取締役が業務の執行を担うことになっていたはずである、というものである。]

 

会社法74/ 機関39/ 420/ 当該行為時の会社の状況・社会,経済,文化等の情勢下,#会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見_経験を基準とし,前提としての #事実認識 における不注意な誤りの有無,その事実に基づく #行為の選択決定 における不合理の有無の観点から,当該行為が #著しく不合理と評価されるか(経営判断)。

[『事例で考える会社法』初版159頁(東京高判平16・9・28判時1886-111)参照(より簡潔な表現として、最判平22・7・15判時2091-90)。参照。法的判断枠組み。]

 

商法16/ 会社法16/ 86/ リスクの伴う企業経営を、結果的に萎縮させないため、行為時の状況に照らし①情報収集・調査・検討に不注意な誤りがなかったか、②意思決定過程・内容に通常の企業経営者として著しく不合理な点ながなかったかという点から、経営判断について任務懈怠責任(#会社法423条1項)を判断すべきである。

[辰巳『趣旨・規範ハンドブック2民事系』6版289頁参照。法的判断枠組み(考慮要素)。]

 

商法48/ 会社法48/ 205/ 企業経営にリスクは伴う。リスクある事業を行うことが株式会社の役割であり、資本主義経済の発展を促す。しかし、裁判官は経営についての知識・経験を有するわけではなく、後知恵で取締役の #経営判断 への事後的な介入を安易に認めるならば、株式会社の存在意義、所有と経営の分離も無意味になる。

[『LEGAL QUEST会社法』3版233頁参照。法的判断枠組み(法的制度の背景)。]

 

商法49/ 会社法49/ 206/ 上場会社では、取締役・執行役が個々の従業員の行為を監視することは現実的でなく、取締役会は、会社の業務の法令遵守体制、その他のリスク管理体制を含め、#内部統制システム 構築義務を負う。そのような義務違反があれば、任務懈怠が認定される。もっとも、ある程度の裁量は認められるべきである。

[『LEGAL QUEST会社法』3版235頁参照。会社法355条・419条2項。法的判断枠組み(法的制度の説明)。]

 

具体的な法令に違反する業務執行を行った場合の取締役の責任

商法56/ 会社法56/ 223/ 会社が遵守すべきあらゆる法令につき、その違反は、取締役の任務懈怠となる。取締役が業務執行を決定・執行する以上、職務遂行に際し会社を名あて人とする #すべての法令 の遵守も職務上の義務であり、株主の合理的意思にかんがみ、会社・株主保護目的の法令に限らず遵守し経営すべきだからである。

[『LEGAL QUEST会社法』3版237頁参照。法的判断枠組み(条文の文言「法令」(会社法355条、419条2項)の意義)。]

 

 

商法30/ 会社法30/ 182/ 「法令・定款に違反する行為」(#会社法360条1項)は、個別の法令(すべての法令含む)・定款に違反する行為のほか、取締役・執行役の注意義務違反(330条・402条3項・民法644条、会社法355条)にあたる行為も含む。裁判外での差止請求、仮処分申立て(民保法23条1項)もできる。

[『LEGAL QUEST会社法』3版249頁、R21②設問4、参照。法的判断枠組み(条文の文言の意味、ほか)。]

 

 

 ●利益相反取引・競業取引

商法55/ 会社法55/ 222/ 利益相反取引・競業取引の承認の有無に関わらず、損害があれば、取締役等は任務懈怠責任(#会社法423条1項)を負う。

利益相反する取締役等、決議に賛成した取締役等は、任務懈怠が推定される(同条3項。なお4項)。

承認なき競業取引の損害額は、取締役等の得た利益額と推定される(2項)。

[『LEGAL QUEST会社法』3版238頁参照。法的判断枠組み(条文)。]

 

商法28/ 会社法28/ 173/ 利益相反取引・競業取引に承認を受けていても、会社に損害があれば、任務懈怠責任(#会社法423条1項)を負う。

自己のための利益相反取引は無過失責任である(428条1項)。

事前承認なき競業取引(356条1項1号)の場合の損害額は、取締役等の得た利益額と推定される(423条2項)。

[『LEGAL QUEST会社法』3版238頁参照。法的判断枠組み(条文構造の説明)。

1. 私の理解の過程を残せば、上記記述に圧縮して初めて、条文の細かな違いがわかった。

2. それは、428条1項と、423条2項との違いである。

前者は、自己のための利益相反取引についての規定であり、356条1項の規定に違反したかどうかは問われていない。

これに対して、後者の競業取引についての規定に関しては、「第356条第1項の規定に違反して」とされているので、事前承認なき場合に限られている。

3. ややこしい。今ひとつよくわからないところもある。一応、条文の規定に仕方・構造の違いの指摘にとどまる。]

 

 

■任務懈怠責任に対するその他の問題

商法57/ 会社法57/ 224/ 任務懈怠責任は、役員等の会社に対する #債務不履行責任 の性質を有するが、連帯責任(会社法430条)とされるなど、法によって内容が加重された特殊な責任である。そのため、消滅時効期間が、商法522条の5年でなく民法167条1項の10年とされる。遅延損害利率も、民法所定の5分である。

[『LEGAL QUEST会社法』3版239頁(最判平20・1・28。最判平26・1・30)、民法404条、参照。法的判断枠組み(任務懈怠責任の性質、および、その性質に基づく解釈)。]

 

 

■役員等の第三者に対する責任 

商法69/ 会社法69/ 273/ 会社法429条1項の責任につき、①役員等の任務懈怠と第三者の損害の間に相当因果関係ある限り、#会社が損害を被りひいては第三者に生じた間接損害か、#第三者の直接損害かを問わず、役員等は責任を負う。②#役員等への不法行為責任追及も可能。③#任務懈怠についての悪意・重過失立証で足りる。

[『LEGAL QUEST会社法』3版250頁(最大判昭44・11・26民集23-11-2150)参照。法的判断枠組み(条文の説明)。]

 

 

会社法53/ 215/ 社債権者も「第三者」(#会社法429条1項)に含まれる。第三者は、任務懈怠の当事者以外のすべての者をいうからである。

株主は、直接損害の場合、含まれるが、会社をはさんだ間接損害の場合、含まれないと解する。後者では、423条等で損害回復できるのであり、二重取りさせないためである。

[辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系310頁参照。事実の分析・評価例。 27年度予備試験参照。]

 

商法70/ 会社法70/ 274/ 間接損害につき原則、株主は「第三者」(会社法429条1項)に含まれない。役員等の行為により会社財産が減少し株価が下落しても、株主は429条でなく、#代表訴訟を提起し423条等の責任追及すべきである。役員等に二重に責任追及すべきでも、会社の賠償請求権を奪うべきでも、ないからである。

[『LEGAL QUEST会社法』3版251頁参照。法的判断枠組み(間接損害事例で「第三者」に株主が含まれない理由)。]

 

 

会社法52/ 214/ 名目的取締役も、適法な選任決議を経ている以上「#役員等」(会社法429条1項)にあたる。

選任決議を欠く登記簿上の取締役も、役員等にあたりうる。故意・過失で登記に承諾を与えていれば、908条2項の類推により、善意の第三者に対抗できない結果、429条の責任を免れられないからである。

[辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系307頁参照。事実の分析・評価例。ただし、名目的取締役については、「役員等」にあたっても、具体的事情によっては、因果関係を欠く場合も考えられる。]