ミニマム法律学

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刑法各論/ 国家的法益に対する罪 (短文18ヶ)

☆職務の適法性(刑法95条1項)
刑法事案13/ 市会議員Xは,予算審議の市会で,議長Aの開会宣言後,水道問題を質問。他議員も重大・緊急の同問題先議を主張し,日程変更動議提出,議員数名賛成。#複数賛成者ある動議は議題とさるべきもので(規則9条参照),議題に取り上げられないのは許されないとし,XはAの襟をつかみ,檀下に引き下ろした。#職務の適法性?
[大判昭7・3・24刑集11-296『判例ラクティス 刑法Ⅱ』〔485〕参照。参考:山口『刑法各論』2版544頁]
 
◇適法性の要否・要件
刑法222/ 1100/ #職務の執行は適法でなければならない(書かれざる構成要件)。∵違法な職務は保護に値しないし,違法な職務執行に対しては正当防衛すら可能だから。#適法性要件:①当該公務員の抽象的職務権限に属し,②当該職務執行に必要な前提条件が備わっており(具体的職務権限あり),③有効要件たる重要な方式の履践。
[山口『刑法各論』2版543頁=544頁(大判昭7・3・24刑集11-296)参照]
 
☆職務としての現行犯逮捕の適法性
刑法事案14/ 巡査Aらは,Xを日本刀仕込杖所持により,銃砲刀剣類等所持取締法違反で現行犯逮捕するときに,X側に寄りかかってきたYが,何か手渡されている気配を察知し,両名間に割り込んだところ,Yの腹あたりからけん銃落下。#AらはYも逮捕しようとしたが,Xらは,Aらに暴行。#1審_Y同取締法違反罪_無罪。公務執行妨害罪?
[最決昭41・4・14判時449-64『判例ラクティス 刑法Ⅱ』〔489〕参照。適法性判断は,裁判所が法令の解釈により客観的に判断すべきものであり,かつ行為時の状況を前提とすべきとの結論。]
 
◇適法性の判断基準,錯誤
刑法223/ 1101/ 適法性判断は,#裁判所が法令解釈により客観的にすべき(客観説)。基準は法令。行為時状況を前提とし例えば,被疑者逮捕要件が備わっていれば,逮捕行為(職務執行)は適法であり,事後の裁判で無罪となっても,遡って逮捕行為が違法となるものではない。#適法性を基礎づける事実についてのみ,事実の錯誤肯定。
[山口『刑法各論』2版545頁-546頁(最決昭41・4・14判時449-64)参照]
 
公務執行妨害罪(刑法95条1項)まとめ
・職務執行は適法でなければならない。違法な職務は保護に値しないからである。適法となる要件は、①当該公務員の抽象的職務権限に属し、②当該職務執行に必要な前提条件が備わっているという意味で具体的職務権限が認められ、③重要な方式を履践し有効なものであることである。
・適法性の判断基準は法令に求められ、裁判所が行為の状況を前提として法令を解釈し客観的に判断する。事後的に無罪となったとしても、遡って違法となるものではない。その適法性を基礎づける事実について、行為者が錯誤していた場合、事実の錯誤として故意が阻却されうる。


刑法239/ 1142/ 職務執行の適法性要。∵#違法な職務は保護に値しない。適法要件:①当該公務員の抽象的職務権限内,②当該職務執行に必要な前提条件が備わっている(具体的職務権限),③重要な方式を履践し有効。#裁判所が行為の状況を前提として法令を解釈し客観的に判断。被疑者の行為が事後,無罪になっても適法のまま。
http://right-droit.hatenablog.com/entry/2019/10/31/225255
 
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☆「罪を犯した者」の意義
刑法事案15/ Xは,恐喝で逮捕状を発付され逃走中のAを2か月間蔵匿し,犯人蔵匿罪で起訴された。弁護側は蔵匿対象者は「罰金以上の罪を犯したる者」なので,罪を犯したという事実が確定されない限り本罪不成立と主張。/#刑法103条の保護法益は司法に関する国権の作用であり,「罪を犯したる者」捜査中の者も含む(判例)。
[最判昭24・8・9刑集3-9-1440『判例ラクティス 刑法Ⅱ』〔497〕参照。当時の条文は,「罰金以上ノ罪ヲ犯シタル者」とされていたのであろう。しかし現在の文言は「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」なっているため,「罪を犯した者」を限定すべき文言上の理由付けは使えなくなっているようである。]
 
刑法238/ 1141/ 刑法103条で保護されるべき司法作用とは,#真犯人を適切に訴追・処罰することに関する司法作用であり_本来なされるべきではない身柄確保に関する司法作用は保護されていないと解すべき。⇒真犯人でない者の身柄確保は,本来なされるべきではない身柄確保であり,「罪を犯した者」は,#真犯人に限定すべき。
[深町晋也『判例ラクティス 刑法Ⅱ』〔497〕(最判昭24・8・9刑集3-9-1440)解説参照]
 
