ミニマム法律学

法律書等を読んで,理解し覚えられるように短くまとめて行こうと思っています。ツイッター→https://twitter.com/right_droit YouTube(判例原文の音読)→https://www.youtube.com/channel/UCqVOy5zBmI3GzOI_WF5Dc6Q/featured

捜査の意義,端緒 (8ヶ)

◇令状主義
刑訴法37/ 342/ 令状主義(憲法33条、35条)は、逮捕、差押えなど最も人権侵害の危険のある強制処分につき、捜査機関の判断だけに任せるのでなく、原則として、#裁判官の事前の判断(令状)を要求する制度である。全くの無実の者が拘束されるといった事態も避け得る。強制処分に対する司法的抑制の理念に基づく。
[『刑事訴訟法講義案』四訂版64頁参照]

◇一般令状の禁止
刑訴法38/ 343/ 逮捕状には、逮捕の理由となる犯罪の明示(憲法33条)、捜索・差押状は、捜索する場所・押収する物の明示を要する(同35条)。後者は場所・物を限定する趣旨である。1通の令状さえあれば、どこでも捜索し何でも押収できるというのでは、令状主義が意味をなさないからである(#一般令状の禁止)。
[『刑事訴訟法講義案』四訂版64頁,65頁参照]

◇逮捕の必要性
刑訴法39/ 344/ 捜査機関の請求による令状発付につき、裁判所・裁判官は当該強制処分の必要性も判断する。#司法的抑制の理念に基づく令状主義の趣旨を十分活かすためである。逮捕状については、犯罪の嫌疑(刑訴法199条1項2項)に加え、逮捕の必要性(199条2項ただし書、規則143条の3)の判断も要する。
[『刑事訴訟法講義案』四訂版65頁参照。「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑訴法199条1項2項,嫌疑)]

―――――
職務質問等について
[・行政警察活動たる職務質問(警職法2条1項)においては、強制力を行使することは原則として許されない。職務質問は、いわゆる任意手段だからである(同条3項参照)。もっとも、職務質問の必要性の程度、対象者の対応・状況、実力行使の態様・程度、自由の制限の程度等を総合的に考慮して、有形力行使の必要性、緊急性、相当性の認められる場合には、必要かつ合理的な程度の実力行使が許される場合もある。職務質問の実効性を確保する必要があるからである。]

刑訴法74/ 696/ 行政警察活動たる職務質問では強制力行使は原則許されない。任意手段に過ぎないので(警職法2条1項3項)。もっとも,#質問の必要性の程度_対象者の対応・状況_自由制限の程度等を総合考慮し,有形力行使に必要・緊急性,相当性ある場合,必要・合理的な実力行使が許される場合あり。質問の実効性確保のため。
[辰巳『趣旨・規範ハンドブック刑事系』5版186頁,187頁(最決平6・9・16),等参照]

☆凶器の捜検(フリスク)
刑訴法事案19/ 深夜,強盗等犯罪多発地域警ら中の警察官Pらが,路地に佇んでいた甲と目が合うや,甲が慌てて走り出したので,停止を求め職務質問。シャツのへそ付近が不自然に膨らんでいたため質問したが,答えず立ち去ろうとした。Pの手が甲腹部に一瞬当たり,固い感覚があったので,#凶器等捜検のためシャツ上から触った。
[平成30年度司法試験予備試験 論文式試験 刑訴法Q1①参照。参考:寺崎嘉博『刑事訴訟法』3版95頁注8(#捜検:身体を外部から触れるにとどまる。所持品検査の一種。実務で使われる検索に相当。程度を超え,例えば内ポケットに手を入れたような場合,#捜索。),森圭司『ベーシック・ノート刑事訴訟法』新訂版(2006年)104頁]

☆米子銀行強盗事件
刑訴法事案18/ 猟銃,ナイフ所持の銀行強盗が600万円余を奪い逃走中の旨知った警察官K1は,某日,警察官K2らを指揮し緊急配備検問実施。手配人相風の男2人(X,Y)#の乗ったタクシーを停止させ職務質問したが,Xら黙秘。K1らは,座席上のバックの開披を求め,拒まれ続けたため,1時間半程後,#承諾なく_バックのチャックを開披。
[最判昭53・6・20刑集32-4-670『刑事訴訟法判例百選』10版4事件参照]

◇所持品検査について
[・いわゆる所持品検査も、警職法2条1項に基づく職務質問に付随して行うことも可能である。それは、口頭による質問に密接に関連し、質問の効果をあげる上で必要・有効といえるからである。
 いわゆる任意手段であり、所持人の承諾を要するのが原則であるが、犯罪の性質、対象者の容疑の程度・態度、証拠の性質等に鑑み、必要・緊急性が認められ、害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡等を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる場合には、承諾なく行える場合もありうる。流動する事象に対応して迅速適正に処理すべき責務ある行政警察活動を全うする必要があるからである。]

刑訴法75/ 697/ #所持品検査も職務質問に付随し行使可。質問に密接関連し,有効なので。任意手段だから,原則_所持人の承諾要。#犯罪の性質_容疑の程度_態度_証拠の性質等から_必要・緊急性があり_個人法益と公共の利益との権衡上_具体的状況のもとで相当な場合,承諾不要。流動する事象に対応すべき行政警察活動なので。
[辰巳『趣旨・規範ハンドブック刑事系』5版187頁(最判平昭53・6・20)参照]

◇交通検問の根拠条文・限界
刑訴法90/ 881/ 交通検問:警察法2条1項を根拠に,#事故の多発する地域で_違反の予防・検挙のため_短時分の停止を求め質問などすることは_相手方の任意の協力を求める形で行われ_自動車利用者の自由を不当に制約することにならない方法_態様で行われる限り適法。∵警察の責務,運転者は,合理的に必要な限度で協力すべき。
[辰巳『趣旨・規範ハンドブック』5版188頁(最決昭55・9・22)参照]

―――――
略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。
©2019@right_droit
刑事系ツイフィール: http://twpf.jp/right_droit3 メインツイフィール: http://twpf.jp/right_droit
刑事系ツイッター: https://twitter.com/right_droit3 メインツイッター: https://twitter.com/right_droit

刑法総論/ 不能犯(短文8ヶ。まとめ追加) (9月23日分,誤って消してしまったため,再掲)

不能犯に関する判例

刑法判例9/ 刑法判例:#方法の不能事案では_結果発生の可能性が科学的な根拠を問題としてかなり客観的に判断される場合が多いが,その一部の判決と,客体の不能判決では,#一般人の危険感が援用され具体的危険説(行為時に一般人に認識でき,あるいは行為者の認識した事実に基づき危険判断)に近い基準で未遂犯成立肯定。

[山口『刑法総論』3版288頁参照]

 

