ミニマム法律学

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刑法総論/ 不能犯(短文8ヶ。まとめ追加) (9月23日分,誤って消してしまったため,再掲)

不能犯に関する判例

刑法判例9/ 刑法判例:#方法の不能事案では_結果発生の可能性が科学的な根拠を問題としてかなり客観的に判断される場合が多いが,その一部の判決と,客体の不能判決では,#一般人の危険感が援用され具体的危険説(行為時に一般人に認識でき,あるいは行為者の認識した事実に基づき危険判断)に近い基準で未遂犯成立肯定。

[山口『刑法総論』3版288頁参照]

 

不能犯の判断基準

[・欺罔行為を受けた被害者が詐欺かもしれないと気づき、現金様の紙を入れた荷物を発送した後に、被告人が共謀に加わり、荷物を受領した詐欺未遂事件について、未遂か不能かを見極めるために、被告人の行為の危険性をどのように判断すべきか。

 当該行為の時点で、その場に置かれた一般通常人が認識し得た事情および行為者が特に認識していた事情を基礎として、当該行為の危険性の有無を判断し、被告人において被害者が騙されたふりをしているとの事情を認識しておらず、その場に置かれた一般通常人にとっても、そのような事情はおよそ認識し得なかったといえるから、被害者が騙されたふりをしているという事情は、行為の危険性を判断する際の基礎事情からは排除・捨象して考えるの相当である。

 そのように観察すれば、被告人は被害者において騙されたがゆえに発送した本件荷物を受領したということになるから、被告人の本件受領行為に実行行為性を肯定することができ、未遂犯としての可罰性あり、詐欺未遂の共同正犯が成立する。]

刑法81/ 692/ 欺罔行為を受けた被害者が詐欺かもと気づき,現金様の紙を入れた荷物を発送した後に,Xが共謀に加わり,荷物を受領した詐欺未遂事件についての行為の危険性判断も,#当該行為時_その場に置かれた一般通常人が認識し得た事情・行為者が特に認識していた事情を基礎として,当該行為の危険性の有無を判断する。

[平成29年度『重要判例解説』147頁(福岡高判平28・12・20判時2338-112)参照]

 

刑法143/ 929/ Xは被害者が騙されたふりをしているとの事情を認識しておらず,一般通常人にも,認識し得なかったといえるから,#被害者が騙されたふりをしているという事情は_行為の危険性判断の際_基礎事情から排除・捨象して考えるべき。⇒被害者が騙されて発送した荷物受領に実行行為性あり,未遂犯として可罰性あり。

[同上]

 

〇客体の不能についての裁判例(具体的危険説)

刑法判例10/ 福岡高判平28・12・20参照:#行為の危険性は_行為時点_その場に置かれた一般通常人が認識し得た事情・行為者が特に認識していた事情を基礎に判断(具体的危険説)。/Xは,Vが騙されたふりをしている事情を認識せず,その場に置かれた一般通常人も認識し得なかったといえるから,当該事情は基礎事情から排除。

[『平成29年度重要判例解説』147頁(判時2338-112)参照。したがって,騙されたふりをしている被害者は存在せず,特殊詐欺によって騙された被害者が本件荷物を発送し,被告人が受領したということになるので,被告人の本件受領行為の,詐欺の実行行為としての危険性が認めらるので,不能犯ではない。

 客体の不能に関する裁判例と考えられる(山口『刑法総論』3版288頁参照)。]

 

◇現実的・客観的危険の判断手順

刑法201/ 1057/ 未遂犯の成立要件である現実的・客観的危険(具体的危険)の判断の手順:①結果が発生しなかった原因を解明し,#事実がどのようであったら結果が発生しえたかを科学的に明らかにする。②結果をもたらしたはずの仮定的事実がありえたであろうかを,#一般人が事後的にありえたことだと考えるかを基準に,判断。

[山口『刑法総論』3版290頁(客観的危険説の一つである山口説,289頁)参照]

 

刑法79/ 690/ 現実的・客観的危険(未遂の成立要件)は,①#結果が発生しなかった原因を科学的に解明,②これによる,#結果をもたらしたはずの仮定的事実の存在可能性を_一般人の事後的な危険感,ありえたことだと一般人が考えるかの基準を用い判断。もっとも,具体的な被害法益に対する現実的な危険の発生なければ不能犯

[山口『刑法総論』3版290頁,291頁参照]

 

◇方法の不能事例

刑法202/ 1058/ #客観的には結果は発生しえなかったのであるが,たまたまそうだっただけで,#結果を発生させたことも十分ありえたと考えられる場合,危険が肯定される。方法の不能事例:覚せい剤製造工程自体適切だったが,薬品の使用料が不足していたにすぎない場合,適当量の使用がありえたと考えられる限りで未遂犯成立。

[山口『刑法総論』3版290頁参照]

 

◇客体の不能

刑法203/ 1059/ 客体の不能:客体がたまたまそこになかっただけで,#そこにあったことも十分考えられるとして,未遂犯成立可。/甲は,ATMにカードを挿入し現金を引き出そうとしたが,口座凍結で,引き出せなかった。甲の行動を不審に感じたAが警察に相談し凍結されたのであり,#巧妙な甲の説明を信じ込むことも十分ありえた。

[山口『刑法総論』3版290頁,R01①Q1(令和元年 第1問),参照。①Aが甲の説明を信じ込んでいれば,警察に相談,口座凍結されておらず,暗証番号を知る甲が預金を引き出しえていた。②甲は,ダミー封筒を封印し,連絡するまで開封しないようにと巧妙に欺罔しており,Aが信じ込むことも十分ありえた。]

 

上記短文8ヶのまとめ

判例は、方法の不能事案では、結果発生の可能性を科学的な根拠に基づき客観的に判断する場合が多いが、その一部の判決と、客体の不能判決では、行為時に一般人に認識でき、あるいは行為者の認識した事実に基づいて危険を判断し(具体的危険説)、未遂との区別をしている。

 たとえば、特殊詐欺についての客体の不能に関する裁判例もそうである。

・しかし私は、より科学的客観的に判断すべきと考える(客観的危険説)。すなわち、未遂犯の成立要件は現実的・客観的危険(具体的危険)といえるが、判断手順として、①結果が発生しなかった原因をまず解明、事実がどのようであったら結果が発生しえたかを科学的に明らかにし、②結果をもたらしたはずの仮定的事実がありえたであろうかを、一般人が事後的にありえたことだと考えるかどうかを基準に判断すべきである。

・方法の不能事例については、①科学的に原因を解明し、②一般人の目から見て、結果が発生しなかったのはたまたまのことであり、結果発生も十分にありえたと考えられるなら、現実的・客観的危険(具体的危険)が肯定される。

・客体の不能事例では、①客体不存在についての科学的客観的な原因の解明、②一般人の目からみて、そこに客体があったことも十分に考えられるならば、現実的・客観的危険(具体的危険)が肯定される。

 

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略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)

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