ミニマム法律学

法律書等を読んで,理解し覚えられるように短くまとめて行こうと思っています。ツイッター→https://twitter.com/right_droit YouTube(判例原文の音読)→https://www.youtube.com/channel/UCqVOy5zBmI3GzOI_WF5Dc6Q/featured

弁論主義、裁判上の自白、既判力(客観的範囲など)等(民訴法 , 1/13/2018)

法律に関することを、140字以内にまとめ、可能な範囲で、①法的判断枠組み、②事実の分析・評価に分けています。 twitter.com, http://twpf.jp/right_droit

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[訴訟の審理と進行]
〔裁判資料の収集〕

■弁論主義
民訴法22/ 209/
弁論主義は裁判所と当事者間の作業分担の原理であるし、主張責任は事実が弁論に現れなかった場合に働く不利益だから、事実が弁論に現れている限り、主張責任を負う当事者が主張しようと、相手方が主張しようと、裁判の基礎となる(主張共通の原則)。#相手方の援用しない自己に不利益な事実 も同様。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版120頁参照。なお、同頁注1、R21①も、参照。[法的判断枠組み(法原理の説明)]

民訴法45/ 275/
弁論主義は裁判所と当事者間の作業分担原理であり、いずれか当事者が主張する限り、その事実を認定し裁判の基礎としうる。ある事実(例、使用貸借の事実)につきある局面で主張責任を負う相手方が主張・援用せずとも、他当事者が主張提出すれば、その事実を裁判の基礎としても、#第1原則に反しない。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版120頁、119頁、R21①設問1(ii)②(iii)③(この場合には、建物買取請求権行使の事実。)、参照。[法的判断枠組み(法原理の詳細)。
 主張責任を負う相手方は主張・援用もしていないので、口頭弁論・準備的口頭弁論・弁論準備手続における相手方の主張する自己に不利益な事実の陳述(裁判上の自白)でも、先行自白にもあたらず、証明不要効(179条)、裁判所拘束力(弁論主義第2原則)、当事者拘束力(自己責任と禁反言都を根拠とする)も、いまだ生じていないのだろう。
 だから、相手方が争う場合には(R21①設問1(i)①参照)、証拠調べは必要になるだろう(『民事訴訟判例百選』5版108頁(最判平9・7・17判時1614-72)解説タテ2、従来の通説(兼子一教授)参照)。]

民訴法46/ 278/
不要証なら(#民訴法179条)相手方は証拠調べ準備をやめ争点から除かれる。自白事実と違う事実認定がされ当事者に不意打ちとならないよう、裁判所は、不要証事実をそのまま判決の基礎としなければならない(#弁論主義第2原則)。ただ、#247条との関係で、裁判所拘束力は主要事実に限られる。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』50頁、51頁参照。[法的判断枠組み(制度間の関係)]

 

民訴法23/ 210/
#主要事実 は、権利の発生、変更、消滅という法律効果の判断に直接必要な事実(直接事実)をいう。訴訟物(審判対象)たる一定の権利・法律関係は直接の立証命題たりえないため、権利の発生、変更、消滅という法律効果を発生させる法律要件に該当する、具体的事実(主要事実)の存否を通じ判定する。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版121頁、122頁、57頁、『新問題研究 要件事実』3頁参照。[法的判断枠組み(概念の説明)]

民訴法24/ 211/
所有権に基づく返還請求や所有権確認など所有権訴訟の請求原因たる、原告の係争不動産等の現在(口頭弁論終結時)所有を、被告が否認すれば、原告は自己への #所有権移転経過(来歴経過)を主張立証する必要がある。これは主要事実であり、当事者主張と異なる来歴経過の認定は、弁論主義違反となる。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版126頁、127頁参照。[事実の分析・評価例(所有権訴訟において当事者が主張する所有権移転経過(来歴経過)の事実は、主要事実か間接事実か。現在はこれを主要事実見ることに争いはないということのようであるが、そうすると、要件事実(現在所有)と主要事実とは異なることになるのか?)]