不能犯の判断基準

[・欺罔行為を受けた被害者が詐欺かもしれないと気づき、現金様の紙を入れた荷物を発送した後に、被告人が共謀に加わり、荷物を受領した詐欺未遂事件について、未遂か不能かを見極めるために、被告人の行為の危険性をどのように判断すべきか。

 当該行為の時点で、その場に置かれた一般通常人が認識し得た事情および行為者が特に認識していた事情を基礎として、当該行為の危険性の有無を判断し、被告人において被害者が騙されたふりをしているとの事情を認識しておらず、その場に置かれた一般通常人にとっても、そのような事情はおよそ認識し得なかったといえるから、被害者が騙されたふりをしているという事情は、行為の危険性を判断する際の基礎事情からは排除・捨象して考えるの相当である。

 そのように観察すれば、被告人は被害者において騙されたがゆえに発送した本件荷物を受領したということになるから、被告人の本件受領行為に実行行為性を肯定することができ、未遂犯としての可罰性あり、詐欺未遂の共同正犯が成立する。]

刑法81/ 692/ 欺罔行為を受けた被害者が詐欺かもと気づき,現金様の紙を入れた荷物を発送した後に,Xが共謀に加わり,荷物を受領した詐欺未遂事件についての行為の危険性判断も,#当該行為時_その場に置かれた一般通常人が認識し得た事情・行為者が特に認識していた事情を基礎として,当該行為の危険性の有無を判断する。

[平成29年度『重要判例解説』147頁(福岡高判平28・12・20判時2338-112)参照]

 

刑法143/ 929/ Xは被害者が騙されたふりをしているとの事情を認識しておらず,一般通常人にも,認識し得なかったといえるから,#被害者が騙されたふりをしているという事情は_行為の危険性判断の際_基礎事情から排除・捨象して考えるべき。⇒被害者が騙されて発送した荷物受領に実行行為性あり,未遂犯として可罰性あり。

[同上]

 

〇客体の不能についての裁判例(具体的危険説)

刑法判例10/ 福岡高判平28・12・20参照:#行為の危険性は_行為時点_その場に置かれた一般通常人が認識し得た事情・行為者が特に認識していた事情を基礎に判断(具体的危険説)。/Xは,Vが騙されたふりをしている事情を認識せず,その場に置かれた一般通常人も認識し得なかったといえるから,当該事情は基礎事情から排除。

[『平成29年度重要判例解説』147頁(判時2338-112)参照。したがって,騙されたふりをしている被害者は存在せず,特殊詐欺によって騙された被害者が本件荷物を発送し,被告人が受領したということになるので,被告人の本件受領行為の,詐欺の実行行為としての危険性が認めらるので,不能犯ではない。

 客体の不能に関する裁判例と考えられる(山口『刑法総論』3版288頁参照)。]

 

◇現実的・客観的危険の判断手順

刑法201/ 1057/ 未遂犯の成立要件である現実的・客観的危険(具体的危険)の判断の手順:①結果が発生しなかった原因を解明し,#事実がどのようであったら結果が発生しえたかを科学的に明らかにする。②結果をもたらしたはずの仮定的事実がありえたであろうかを,#一般人が事後的にありえたことだと考えるかを基準に,判断。

[山口『刑法総論』3版290頁(客観的危険説の一つである山口説,289頁)参照]

 

刑法79/ 690/ 現実的・客観的危険(未遂の成立要件)は,①#結果が発生しなかった原因を科学的に解明,②これによる,#結果をもたらしたはずの仮定的事実の存在可能性を_一般人の事後的な危険感,ありえたことだと一般人が考えるかの基準を用い判断。もっとも,具体的な被害法益に対する現実的な危険の発生なければ不能犯

[山口『刑法総論』3版290頁,291頁参照]

 

◇方法の不能事例

刑法202/ 1058/ #客観的には結果は発生しえなかったのであるが,たまたまそうだっただけで,#結果を発生させたことも十分ありえたと考えられる場合,危険が肯定される。方法の不能事例:覚せい剤製造工程自体適切だったが,薬品の使用料が不足していたにすぎない場合,適当量の使用がありえたと考えられる限りで未遂犯成立。

[山口『刑法総論』3版290頁参照]

 

◇客体の不能

刑法203/ 1059/ 客体の不能:客体がたまたまそこになかっただけで,#そこにあったことも十分考えられるとして,未遂犯成立可。/甲は,ATMにカードを挿入し現金を引き出そうとしたが,口座凍結で,引き出せなかった。甲の行動を不審に感じたAが警察に相談し凍結されたのであり,#巧妙な甲の説明を信じ込むことも十分ありえた。

[山口『刑法総論』3版290頁,R01①Q1(令和元年 第1問),参照。①Aが甲の説明を信じ込んでいれば,警察に相談,口座凍結されておらず,暗証番号を知る甲が預金を引き出しえていた。②甲は,ダミー封筒を封印し,連絡するまで開封しないようにと巧妙に欺罔しており,Aが信じ込むことも十分ありえた。]

 

上記短文8ヶのまとめ

判例は、方法の不能事案では、結果発生の可能性を科学的な根拠に基づき客観的に判断する場合が多いが、その一部の判決と、客体の不能判決では、行為時に一般人に認識でき、あるいは行為者の認識した事実に基づいて危険を判断し(具体的危険説)、未遂との区別をしている。

 たとえば、特殊詐欺についての客体の不能に関する裁判例もそうである。

・しかし私は、より科学的客観的に判断すべきと考える(客観的危険説)。すなわち、未遂犯の成立要件は現実的・客観的危険(具体的危険)といえるが、判断手順として、①結果が発生しなかった原因をまず解明、事実がどのようであったら結果が発生しえたかを科学的に明らかにし、②結果をもたらしたはずの仮定的事実がありえたであろうかを、一般人が事後的にありえたことだと考えるかどうかを基準に判断すべきである。

・方法の不能事例については、①科学的に原因を解明し、②一般人の目から見て、結果が発生しなかったのはたまたまのことであり、結果発生も十分にありえたと考えられるなら、現実的・客観的危険(具体的危険)が肯定される。

・客体の不能事例では、①客体不存在についての科学的客観的な原因の解明、②一般人の目からみて、そこに客体があったことも十分に考えられるならば、現実的・客観的危険(具体的危険)が肯定される。

 

―――――

略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)

©2019@right_droit

刑事系ツイフィール twpf.jp/right_droit3 メイン・ツイフィール twpf.jp/right_droit
刑事系ツイッター 
@right_droit3 メイン・ツイッター @right_droit 

刑法総論/ 故意など(16ヶ) (書き足し,一部まとめ)

略号: TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)