☆刑法104条「他人」に死者も含むか
刑法事案11/ 刑法R23予備:甲は,#経済苦に耐えかねた妻乙が長女丙を殺した痕跡や,自殺を図った乙の依頼により承諾殺人を行った痕跡を消し,焼死したように見せかけるために,乙丙の周りに灯油をまき,抵当権負担のある自宅を焼失させた。証拠隠滅罪の成否?「#他人」(刑法104条)に死者も含むか? 保護法益:刑事司法作用。
[平成23年司法試験予備試験 論文出題趣旨 刑法, 他の方の参考答案ブログ(https://blog.goo.ne.jp/kuma_pat/e/783bf7cddd9ae655d0f5c6900e23408a,刑訴法339条1項4号),山口『刑法各論』2版576頁,参照]
 
◇証拠隠滅等罪(刑法104条)
刑法213/ 1091/ 証拠隠滅等罪は,#他人の刑事事件に関する証拠を隠滅_偽造_変造_or_偽造or変造証拠の使用で成立。捜査・審判作用を誤らせる罪。無実の他人を罪に陥れる目的で行われることもあるため,犯人蔵匿罪とは異なり,刑事事件に法定刑による重さの限定ない(いかに軽微な罪でも,無実の者を罪に陥れる行為,禁圧要)。
[山口『刑法各論』2版583頁参照]
 
◇自己と共犯者とにつき共通の証拠を隠滅等する場合
刑法214/ 1092/ 自己と共犯者の共通証拠隠滅等の場合?
たまたま他人の刑事事件に関するという外部的事情だけで本罪成立を肯定するのは,#自己の刑事事件に関する証拠が除外されている趣旨に反し,不当。#もっぱら他人のために行為した場合に限り,本罪成立を認めるべき。自己の利益のため隠滅等行う場合,期待可能性欠如。
[山口『刑法各論』2版583頁-584頁参照]
 
◇共犯者を蔵匿または隠避させる行為の可罰性
刑法215/ 1093/ #共犯者の蔵匿・隠避は_自己の刑事事件に関する証拠の隠滅にあたり_当該事件との関係では_犯人蔵匿罪のみ処罰対象。∵犯人蔵匿罪の「罰金以上の刑に当たる罪」という限定が無意味になってしまう。but,#他の刑事事件との関係では_証拠隠滅罪の処罰対象となりうる。可罰性否定の根拠は期待可能性の欠如。
[山口『刑法各論』2版584頁-585頁参照]
 
◇親族による犯罪に関する特例(刑法105条)
刑法221/ 1098/ 犯人蔵匿等罪(刑法103条)or証拠隠滅等罪(104条)では,犯人or逃走した者の親族(民法725条参照)がこれらの者の利益のために犯したときは,#刑を裁量的に免除可(105条)。#期待可能性の程度が低く_責任が減少すると認められるから。親族が犯人等の利益のために犯した場合,他人の利益も併せ図ったときも同様。
[山口『刑法各論』2版589頁-590頁(大判大8・4・17刑録25-568)参照]
 
証拠隠滅等罪(刑法103条,104条など)まとめ(6点)
 ・保護法益は、捜査、審判および刑の執行など広義における刑事司法作用(司法に関する国権の作用)である。
・「罪を犯した者」(103条)には,犯罪の嫌疑によって捜査中の者も含む(判例)。
・証拠隠滅等罪は、「他人」の「刑事事件」に関する証拠を隠滅・偽造・変造、偽造・変造の証拠を使用することで成立する。捜査・審判作用を誤らせる罪である。
・自己と共犯者とについて共通の証拠を隠滅等した場合、もっぱら他人(共犯者)のために行為した場合に限り、本罪の成立が認められる。自己の利益のために隠滅等を行う場合、期待可能性を欠如するからである。
・共犯者自体を蔵匿・隠避した場合、自己の証拠の隠滅という点での証拠隠滅罪は成立せず、犯人隠匿罪でのみ処罰可能である。犯人蔵匿罪(103条)の「罰金以上の刑に当たる罪」という限定が無意味になってしまうからである。しかし、当該証拠が、自己の関与しない他の刑事事件の証拠にもあたる場合には、その他の刑事事件に関する証拠隠滅罪の処罰対象となりうる。
・親族による場合は、刑の裁量的免除可能(105条)。親族の期待可能性の程度も低く、責任減少が認められるからである。