[証拠]
〔事実認定と証拠・証明〕

■裁判上の自白
民訴法3/ 97/
裁判上の自白は、当事者が口頭弁論または弁論準備手続で、相手方が主張する自己に不利益な事実を認める陳述をいう。不利益とは相手方に証明責任がある事実をいう。主要事実に限られる。間接事実、補助事実は証拠と同様の機能を営むため、裁判官の自由心証(#民訴法247条)を害さないよう除かれる。
 『基本から合格答案を即効で書けるようになる本』民事系(平成26年1月)254頁参照。[法的判断枠組み。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系493頁「裁判上の自白の意義」参照。]

民訴法55/ 291/
所有権に基づく建物明渡請求訴訟で、被告が占有権原の抗弁として使用貸借を主張し、原告がその解約告知を主張後、被告が主張を賃貸借に変更した場合、自白の撤回か。
占有権原の抗弁は被告に証明責任のある事実であり、#相手方が証明責任を負う事実ではないので、自白の撤回ではなく、任意に行える。
 藤田『講義 民事訴訟』2版46頁参照。[事実の分析・評価例。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系493頁論点「不利益の意義」参照。]


民訴法41/ 262/
①証明不要効(民訴法179条)。#証明責任を負う相手方が証明負担から開放される。②対裁判所拘束力。裁判所は、#当事者間に争いのない事実はそのまま判決の基礎としなければならない(弁論主義第2原則)。③対当事者拘束力。自白した者は、#自己責任と禁反言により、原則、自白を撤回できない。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版182頁、183頁参照。[法的判断枠組み(裁判上の自白の効力)]

民訴法56/ 292/
裁判上の自白は、証明不要効(民訴法179条)、弁論主義第2原則から裁判所の審判排除効、禁反言および信頼した相手方保護から撤回禁止効を持つ。撤回要件規定はないが、①#相手方同意、②#刑事上罰すべき他人の行為の介在、③#自白の内容が真実に反しかつ自白が錯誤に基づく、場合に認められる。
 藤田『講義 民事訴訟』2版47頁参照。[法的判断枠組み(法律効果、法律要件)。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系494頁論点「自白の撤回の要件」参照。]

民訴法42/ 263/
#自白の撤回 は、①相手方同意ある場合。②自白内容が真実に反し、かつ、錯誤に基づくと立証された場合。不利益な自白ゆえに真実に合致する蓋然性が高いことが審判排除の根拠だが、その基礎が失われ、錯誤ならば、禁反言といえないからである。③刑事上罰すべき他人の行為の介在の場合、に許される。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版183頁参照。[法的判断枠組み(基礎的説明)]

民訴法57/ 293/
撤回禁止効の根拠の、#禁反言を破る要件として錯誤が重要、#相手方の信頼保護を破る要件として反真実が重要である。#反真実が証明されれば錯誤が推定されるので、反真実は錯誤を推認する間接事実であり、理論上では錯誤が上位だが、#現実の機能上は反真実の立証がメイン。錯誤要件の意義は乏しい。
 藤田『講義 民事訴訟』2版47頁(最判昭25・7・11民集4-7-316)参照。[法的判断枠組み(法律効果の根拠と、例外的に効果が消滅する場合の要件についての、根拠からの説明など)。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系493頁効果、494頁論点「自白の撤回の要件③」参照。]

民訴法58/ 294/
自白の撤回に反真実の証明を求めることにより、そもそも相手方に証明責任のあった自白対象事実との関係で、#自白者に立証責任転換という重いサンクションが課されている。また、#本来の立証主題から外れ派生争点の審理対象が拡散し複雑化するのを避け訴訟全体の迅速を阻害しないよう仕組まれている。
 藤田『講義 民事訴訟』2版47頁参照。[法的判断枠組み(法律要件の機能の考察)。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系494頁論点「自白の撤回の要件③」参照。]


民訴法43/ 264/
自白対象は具体的事実に限られ、法規、経験則、法規解釈は対象ではない。権利の発生、変更、消滅の判断に直接必要な、主要事実につき、自己に不利益な事実とは、#相手方が証明責任を負う事実と解する。証明責任の所在と一致しない首尾一貫しない陳述の撤回を認めるべきだし、明確な基準だからである。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版184頁、121頁参照。[法的判断枠組み(下位規範)。原文は、「証明責任の所在と『齟齬し』首尾一貫しない…」となっているが、具体的にどういうことを書いているのか、現時点でまだ理解できていません。とりあえず、記憶に残りやすいように、同じ意味合いの別の言葉で言い換えました。後日の勉強にまわします。]


民訴法49/ 281/
不利益要件は、当事者のどちらが撤回不可かを決める当事者拘束力の場面だけで機能する。#首尾一貫しない陳述、かつ、#証明責任の所在と齟齬し、別に不利益でないものならば、撤回させてよい。裁判所からみれば、不要証効と裁判所拘束力こそが重要で、いずれの当事者に不利益かは関心外だからである。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』59頁、『民事訴訟法講義案』再訂補訂版184頁L19「証明責任の所在と齟齬し首尾一貫しない陳述…」、参照。[法的判断枠組み(どの法律効果との関係で、法律要件が機能するかについての、一考察)]