―――――

故意の認識対象(平野説)
刑法3/ 68/ 故意とは「罪を犯す意思」(#刑法38条1項)すなわち犯罪事実の認識をいう。犯罪事実とは行為の違法性を基礎づける事実である。違法性を基礎づける点で構成要件が原則、違法性阻却事由が例外であり、故意があるというためには、構成要件該当事実違法性阻却事由の不存在の双方の認識が必要である。
[平野『刑法概説』75,78頁参照]

 

◇団藤説による故意の体系的位置づけ
刑法13/ 153/ 「罪を犯す意思」(#刑法38条1項、故意)は、故意犯の構成要件(構成要件的故意)かつ責任要素である。犯罪事実の表象・認容が認められれば、構成要件該当性・有責性が基礎づけられ、犯罪事実の表象・認容を欠けば、構成要件該当性そのものが阻却される。期待可能性がなければ、責任が阻却される。
[団藤『刑法綱要総論』290、291頁参照。
 故意(mens rea)=構成要件(TB)・責任要素(S)。
 そもそも故意は、責任(S)の領域の問題である。しかし、小野博士(団藤綱要134頁参照)・団藤教授は、故意は構成要件かつ責任要素であるとする。もっとも構成要件としての故意は、それを主観的・客観的な全体として考察した『違法類型』としての『客観的構成要件要素』と見ているようである(同頁参照)。さらに、この構成要件的故意(構成要件としての故意)は、責任要素の定型化としての意味も持ち、『有責類型』でもあるとされる(同書136~138頁参照)。]

 

―――――
◇犯罪事実のどのような認識が必要か(故意の認識内容)
[・行為とは意思にもとづく身体の動静であり、意思的な要素は、行為概念のなかにある。故意は、その意思の内容は何かという問題である。
自己の行為の結果として人が死ぬであろうことを認識・予見したときは、これを、行為を思いとどまる動機にしなければならない。それにもかかわらず、思いとどまる動機とせず、その行為をしたことを非難するのである(認識説=動機説)。
結果の発生を認識しながら、あえてでなく、行為に出るということはありえない。いいかえると、認識しながら行為にでたときは常に故意がある。とくに認容という(情緒的な)概念が必要というわけではない。]

◇故意の認識内容(認識説=動機説)
刑法63/ 582/ 行為は意思にもとづく身体の動静。意思的な要素も含む。故意は,その意思の内容は何かという問題。自己の行為の結果として人が死ぬであろうことを認識・予見したときは,#行為を思いとどまる動機にしなければならないにもかかわらず,#思いとどまる動機とせず,行為したことを非難するのである(動機説)。
[平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)185頁参照]

 

◇認識説(動機説)
刑法228/ 1122/ 故意を認めるために意思的要素を要するとしても,それは,行為に出る意思たる行為意思であり,故意の要素ではなく,行為の要素として既に行為認定時に考慮済。#故意の有無にとっては行為者の認識内容が問題であり(認識説),TB実現が行為者の意識内に浮かんだが,それを否定しつつ行為にでたときも,故意あり。
[山口『刑法総論』3版43頁注15,214頁-215頁参照。
・いわゆる認容説では,故意を認めるためには,認容という意思的態度(意思的要素)が必要だとする。この見解によると,構成要件の実現が一旦は行為者の意識内に浮かんだが,それを否定しつつ行為にでた場合には,故意そのものではなく,未必の故意として故意責任が認められるようであるが,平野教授・山口教授のとられる認識説(動機説)によると,その場合も端的に故意ありとされるようである。平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)186頁-187頁も参照。
 認識説(動機説)の方がよりシンプルでわかりやすいと,私は思う。]

 

◇凶器の種類・用法,創傷の部位・程度(客観的な情況証拠の積み重ね)
刑法229/ 1123/ 故意につき認容説に基づけば,意思的要素まで認定要。殺人の故意の認定では,①どのような凶器を使用したか(凶器の種類),②それをどのように使ったか(用法),③身体のどの部位に,どの程度の創傷を負わせたか(創傷の部位と程度)が重要という。but,これは,#実行行為に生命侵害の現実的危険性があるかの問題?
[大塚裕史『ロースクール演習 刑法』2版(2013年)6頁,受験新報799号(2017年9月)109頁,山口『刑法総論』3版214頁-215頁,参照]

 

殺人罪の実行行為
[・殺人罪の実行行為は、生命侵害の現実的危険性のある行為をいう。
 本件では、ナイフという殺傷能力の高い凶器が使用されており、創傷の部位は、腹部という多数の臓器が存在する人体の枢要部である。切りつけるより深い傷を負わせることのできる、刺すという方法を用い、それを3回も行っていることから、生命侵害の危険性が高い。さらに、Vは大量に出血し意識を失っていることから、刺突行為がいかに激しかったかを物語っている(創傷の程度)。
 したがって、乙のV刺突行為は、生命侵害の危険性の高い行為であり、(傷害罪ではなく)殺人罪実行行為にあたる。]

刑法61/ 580/ 殺人罪の実行行為は,生命侵害の現実的危険性ある行為。
本件で,ナイフという殺傷能力の高い凶器が使用され,創傷部位は,#腹部という人体の枢要部。深い傷を負わせられる,#刺すという方法を用い,それを3回も行っている。さらに,Vは大量出血し意識を失っていることから,#刺突行為の激しさがわかる(程度)。
[大塚裕史・受験新報799号(2017年9月)109頁参照。→したがって,乙のV刺突行為は,生命侵害の危険性の高い行為であり,(傷害罪ではなく)殺人罪の実行行為にあたる。殺人罪の実行行為(正犯性の認められる行為者の行為)。]

 

殺人罪の実行行為性
刑法233/ 1127/ Aが高速度走行する車から転落すれば相当の衝撃を受けること,頭を強打すれば死亡する危険が高いこと,市内の国道上なので深夜とはいえある程度,交通量があり,路上転落により他車に轢かれる可能性も少なくないこと等を考えると,甲の行為は,Aの生命に対する高度の危険をもった行為,#殺人の実行行為性あり。
[『刑法事例演習教材』初版(2009年)有斐閣〔1〕ボンネットの上の酔っぱらい 3頁参照。R23①]

 

故意の認識対象・体系的位置づけ,まとめ

[・1.故意(「罪を犯す意思」(刑法38条1項))とは、犯罪事実の認識をいい、犯罪事実をは違法性を基礎づける事実なので、その認識対象として構成要件該当性と違法性阻却事由の不遜の認識の双方を要する。

 これに対して、団藤教授(行為無価値論)の認容説によると、故意とは犯罪事実の認識・認容ということであり、それは構成要件かつ責任要素だという。故意の内容として、認容という意思的・情緒的なものを含ませる解釈であるが、平野教授(結果無価値論)によれば、それは、行為の要素であり(行為意思)、行為すなわち実行行為に現実的危険性があるかという客観的構成要件にまつわるものと考えられる。