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◇賄賂罪の保護法益
刑法101/ 799/ #賄賂罪の保護法益は職務の公正とそれに対する社会の信頼。∵適法な職務行為に対する賄賂授受,職務行為後の授受も可罰的。#職務行為が賄賂の影響下に置かれ_職務遂行における裁量が不当行使される危険防止に対する信頼も保護。請託,⇒賄賂の影響下に置かれる危険大。不正な職務行為,賄賂の影響の結果。
[辰巳『趣旨・規範ハンドブック 刑事系』5版171頁(最大判平7・2・22刑集49-2-1,ロッキード事件),山口『刑法各論』2版610頁-613頁,参照。参考:R27予備で,賄賂罪についての問題が出題されていますが,保護法益論を書かなければならないのか,わかりません。]
 
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◇職務行為の意義
刑法216/ 1094/ 賄賂罪は,#公務員の職務行為と賄賂とが対価関係に立つことで成立。∵対価関係が認めらるとき,職務行為が賄賂の影響下に置かれ,職務の公正が害される。#賄賂収受等の時点で公務員たること要(例外:事前・事後収賄)。職務:不正な職務,不作為も含む。職務行為:#法令上公務員の一般的職務権限に属する行為。
[山口『刑法各論』2版613頁-615頁(最大判平7・2・22刑集49-2-1(ロッキード事件)等)参照]
 
◇一般的職務権限論(職務関連性)
刑法217/ 1095/ 賄賂と対価関係に立つべき職務行為といいうるには,法令上公務員の一般的職務権限に属する行為であれば足りる。事務分担上,当該公務員が具体的に担当していない事項に関する職務も,#職務関連性が認められるという意味で,一般的職務権限あり。担当することが不可能でない(同一の課に属する職務)か,目安。
[山口『刑法各論』2版615頁-616頁(最大判平7・2・22刑集49-2-1(ロッキード事件),最決平17・3・11刑集59-2-1(警視庁警察官の職務)等)参照]
 
◇職務密接関連行為
刑法219/ 1097/ 公務員の本来の職務行為のみならず,#職務密接関連行為も職務行為に含まれる。①本来の職務行為と関連し慣行的に担当する行為や,前段階的・準備的行為など,②自己の職務に基づく影響力を利用して行う行為(同一権限ある公務員への働きかけ,権限の異なる公務員への働きかけ,非公務員への行政指導的行為)。
[山口『刑法各論』2版616頁-617頁参照]
 
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◇賄賂
刑法220/ 1098/ 賄賂:#公務員の職務行為の対価として授受等される不正な利益(あっせん収受罪では,あっせんの対価としての不正な利益)。個別具体的な職務行為との間の対価関係までは不要。賄賂目的物は,財物に限らず,無形・有形を問わず,#人の需要・欲望を満たすに足る一切の利益含む。社交儀礼も,対価関係あれば賄賂。
[山口『刑法各論』2版619頁-620頁(最決昭33・9・30刑集12-13-3180,大判明43・12・19刑録16-2239,大判昭4・12・4刑集8-609,大判昭10・8・17刑集14-885等)参照]
 
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☆受託収賄罪,贈賄罪
刑法事案12/ 刑法R27予備:B市職員で公共事業者選定・契約締結権限ある丙は,(株)A社総務部長甲から,業者選定での有利取扱いの請託を受け,賄賂約束,妻丁を介し現金50万円収受(#197条1項後段,受託収賄?)。総務部長乙から頼まれた甲は,丙に,有利取扱いの見返りに賄賂供与を約束,事情を知る丁を介し供与(#198条,贈賄?)。
[平成27年司法試験予備試験 論文出題趣旨 刑法, 他の方の参考答案ブログ(http://study.web5.jp/150729a.htm],参照]
 
賄賂罪まとめ(3点)
・保護法益は、職務の公正とそれに対する社会の信頼。
・「職務」行為とは、法令上公務員の一般的職務権限に属する行為をいう。
事務分担上、当該公務員が具体手に担当してない事項に関する職務も、職務関連性が認められるという意味で一般的職務権限があるといえる。その目安は担当することが不可能ではないかであり、具体的には同一の課に属する職務であるか否かで判断できる。
視点を変えて言えば、本来の職務行為のみならず、職務に密接に関連する行為(職務密接関連行為)も(一般的職務権限に属する行為といえ、)職務行為に含まれると解される。例えば、本来の「職務」と関連して慣行的に担当する行為や、本来の「職務」の前段階的・準備的行為など、あるいは、自己の職務に基づく影響力を利用して行う行為である。
・「賄賂」は、有形・無形を問わず、人の需要・欲望を満たすに足りる一切の利益が含まれる。社交儀礼名目で授受等(収受・要求・約束)がなされたとしても、職務行為(ないし職務密接関連行為)との対価関係があれば、賄賂罪が成立する。
 
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略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。orまたは,∴なので,⇒ならば,∵なぜならば,⇔これに対し。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)
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刑法総論/ 未遂犯(障害未遂,中止未遂)(9ヶ) - 140字法律学