民訴法44/ 265/
間接事実の自白には、①相手方の証明不要効は認められる。②しかし、#主要事実を推認させる機能の点で証拠と等しく、裁判所の自由心証主義の下、裁判所拘束力は認めるべきではない。裁判官のできるだけ自然で合理的な判断に委ねるべきである。③禁反言・自己責任原則から、当事者拘束力は認められる。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版184頁、185頁参照。[法的判断枠組み(基礎理論)]


民訴法47/ 279/
当事者拘束力は、不要証効(民訴法179条)を前提に相手方の信頼保護、自白当事者の禁反言・自己責任を直接の、司法資源の無駄使いを間接の根拠とし、間接事実や補助事実にも妥当しうる。他方、#裁判所拘束力も間接の根拠なので、247条より、それら事実に当事者拘束力が及ばない場合もありうる。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』56頁、52頁~55頁、51頁「自由心証主義との関係で、」(247条)参照。[法的判断枠組み(裁判上の自白の当事者拘束力が、主要事実に限られる場合がありうることの根拠)]


民訴法48/ 280/
弁論主義は裁判所と当事者間の役割分担の規律で、いずれの当事者の不利益かは考慮事由でない(第2原則)。当事者間に争いない事実ならば、いずれの当事者に不利益だろうとなかろうと、証拠調べをわざわざやる必要はない(民訴法179条)。他方、裁判上の自白は、#自己に不利益な事実要件を要する。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』58頁参照。[法的判断枠組み(弁論主義第2原則と裁判上の自白との要件の違い)]

民訴法50/ 282/
①不要証(#民訴法179条、争点整理)とされた自白事実と異なる認定をされる不意打ち防止のため、②弁論主義が要請され(第2原則、裁判上の自白の裁判所拘束力、審判排除。自由心証主義との関係で主要事実に限定)、①を前提に、禁反言・自己責任に基づき、③不利益陳述の当事者拘束(不可撤回)。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』60頁、61頁参照。[法的判断枠組み(法的効果の関係性の説明)]

民訴法52/ 284/
争点整理手続における自白は、#不要証事実の選別作業の範囲で不要証効のみを認めれば十分。闊達なやり取りを重視し、相手方が裁判上の自白の拘束力を欲するなら、通常の口頭弁論への上程時点(民訴法165条1項・170条5項・177条、規則89条)で、改めて自白としよいかの意思確認をすべき。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』62頁注26参照。[法的判断枠組み]


民訴法51/ 283/
当事者拘束力の、#相手方信頼保護(禁反言・自己責任)のための効果消滅のハードルを乗り越え、審理中撤回されれば、不要証効は消え当該事実は要証事実になる(ただし、民訴法167条・174条・178条、157条参照)。裁判所拘束力は判決段階で機能するので、その時点で争いあれば機能しない。
 勅使河原『読解 民事訴訟法』64頁参照。[法的判断枠組み(法的効果間の連関)]


民訴法6/ 100/
訴訟物の前提をなす先決的権利・法律関係についての権利自白には、①不要証効(#民訴法179条)は認められるが、法律解釈は裁判所の専権なので、弁論主義が妥当せず、原則②裁判所拘束力、③当事者拘束力は認めるべきでない。ただ、日常法律概念には具体的事実の陳述として②③を認めるべきである。
 『工藤北斗の合格論証集』商法・民事訴訟法(平成26年8月)146頁、166、167頁、『民事訴訟法講義案』再訂補訂版186頁参照。[法的判断枠組み]

 

〔物証に関する証拠方法と証拠調べ手続〕
民訴法19/ 証拠/ 174/
文書が証拠方法となりうる資格を証拠能力という。原則、いかなる文書も証拠能力を有する。
文書が、特定人の一定の思想内容を表現した、当人の意思に基づくもの(文書の真正)と認められれば、形式的証拠力あり、その思想内容が係争事実の認定に役立ち得るならば、実質的証拠力ありとされる。#民訴法
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版208、209頁参照。[法的判断枠組み(概念の意義)]

民訴法18/ 148/
処分証書とは、意思表示その他の法律行為を記載した文書。判決書のような公文書のほか、遺言書、売買契約書、手形のような私文書がある。報告文書とは、作成者の経験した事実認識(見聞、判断、感想)を記載した文書。受取証、商業帳簿、調書、戸籍簿・登記簿謄本、日記、診断書などがある。 #民訴法
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版208頁参照。[法的判断枠組み(法律用語説明)]

民訴法16/ 146/
#民訴法228条4項 は、私文書について本人または代理人が、意思に基づき署名または押印した場合、文書全体も同人の意思に基づく真正なものである場合が多い、という経験則を法定したものである。事実認定の際の裁判官の自由心証に対する一応の拘束となる。推定を破るためには反証をすれば足りる。
 『ステップアップ民事事実認定』69、70頁参照。[法的判断枠組み(条文、理論)]