2. 大塚裕史教授も、故意の認定の前提として、実行行為の現実的危険性を認定する時点で、凶器の種類・用法、創傷の部位・程度から行為者の行為意思および実行行為の現実的危険性を判断しているものと思われる。

 このように実行行為の現実的危険性の認定が大事なのは、そのような危険な行為により結果を発生させるという犯罪事実の認識・予見がありながら、あえて行為に出たのであり、犯罪事実の認識・認容が認められると、認容要件を認定するためであろう。

3.しかし、故意は伝統的な理解通り、責任要件と考え、構成要件とは区別された、その(客観的)構成要件および違法性阻却事由の不存在の認識とシンプルに解すべきであり、認容という、意思的で情緒的な人格につながり得る要件を要求すべきではない考える。

 ただし、判例は、故意とは犯罪事実の認識・認容としているようなので、答案作成上は、実行行為の現実的危険性に関する事実を拾い認定した上、「故意とは犯罪事実の認識であると解する(認識説)が、判例のとる認容説によっても、本件では、現実的危険性ある実行行為の認識・予見をしながらあえておこなったということができるので、どちらの理解によっても、故意が認められる。」と書くことも考えられる。]

 

故意責任の本質について

[刑法は、行為を処罰するのであり、それをきっかけとして人格全体を処罰するものではない。このような理解から、故意責任の本質を、規範に直面しながら実行行為をあえておこなったという反規範的人格態度に対する非難と解することには、疑問がある。

 故意とは、そのような人格に関する意思的で情緒的な要件ではなく、単にどのような内容を認識したかの問題であり、故意とは犯罪事実の認識であると解する(認識説)。

 そして、自己の行為の結果により構成要件的事実を生じ、それは違法性の阻却されるものではないことの認識・予見があるときは、その認識を行為を思いとどまる動機とすべきところ、思いとどまる動機とせず、その行為をしたことを非難するものと解する(動機説)。]

 

―――――
◇故意と過失のヴァリエーション
刑法230/ 1124/ 故意:①#犯罪事実実現を意図する場合,②それを確定的なものとして認識・予見する場合(#確定的故意),③#その蓋然性の認識・予見のある場合(未必の故意)。過失(犯罪事実の認識・予見の可能性ある場合):①犯罪事実が一旦は行為者の意識に上がったがそれを否定した場合,②行為者意識に上がらなかった場合。
[山口『刑法総論』3版214頁,平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)187頁,参照。
・故意:①意図,②確定的故意,③未必の故意。過失:①認識ある過失,②認識なき過失。]

 

◇二種類の確定的故意
[・確定的故意には二種類のものがある。一つは、結果を意図した場合であり、今一つは、結果の発生が確実だと思った場合である。結果を意図したときは、その発生の可能性が小さい場合でも(因果関係がない場合は別)、故意がある。たとえば、遠くにいる人を銃で狙って射ったときは、当たる可能性が小さい時でも殺人の故意がある。他方、結果の発生が確実であるときは、いかにその発生を嫌い、これを回避したいと思っていたとしても、故意がある。たとえば、保険金をとろうとして家に放火したとき、家の中に寝ている病人が焼死することは確実だと思っていたとすれば、いかにこれを嫌う人格態度を示していたとしても、やはり殺人の故意があるといわざるをえない。]

刑法65/ 584/ 確定的故意には,①#結果を意図した場合,②#結果発生が確実だと思った場合あり。①では,その発生可能性が小さくても(因果関係ない場合,別),故意あり。遠くにいる人を銃で狙い射ったときは,当たる可能性小さくても殺人の故意あり。②では,いかにその発生を嫌い回避したいと思っていたとしても,故意あり。
[平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)187頁参照。二種類の確定的故意]

 

◇故意と過失の分水嶺(認識説による)
[・故意と過失とには、質的な差がある。蓋然的であるか可能であるかという判断は、一般的な判断であるが、具体的な当該事件では、結果は発生するかしないかのどちらかであって、その中間は存在しない。したがって行為者も、一応は、結果発生の蓋然性がある、あるいは可能性があると考えたとしても、結局においては、結果が発生するであろうという判断か、結果は発生しないであろうという判断かのどちらかに到達しているものと考えることができる。このような意味での犯罪事実の認識の有無が、故意と過失との限界をなす。]

刑法64/ 583/ 故意と過失の差は質的。具体的当該事件では,結果発生・不発生のどちらか。行為者は,一応は,結果発生の蓋然性・可能性があると考えたとしても,#結局_結果が発生するだろうという判断か_結果は発生しないだろうという判断かどちらかに到達。このような意味での犯罪事実の認識の有無が,故意・過失の限界。
[平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)187頁参照]

 

◇認識のある過失
[・認識のある過失とは、結果の発生が可能だと考えたにもかかわらず、それが発生しないと信頼した場合をいう(ドイツ刑法,1956年総則草案17条参照)。未必の故意は、結果が発生しないと信頼はしなかった、すなわち、結局において発生すると思った場合をいう(同1962年草案参照)。
認識のある過失も、結局は結果の不認識と不注意にその本質があるといえる。したがって、認識のない過失と全く性質の違ったものとしての認識のある過失(結果の発生を認識しながら、認容しなかった場合=不注意という要素がない)というものは、存在しない。それはただ、一応、結果の発生が可能だと考えたが、結局は否定したという場合にすぎない。]

刑法66/ 585/ 認識のある過失は,#結果発生が可能だと考えたにもかかわらず_それが発生しないと信頼した場合未必の故意は,#結果が発生しないと信頼せず_発生すると思った場合。前者は,結果不認識と不注意が本質。結果発生を認識しながら,認容しなかった場合ではない。結果発生可能だと考えたが,結局,否定した場合。
[平野『刑法総論Ⅰ』(1972年)188頁-189頁参照。認識のある過失と未必の故意との違い(認識説,動機説)]

 

―――――
◇故意の構成要件関連性
刑法231/ 1125/ メタノール所持・販売処罰の罰則適用にあたり,行為者にはメタノールたることの認識が必要で,単に身体に対する有害性の認識があったのでは足りない。もっとも,覚せい剤輸入・所持事案で,#覚せい剤たることの可能性が行為者の認識から排除されていなければよいとし,TB該当事実の認識が緩やかに解された。
[山口『刑法総論』3版202頁(最判昭24・2・22刑集3-2-206,最決平2・2・9刑集1341-157)参照]

 

◇概括的故意
232/ 1126/ 行為者に認識・予見されたTB該当事実は,特定されたものでなく,一定の概括的なものも可(#概括的故意)。たとえば,A殺害のため,留守中に鉄瓶の湯に毒薬を投入,Aほか3名が飲んだが,味がおかしいので飲むのをやめ,殺害に至らなかった場合,家人も飲む予見あれば,#実際に飲んだ人数に応じ故意犯(未遂罪)成立。
[山口『刑法総論』3版203頁(大判大6・11・9刑録23-1261)参照]

