ミニマム法律学

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刑法総論/ 未遂犯(障害未遂,中止未遂)(9ヶ)

◇既遂の現実的危険・客観的危険(具体的危険)
[・未遂犯が成立するために必要とされる危険は、既遂犯の構成要件的結果が惹起される現実的・客観的危険をいうが、それは一般的抽象的なな危険ではなく、具体的に認められる危険である。未遂犯は、既遂の具体的危険を結果とする一種の具体的危険犯(危険の惹起を明文で要求する犯罪である)といえる。
 これらの判断に際して、行為者の法益侵害結果惹起行為を行おうとする行為意思(すなわち、構成要件的結果惹起行為を行おうとする意思)が考慮される(これは、主観的違法要素である)。たとえば、被害者に拳銃を向けて引き金に指をかけている場合、引き金を引く意思があれば、拳銃が発射される現実的危険が生じ、殺人未遂の成立を肯定することができる。
 さらに、判例によれば、行為者の犯行計画も危険判断において考慮される(クロロホルム事件参照)。]

 刑法総論47/ 689/ 未遂犯成立に必要な危険は,#既遂犯の構成要件的結果を惹起する現実的・客観的危険かつ具体的危険。未遂犯は,既遂の具体的危険を結果とする一種の具体的危険犯(危険惹起を明文で要求する犯罪)。#行為者の法益侵害結果惹起行為を行おうとする行為意思を考慮(主観的違法要素,例:拳銃の引き金を引く意思)。
[山口『刑法総論』3版285頁,47頁L14,参照]

 

☆隔離犯と実行の着手,不能犯
刑法問題5/ 刑法R29予備参照:甲は民間病院内科部長医師,Vと交際。V心臓の特異疾患を甲Vは知っていたが,通常診察で判明し得ないもの。甲は,劇薬入りワインでV殺害を図り,Vのみ居住宅に宅配便で送付。致死量10mlのところ,8mlしか含まれてなかったが,特異疾患あるV摂取なら,死亡の危険あり。V不在で未受領。甲の罪責?

 

☆間接正犯,業務過失致死罪
6/ 刑法R29予備参照:Vは私立大学病院内科医乙に熱中症と診断され,治療方針を相談された内科部長甲が,劇薬Y致死量6mlだが,心臓に特異疾患あるVは3mlでも死亡の危険あることを知りながら,確実を期し6ml,熱中症薬Bと偽り,乙に注射指示。容器に薬剤名なかったが,乙は中身確認せず,3ml注射。V死亡。甲乙の罪責?

 

☆虚偽診断書作成罪・行使罪,証拠隠滅罪,犯人隠避罪
7/ 刑法R29予備参照:民間病院内科医乙は,V死亡後,検査の結果,劇薬Y注射が原因の心臓発作による急性心不全と知った。乙は,内科部長甲に就職時に世話になったので,注射指示した甲に刑事責任が及ばないよう,専ら甲のため,死亡診断書に虚偽死因を記載,署名押印し,Vの母親Dに渡し,Dは,C市役所に提出。乙の罪責?
[平成29年度司法試験予備試験 論文式試験 問題と出題趣旨,参照]

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〇金品の物色と窃盗罪の着手
刑法判例2/ 大判昭9・10・19:窃盗目的をもって家宅に侵入し,#他人の財物に対する事実上の支配を犯すにつき密接な行為をなしたるときは,窃盗に着手したものというべし。ゆえに,窃盗犯人が家宅に侵入して金品物色のためタンスに近寄りたるがごときは,右事実上の支配を犯すにつき密接な行為であり,窃盗罪の着手あり。
[福田・大塚『刑法判例集』4版〔87〕(刑集13-1473)参照。なお,窃盗目的で土蔵に侵入しようとしよとした時に着手ありとされる(名古屋高判昭25・11・14高刑集3-4-748)。]

 

刑法判例5/ 最決昭45・7・28:ダンプカーに引きずり込む行為自体は姦淫に向けられた暴行といえず,姦淫行為との間に相当の時間的・場所的離隔が存在。同種事件の下級審に,強姦手段としての定型性なしとするものもあったが,本決定は,#すでに強姦に至る客観的な危険性が明らかとし,実行の着手を認めた(実質的客観説)。
[『判例ラクティス刑法Ⅰ』〔273〕(刑集24-7-585)参照]