 

―――――
◇規範的構成要件要素の認識の問題
刑法212/ 1090/ TBの認識のために規範的判断を要するものがある(#規範的TB要素)。行為者に規範の正しい当てはめ,すなわち,高度の法的知識が求められるわけではないが,裸の自然的事実の認識以上の,#意味の認識が要求される。意味の認識あれば,故意犯成立は否定されず,違法の意識の可能性を欠く場合にのみ否定されうる。
[山口『刑法総論』3版204頁-206頁参照]

 

―――――
◇択一的故意
刑法9/ 125/ 母と妻からこもごも小言を言われ酒癖の悪いXは憤懣やる方なく、囲炉裏の反対側の両人めがけ憤激の余り本件鈎吊し(かぎつるし)を振りつけ、母Bの前頭部にあてたものである。Xは両人のいずれかにあたることを認識しながらこれを振ったのであり、その暴行はいわゆる択一的故意によるといえる。#刑法
[東京高判昭35・12・24下刑集2-11・12-1365『判例ラクティス』刑法Ⅰ総論〔90〕参照]

 

◇択一的故意と故意の個数(未遂概念の特性)
刑法10/ 126/ パーティー会場でABに一緒に出されるグラスの一方だけ致死量の毒薬を混入するような、いわゆる択一的殺意ある場合、1個の故意(殺意)で複数の故意犯(既遂犯と未遂犯)成立を肯定できる。既遂の可能性で足りる未遂概念の特性による。併存しうるのは未遂犯に限られ、未遂罪二罪も成立しうる。#刑法
[山口『刑法総

論』2版211頁参照]

 

―――――
略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)

刑法ツイフィール: http://twpf.jp/right_droit3  

刑法ツイッター: https://twitter.com/right_droit3  

 

刑法各論/ 国家的法益に対する罪 (短文18ヶ)

☆職務の適法性(刑法95条1項)
刑法事案13/ 市会議員Xは,予算審議の市会で,議長Aの開会宣言後,水道問題を質問。他議員も重大・緊急の同問題先議を主張し,日程変更動議提出,議員数名賛成。#複数賛成者ある動議は議題とさるべきもので(規則9条参照),議題に取り上げられないのは許されないとし,XはAの襟をつかみ,檀下に引き下ろした。#職務の適法性?
[大判昭7・3・24刑集11-296『判例ラクティス 刑法Ⅱ』〔485〕参照。参考:山口『刑法各論』2版544頁]
 
◇適法性の要否・要件
刑法222/ 1100/ #職務の執行は適法でなければならない(書かれざる構成要件)。∵違法な職務は保護に値しないし,違法な職務執行に対しては正当防衛すら可能だから。#適法性要件:①当該公務員の抽象的職務権限に属し,②当該職務執行に必要な前提条件が備わっており(具体的職務権限あり),③有効要件たる重要な方式の履践。
[山口『刑法各論』2版543頁=544頁(大判昭7・3・24刑集11-296)参照]
 
☆職務としての現行犯逮捕の適法性
刑法事案14/ 巡査Aらは,Xを日本刀仕込杖所持により,銃砲刀剣類等所持取締法違反で現行犯逮捕するときに,X側に寄りかかってきたYが,何か手渡されている気配を察知し,両名間に割り込んだところ,Yの腹あたりからけん銃落下。#AらはYも逮捕しようとしたが,Xらは,Aらに暴行。#1審_Y同取締法違反罪_無罪。公務執行妨害罪?
[最決昭41・4・14判時449-64『判例ラクティス 刑法Ⅱ』〔489〕参照。適法性判断は,裁判所が法令の解釈により客観的に判断すべきものであり,かつ行為時の状況を前提とすべきとの結論。]
 
◇適法性の判断基準,錯誤
刑法223/ 1101/ 適法性判断は,#裁判所が法令解釈により客観的にすべき(客観説)。基準は法令。行為時状況を前提とし例えば,被疑者逮捕要件が備わっていれば,逮捕行為(職務執行)は適法であり,事後の裁判で無罪となっても,遡って逮捕行為が違法となるものではない。#適法性を基礎づける事実についてのみ,事実の錯誤肯定。
[山口『刑法各論』2版545頁-546頁(最決昭41・4・14判時449-64)参照]
 
公務執行妨害罪(刑法95条1項)まとめ
・職務執行は適法でなければならない。違法な職務は保護に値しないからである。適法となる要件は、①当該公務員の抽象的職務権限に属し、②当該職務執行に必要な前提条件が備わっているという意味で具体的職務権限が認められ、③重要な方式を履践し有効なものであることである。
・適法性の判断基準は法令に求められ、裁判所が行為の状況を前提として法令を解釈し客観的に判断する。事後的に無罪となったとしても、遡って違法となるものではない。その適法性を基礎づける事実について、行為者が錯誤していた場合、事実の錯誤として故意が阻却されうる。


刑法239/ 1142/ 職務執行の適法性要。∵#違法な職務は保護に値しない。適法要件:①当該公務員の抽象的職務権限内,②当該職務執行に必要な前提条件が備わっている(具体的職務権限),③重要な方式を履践し有効。#裁判所が行為の状況を前提として法令を解釈し客観的に判断。被疑者の行為が事後,無罪になっても適法のまま。
http://right-droit.hatenablog.com/entry/2019/10/31/225255
 
―――――
☆「罪を犯した者」の意義
刑法事案15/ Xは,恐喝で逮捕状を発付され逃走中のAを2か月間蔵匿し,犯人蔵匿罪で起訴された。弁護側は蔵匿対象者は「罰金以上の罪を犯したる者」なので,罪を犯したという事実が確定されない限り本罪不成立と主張。/#刑法103条の保護法益は司法に関する国権の作用であり,「罪を犯したる者」捜査中の者も含む(判例)。
[最判昭24・8・9刑集3-9-1440『判例ラクティス 刑法Ⅱ』〔497〕参照。当時の条文は,「罰金以上ノ罪ヲ犯シタル者」とされていたのであろう。しかし現在の文言は「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」なっているため,「罪を犯した者」を限定すべき文言上の理由付けは使えなくなっているようである。]
 
刑法238/ 1141/ 刑法103条で保護されるべき司法作用とは,#真犯人を適切に訴追・処罰することに関する司法作用であり_本来なされるべきではない身柄確保に関する司法作用は保護されていないと解すべき。⇒真犯人でない者の身柄確保は,本来なされるべきではない身柄確保であり,「罪を犯した者」は,#真犯人に限定すべき。
[深町晋也『判例ラクティス 刑法Ⅱ』〔497〕(最判昭24・8・9刑集3-9-1440)解説参照]
 
☆刑法104条「他人」に死者も含むか
刑法事案11/ 刑法R23予備:甲は,#経済苦に耐えかねた妻乙が長女丙を殺した痕跡や,自殺を図った乙の依頼により承諾殺人を行った痕跡を消し,焼死したように見せかけるために,乙丙の周りに灯油をまき,抵当権負担のある自宅を焼失させた。証拠隠滅罪の成否?「#他人」(刑法104条)に死者も含むか? 保護法益:刑事司法作用。
[平成23年司法試験予備試験 論文出題趣旨 刑法, 他の方の参考答案ブログ(https://blog.goo.ne.jp/kuma_pat/e/783bf7cddd9ae655d0f5c6900e23408a,刑訴法339条1項4号),山口『刑法各論』2版576頁,参照]
 
◇証拠隠滅等罪(刑法104条)
刑法213/ 1091/ 証拠隠滅等罪は,#他人の刑事事件に関する証拠を隠滅_偽造_変造_or_偽造or変造証拠の使用で成立。捜査・審判作用を誤らせる罪。無実の他人を罪に陥れる目的で行われることもあるため,犯人蔵匿罪とは異なり,刑事事件に法定刑による重さの限定ない(いかに軽微な罪でも,無実の者を罪に陥れる行為,禁圧要)。
[山口『刑法各論』2版583頁参照]
 
◇自己と共犯者とにつき共通の証拠を隠滅等する場合
刑法214/ 1092/ 自己と共犯者の共通証拠隠滅等の場合?
たまたま他人の刑事事件に関するという外部的事情だけで本罪成立を肯定するのは,#自己の刑事事件に関する証拠が除外されている趣旨に反し,不当。#もっぱら他人のために行為した場合に限り,本罪成立を認めるべき。自己の利益のため隠滅等行う場合,期待可能性欠如。
[山口『刑法各論』2版583頁-584頁参照]
 
◇共犯者を蔵匿または隠避させる行為の可罰性
刑法215/ 1093/ #共犯者の蔵匿・隠避は_自己の刑事事件に関する証拠の隠滅にあたり_当該事件との関係では_犯人蔵匿罪のみ処罰対象。∵犯人蔵匿罪の「罰金以上の刑に当たる罪」という限定が無意味になってしまう。but,#他の刑事事件との関係では_証拠隠滅罪の処罰対象となりうる。可罰性否定の根拠は期待可能性の欠如。
[山口『刑法各論』2版584頁-585頁参照]
 
◇親族による犯罪に関する特例(刑法105条)
刑法221/ 1098/ 犯人蔵匿等罪(刑法103条)or証拠隠滅等罪(104条)では,犯人or逃走した者の親族(民法725条参照)がこれらの者の利益のために犯したときは,#刑を裁量的に免除可(105条)。#期待可能性の程度が低く_責任が減少すると認められるから。親族が犯人等の利益のために犯した場合,他人の利益も併せ図ったときも同様。
[山口『刑法各論』2版589頁-590頁(大判大8・4・17刑録25-568)参照]
 
証拠隠滅等罪(刑法103条,104条など)まとめ(6点)
 ・保護法益は、捜査、審判および刑の執行など広義における刑事司法作用(司法に関する国権の作用)である。
・「罪を犯した者」(103条)には,犯罪の嫌疑によって捜査中の者も含む(判例)。
・証拠隠滅等罪は、「他人」の「刑事事件」に関する証拠を隠滅・偽造・変造、偽造・変造の証拠を使用することで成立する。捜査・審判作用を誤らせる罪である。
・自己と共犯者とについて共通の証拠を隠滅等した場合、もっぱら他人(共犯者)のために行為した場合に限り、本罪の成立が認められる。自己の利益のために隠滅等を行う場合、期待可能性を欠如するからである。
・共犯者自体を蔵匿・隠避した場合、自己の証拠の隠滅という点での証拠隠滅罪は成立せず、犯人隠匿罪でのみ処罰可能である。犯人蔵匿罪(103条)の「罰金以上の刑に当たる罪」という限定が無意味になってしまうからである。しかし、当該証拠が、自己の関与しない他の刑事事件の証拠にもあたる場合には、その他の刑事事件に関する証拠隠滅罪の処罰対象となりうる。
・親族による場合は、刑の裁量的免除可能(105条)。親族の期待可能性の程度も低く、責任減少が認められるからである。

―――――
◇賄賂罪の保護法益
刑法101/ 799/ #賄賂罪の保護法益は職務の公正とそれに対する社会の信頼。∵適法な職務行為に対する賄賂授受,職務行為後の授受も可罰的。#職務行為が賄賂の影響下に置かれ_職務遂行における裁量が不当行使される危険防止に対する信頼も保護。請託,⇒賄賂の影響下に置かれる危険大。不正な職務行為,賄賂の影響の結果。
[辰巳『趣旨・規範ハンドブック 刑事系』5版171頁(最大判平7・2・22刑集49-2-1,ロッキード事件),山口『刑法各論』2版610頁-613頁,参照。参考:R27予備で,賄賂罪についての問題が出題されていますが,保護法益論を書かなければならないのか,わかりません。]
 
―――――
◇職務行為の意義
刑法216/ 1094/ 賄賂罪は,#公務員の職務行為と賄賂とが対価関係に立つことで成立。∵対価関係が認めらるとき,職務行為が賄賂の影響下に置かれ,職務の公正が害される。#賄賂収受等の時点で公務員たること要(例外:事前・事後収賄)。職務:不正な職務,不作為も含む。職務行為:#法令上公務員の一般的職務権限に属する行為。
[山口『刑法各論』2版613頁-615頁(最大判平7・2・22刑集49-2-1(ロッキード事件)等)参照]
 
◇一般的職務権限論(職務関連性)
刑法217/ 1095/ 賄賂と対価関係に立つべき職務行為といいうるには,法令上公務員の一般的職務権限に属する行為であれば足りる。事務分担上,当該公務員が具体的に担当していない事項に関する職務も,#職務関連性が認められるという意味で,一般的職務権限あり。担当することが不可能でない(同一の課に属する職務)か,目安。
[山口『刑法各論』2版615頁-616頁(最大判平7・2・22刑集49-2-1(ロッキード事件),最決平17・3・11刑集59-2-1(警視庁警察官の職務)等)参照]
 
◇職務密接関連行為
刑法219/ 1097/ 公務員の本来の職務行為のみならず,#職務密接関連行為も職務行為に含まれる。①本来の職務行為と関連し慣行的に担当する行為や,前段階的・準備的行為など,②自己の職務に基づく影響力を利用して行う行為(同一権限ある公務員への働きかけ,権限の異なる公務員への働きかけ,非公務員への行政指導的行為)。
[山口『刑法各論』2版616頁-617頁参照]
 