 

上記短文6ヶのまとめ

・未遂犯成立に必要な危険は、既遂犯の構成要件的結果を惹起する現実的・客観的危険(具体的危険)である。すなわち、既遂の具体的危険を結果とする犯罪である。ただし、主観的違法要素として、法益侵害結果惹起行為を行おうとする行為意思(犯行計画も含む)を考慮する必要がある。

・構成要件的行為に「密接な行為」についても、構成要件的結果を惹起する現実的・客観的危険(具体的危険)ありとされる。

判例は、姦淫目的でダンプカーに引きずり込んだ行為(①)について、姦淫行為(②)と相当の時間的・場所的離隔があったが、客観的な危険性が明らかとし、実行の着手を認めている。

 

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〇早すぎた結果の発生――クロロホルム事件
刑法判例1/ 最決平16・3・22:#殺害計画は,①クロロホルムを吸引させ失神させ,②車ごと海中に沈め殺すもので,①は②を確実・容易に行うため必要不可欠,①後,障害となる特段の事情なし,①②間の時間的場所的近接性などに照らすと,#両行為は密接な行為で,①に殺人に至る客観的危険性認められ殺人罪の実行の着手あり。
[『判例ラクティス刑法Ⅰ』〔267〕(刑集58-3-187)参照]


◇早すぎた結果の発生(早すぎた構成要件の実現)
刑法225/ 1103/ 当初の犯行計画で予定され,#密接な関係をもって行為者自身が行う一連一体の行為につき,そのいずれも行わず結果惹起を回避すべき法的要請を強く推し進める立場から,行為開始段階で現実的故意を認め,#当該行為自体に結果惹起意図なきものまで拡張し,いずれかの行為により惹起された結果に,故意犯肯定可。
[山口『刑法総論』3版234頁(最決平16・3・22刑集58-3-187,クロロホルム事件)参照]

 

上記短文2ヶの検討――実際に結果が発生しているが,当初計画した実行行為ではなく,その前段階の行為により結果が発生した場合(早すぎた結果の発生)

 ・計画にもとづく構成要件的行為の前段階の行為(①)についても、構成要件的行為(②,実行行為)を確実・容易に行うために必要不可欠で、時間的場所的近接性などに照らし、密接な行為といえる(接着する)ならば、①の行為にも、構成要件的危険惹起の現実的・客観的危険(具体的危険)ありといえ、実行の着手(刑法43条本文)が認められる。

・この場合、未遂犯ではないが、当初の犯行計画で予定され密接な関係をもって行為者自身が行う一連一体の行為開始段階で現実的故意ありといえる。したがって、それら行為のうちのその行為自体には結果惹起意図がなかった行為についても、故意が認められると解する。

 

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〇危険消滅説
[・中止犯規定(刑法43条ただし書)には、「自己の意思による」中止によって既遂の現実的・客観的危険(具体的危険)が消滅したときに、それによる褒賞として刑の必要的減免という特典を与え、被害法益の救助を図り、それを促進しようとする政策的意義がある。もっとも、自分の行為によって危険を消滅させるという認識(中止の認識)がない場合には、特典に値する行為を行う意思が認められないため、中止犯の特典を与えることはできない。すなわち、褒章に値する心理状態において中止したことが必要である。危険消滅の意思で、それを実現した場合にだけ褒賞・特典として刑の必要的減免が与えられることになるのである(意識的危険消滅説、違法・責任減少説)。]

 刑法総論49/ 691/ 中止犯(刑法43条ただし書)には,「自己の意思により」中止し既遂の現実的・客観的危険(具体的危険)が消滅したとき,褒賞として刑の必要的減免という特典を与え,被害法益を救助しようとする政策的意義あり。もっとも,特典に値する行為を行う意思(中止の認識)が必要(#意識的危険消滅説,違法・責任減少説)。
[山口『刑法総論』3版294頁,295頁参照]

 

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略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)

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