―――――
◇賄賂
刑法220/ 1098/ 賄賂:#公務員の職務行為の対価として授受等される不正な利益(あっせん収受罪では,あっせんの対価としての不正な利益)。個別具体的な職務行為との間の対価関係までは不要。賄賂目的物は,財物に限らず,無形・有形を問わず,#人の需要・欲望を満たすに足る一切の利益含む。社交儀礼も,対価関係あれば賄賂。
[山口『刑法各論』2版619頁-620頁(最決昭33・9・30刑集12-13-3180,大判明43・12・19刑録16-2239,大判昭4・12・4刑集8-609,大判昭10・8・17刑集14-885等)参照]
 
―――――
☆受託収賄罪,贈賄罪
刑法事案12/ 刑法R27予備:B市職員で公共事業者選定・契約締結権限ある丙は,(株)A社総務部長甲から,業者選定での有利取扱いの請託を受け,賄賂約束,妻丁を介し現金50万円収受(#197条1項後段,受託収賄?)。総務部長乙から頼まれた甲は,丙に,有利取扱いの見返りに賄賂供与を約束,事情を知る丁を介し供与(#198条,贈賄?)。
[平成27年司法試験予備試験 論文出題趣旨 刑法, 他の方の参考答案ブログ(http://study.web5.jp/150729a.htm],参照]
 
賄賂罪まとめ(3点)
・保護法益は、職務の公正とそれに対する社会の信頼。
・「職務」行為とは、法令上公務員の一般的職務権限に属する行為をいう。
事務分担上、当該公務員が具体手に担当してない事項に関する職務も、職務関連性が認められるという意味で一般的職務権限があるといえる。その目安は担当することが不可能ではないかであり、具体的には同一の課に属する職務であるか否かで判断できる。
視点を変えて言えば、本来の職務行為のみならず、職務に密接に関連する行為(職務密接関連行為)も(一般的職務権限に属する行為といえ、)職務行為に含まれると解される。例えば、本来の「職務」と関連して慣行的に担当する行為や、本来の「職務」の前段階的・準備的行為など、あるいは、自己の職務に基づく影響力を利用して行う行為である。
・「賄賂」は、有形・無形を問わず、人の需要・欲望を満たすに足りる一切の利益が含まれる。社交儀礼名目で授受等(収受・要求・約束)がなされたとしても、職務行為(ないし職務密接関連行為)との対価関係があれば、賄賂罪が成立する。
 
―――――
略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。orまたは,∴なので,⇒ならば,∵なぜならば,⇔これに対し。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)
©2019@right_droit
刑事系ツイフィール: http://twpf.jp/right_droit3 メインツイフィール: http://twpf.jp/right_droit
ツイッター: https://twitter.com/right_droit3 https://twitter.com/right_droit

 

刑法総論/ 未遂犯(障害未遂,中止未遂)(9ヶ) - 140字法律学

刑法総論/ 未遂犯(障害未遂,中止未遂)(9ヶ)

◇既遂の現実的危険・客観的危険(具体的危険)
[・未遂犯が成立するために必要とされる危険は、既遂犯の構成要件的結果が惹起される現実的・客観的危険をいうが、それは一般的抽象的なな危険ではなく、具体的に認められる危険である。未遂犯は、既遂の具体的危険を結果とする一種の具体的危険犯(危険の惹起を明文で要求する犯罪である)といえる。
 これらの判断に際して、行為者の法益侵害結果惹起行為を行おうとする行為意思(すなわち、構成要件的結果惹起行為を行おうとする意思)が考慮される(これは、主観的違法要素である)。たとえば、被害者に拳銃を向けて引き金に指をかけている場合、引き金を引く意思があれば、拳銃が発射される現実的危険が生じ、殺人未遂の成立を肯定することができる。
 さらに、判例によれば、行為者の犯行計画も危険判断において考慮される(クロロホルム事件参照)。]

 刑法総論47/ 689/ 未遂犯成立に必要な危険は,#既遂犯の構成要件的結果を惹起する現実的・客観的危険かつ具体的危険。未遂犯は,既遂の具体的危険を結果とする一種の具体的危険犯(危険惹起を明文で要求する犯罪)。#行為者の法益侵害結果惹起行為を行おうとする行為意思を考慮(主観的違法要素,例:拳銃の引き金を引く意思)。
[山口『刑法総論』3版285頁,47頁L14,参照]

 

☆隔離犯と実行の着手,不能犯
刑法問題5/ 刑法R29予備参照:甲は民間病院内科部長医師,Vと交際。V心臓の特異疾患を甲Vは知っていたが,通常診察で判明し得ないもの。甲は,劇薬入りワインでV殺害を図り,Vのみ居住宅に宅配便で送付。致死量10mlのところ,8mlしか含まれてなかったが,特異疾患あるV摂取なら,死亡の危険あり。V不在で未受領。甲の罪責?

 

☆間接正犯,業務過失致死罪
6/ 刑法R29予備参照:Vは私立大学病院内科医乙に熱中症と診断され,治療方針を相談された内科部長甲が,劇薬Y致死量6mlだが,心臓に特異疾患あるVは3mlでも死亡の危険あることを知りながら,確実を期し6ml,熱中症薬Bと偽り,乙に注射指示。容器に薬剤名なかったが,乙は中身確認せず,3ml注射。V死亡。甲乙の罪責?

 

☆虚偽診断書作成罪・行使罪,証拠隠滅罪,犯人隠避罪
7/ 刑法R29予備参照:民間病院内科医乙は,V死亡後,検査の結果,劇薬Y注射が原因の心臓発作による急性心不全と知った。乙は,内科部長甲に就職時に世話になったので,注射指示した甲に刑事責任が及ばないよう,専ら甲のため,死亡診断書に虚偽死因を記載,署名押印し,Vの母親Dに渡し,Dは,C市役所に提出。乙の罪責?
[平成29年度司法試験予備試験 論文式試験 問題と出題趣旨,参照]

―――――
〇金品の物色と窃盗罪の着手
刑法判例2/ 大判昭9・10・19:窃盗目的をもって家宅に侵入し,#他人の財物に対する事実上の支配を犯すにつき密接な行為をなしたるときは,窃盗に着手したものというべし。ゆえに,窃盗犯人が家宅に侵入して金品物色のためタンスに近寄りたるがごときは,右事実上の支配を犯すにつき密接な行為であり,窃盗罪の着手あり。
[福田・大塚『刑法判例集』4版〔87〕(刑集13-1473)参照。なお,窃盗目的で土蔵に侵入しようとしよとした時に着手ありとされる(名古屋高判昭25・11・14高刑集3-4-748)。]

 

刑法判例5/ 最決昭45・7・28:ダンプカーに引きずり込む行為自体は姦淫に向けられた暴行といえず,姦淫行為との間に相当の時間的・場所的離隔が存在。同種事件の下級審に,強姦手段としての定型性なしとするものもあったが,本決定は,#すでに強姦に至る客観的な危険性が明らかとし,実行の着手を認めた(実質的客観説)。
[『判例ラクティス刑法Ⅰ』〔273〕(刑集24-7-585)参照]

 

上記短文6ヶのまとめ

・未遂犯成立に必要な危険は、既遂犯の構成要件的結果を惹起する現実的・客観的危険(具体的危険)である。すなわち、既遂の具体的危険を結果とする犯罪である。ただし、主観的違法要素として、法益侵害結果惹起行為を行おうとする行為意思(犯行計画も含む)を考慮する必要がある。

・構成要件的行為に「密接な行為」についても、構成要件的結果を惹起する現実的・客観的危険(具体的危険)ありとされる。

判例は、姦淫目的でダンプカーに引きずり込んだ行為(①)について、姦淫行為(②)と相当の時間的・場所的離隔があったが、客観的な危険性が明らかとし、実行の着手を認めている。

 

―――――

〇早すぎた結果の発生――クロロホルム事件
刑法判例1/ 最決平16・3・22:#殺害計画は,①クロロホルムを吸引させ失神させ,②車ごと海中に沈め殺すもので,①は②を確実・容易に行うため必要不可欠,①後,障害となる特段の事情なし,①②間の時間的場所的近接性などに照らすと,#両行為は密接な行為で,①に殺人に至る客観的危険性認められ殺人罪の実行の着手あり。
[『判例ラクティス刑法Ⅰ』〔267〕(刑集58-3-187)参照]


◇早すぎた結果の発生(早すぎた構成要件の実現)
刑法225/ 1103/ 当初の犯行計画で予定され,#密接な関係をもって行為者自身が行う一連一体の行為につき,そのいずれも行わず結果惹起を回避すべき法的要請を強く推し進める立場から,行為開始段階で現実的故意を認め,#当該行為自体に結果惹起意図なきものまで拡張し,いずれかの行為により惹起された結果に,故意犯肯定可。
[山口『刑法総論』3版234頁(最決平16・3・22刑集58-3-187,クロロホルム事件)参照]

 

上記短文2ヶの検討――実際に結果が発生しているが,当初計画した実行行為ではなく,その前段階の行為により結果が発生した場合(早すぎた結果の発生)

 ・計画にもとづく構成要件的行為の前段階の行為(①)についても、構成要件的行為(②,実行行為)を確実・容易に行うために必要不可欠で、時間的場所的近接性などに照らし、密接な行為といえる(接着する)ならば、①の行為にも、構成要件的危険惹起の現実的・客観的危険(具体的危険)ありといえ、実行の着手(刑法43条本文)が認められる。

・この場合、未遂犯ではないが、当初の犯行計画で予定され密接な関係をもって行為者自身が行う一連一体の行為開始段階で現実的故意ありといえる。したがって、それら行為のうちのその行為自体には結果惹起意図がなかった行為についても、故意が認められると解する。

 

―――――
〇危険消滅説
[・中止犯規定(刑法43条ただし書)には、「自己の意思による」中止によって既遂の現実的・客観的危険(具体的危険)が消滅したときに、それによる褒賞として刑の必要的減免という特典を与え、被害法益の救助を図り、それを促進しようとする政策的意義がある。もっとも、自分の行為によって危険を消滅させるという認識(中止の認識)がない場合には、特典に値する行為を行う意思が認められないため、中止犯の特典を与えることはできない。すなわち、褒章に値する心理状態において中止したことが必要である。危険消滅の意思で、それを実現した場合にだけ褒賞・特典として刑の必要的減免が与えられることになるのである(意識的危険消滅説、違法・責任減少説)。]

 刑法総論49/ 691/ 中止犯(刑法43条ただし書)には,「自己の意思により」中止し既遂の現実的・客観的危険(具体的危険)が消滅したとき,褒賞として刑の必要的減免という特典を与え,被害法益を救助しようとする政策的意義あり。もっとも,特典に値する行為を行う意思(中止の認識)が必要(#意識的危険消滅説,違法・責任減少説)。
[山口『刑法総論』3版294頁,295頁参照]

 

―――――

略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)

©2019@right_droit

刑事系ツイフィール twpf.jp/right_droit3 メイン・ツイフィール twpf.jp/right_droit
刑事系ツイッター
@right_droit3 メイン・ツイッター @right_droit  

刑法総論/ 不能犯(8ヶ。まとめ追加) - 140字法律学

民訴法/ 平成24年度予備試験答案構成(信義則による遮断,既判力の時的限界,相殺の抗弁の審理順序,3ツイート)

(倒産法,要件事実,民訴法)

―――――

 

◇信義則による遮断効
民訴法117/ 813/ 前訴で,~旨の主張は否定されているが,主文中の判断ではないので,既判力は及ばない(民訴法114条1項)。
もっとも,#後訴での当該主張が前訴の実質的な蒸し返しで_前訴で同じ主張が可能であった上_後訴でその主張をすることが相手方を不当に不安定な地位におく場合,そのような主張は,信義則上許されない。
[『工藤北斗の合格論証集 商法 民事訴訟法』(2014年8月)179頁-180頁(最判昭51・9・30),辰巳『趣旨・規範ハンドブック 民事系』6版523頁,R24予備Q1①,参照]

◇既判力の時的限界(相殺権)
民訴法118/ 814/ #相殺は_前訴の訴訟物たる請求権とは別個の債権を犠牲にするものなので_前訴請求権自体に内在・付着する瑕疵にかかる権利とはいえない。自己の別個独立の債権の消滅という不利益を伴い,行使するかは債権者の自由で,前訴で当然に提出すべき防御方法ともいえない。したがって,前訴既判力で遮断されない。
[司法協会『民事訴訟法講義案』再訂補訂版279頁,R24予備Q1②,参照]

―――――


◇相殺の抗弁の審理順序
民訴法119/ 815/ 相殺の抗弁は,確定判決により,反対債権(自働債権)の不存在につき既判力を生じるので(民訴法114条2項),#債権消滅という別個の経済的損失を伴う。他方,弁済の抗弁は,理由中の判断で既判力は生じない(同条1項)。したがって,#被告の合理的意思を斟酌し,弁済の抗弁など他の攻撃防御方法から先に審理すべき。
[伊藤塾『試験対策問題集 民事訴訟法 論文5』(2011年11月)255頁(『民事訴訟法講義案235頁,282頁』),R24予備Q2,参照]

 

民訴法/ 補助参加; 独立当事者参加 - 140字法律学