民訴法17/ 147/
文書欄外等に押したいわゆる捨印(すていん)は、当事者の意思としては、どのような文言が付け加えられても構わないという訳ではなく、誤字や誤算等相手方に訂正等を委ねるのが合理的であるような事項に限り、訂正等を委ねた趣旨と解するのが合理的である。訂正箇所の訂正印とは同視できない。#民訴法
 『ステップアップ民事事実認定』71頁参照。[事実の分析(事実を評価して一定の法律要件に当てはまるか否かの前提として必要な、事実的な判断)]

民訴法10/ 115/
文書提出命令の対象文書の所持者が、#民訴法220条4号ハ、197条1項3号により文書提出を拒絶できるのは、職業の秘密が保護に値する場合に限られ、情報の内容、性質、開示により所持人に与える不利益の内容、程度等、当該民事事件の内容、性質、証拠価値の程度等の諸事情を衡量して決せられる。
 最決平20・11・25民集62-10-2507『民事訴訟判例百選』5版〔68〕、判旨(ii)参照。[法的判断枠組み]

民訴法11/ 116/
一般に、金融機関が顧客の財務状況、業務状況等を分析・評価した情報は、開示されれば当該顧客が重大な不利益を被り、金融機関の信頼は損なわれ業務に深刻な影響が及び、以後の業務遂行が困難になるものといえるので、「職業の秘密」(#民訴法220条4号ハ・197条1項3号)にあたると解される。
 最決平20・11・25民集62-10-2507『民事訴訟判例百選』5版〔68〕、判旨(ii)参照。[法的判断枠組み]

民訴法12/ 117/
本件分析評価情報は、再生手続開始決定前の財務状況等に関するので、開示による企業Aの受ける不利益は小さく、メインバンクYの業務への影響は軽微であり、監督官庁の事後的検証に備えた率直で正確な認識の記載も見込め、証拠価値は高く、保護に値する職業の秘密にはあたらない。#民訴法220条4号ハ
 最決平20・11・25民集62-10-2507『民事訴訟判例百選』5版〔68〕、判旨(ii)参照。[法的判断枠組み]

民訴法13/ 118/
作成目的、内容、所持までの経緯などから考え、①専ら内部者の利用目的で作成され、外部者への開示予定なき文書で、②開示されるとプライバシー侵害、自由な意思決定の阻害など、所持者側に看過し難い不利益が生ずるおそれある場合、③特段の事情のない限り、#民訴法220条4号ニ の文書にあたる。
 最決平11・11・12民集53-8-1787『民事訴訟判例百選』5版〔69〕参照。[法的判断枠組み]

民訴法14/ 119/
作成目的、内容等からすると、銀行の貸出稟議書は、銀行内部で融資案件について意思形成を円滑、適切に行うために作成され、忌たんのない評価や意見の記載も予定されている。したがって、上記①外部非開示性、②不利益性が認められ、③特段の事情のない限り、#民訴法220条4号ニ の文書にあたる。
 最決平11・11・12民集53-8-1787『民事訴訟判例百選』5版〔69〕参照。[法的判断枠組み]


[裁判によらない訴訟の完結]
[終局判決]
〔既判力〕
■意義等
民訴法32/ 234/
既判力は、攻撃防御方法が尽くされた後の裁判所の判断内容に終局性を与え、同一紛争の蒸し返しを許さず、法的安定と紛争解決を与える訴訟制度内在の #制度的効力 である。処分権主義・弁論主義の下、請求定立、訴訟資料提出の権限・責任を負う #当事者の手続保障と自己責任 により正当化される。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版275頁参照。[法的判断枠組み(基礎理論)]

民訴法33/ 235/
訴訟物たる権利または法律関係の存否を確定する本案判決は、請求認容(確認、給付、形成)、棄却判決(確認)を問わず、既判力を有する。#訴訟判決 も欠缺するとされた訴訟要件につき、同一当事者、同一請求の後訴に対し既判力が作用する。訴訟指揮などの決定・命令は形成力はあるが、既判力はない。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版275頁、276頁参照。[法的判断枠組み(基礎理論)]

民訴法34/ 236/
①既判力ある判断を争う当事者の申立て、主張・抗弁の排斥を消極的作用の側面、②裁判所がその判断を前提に後訴の審判をすべきことを積極的作用の側面という。民事裁判における私法上の権利・法律関係は、確定後もその後の行為により変更可能であるから、刑事裁判と異なり、#訴権 自体は消滅しない。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版276頁、277頁参照。[法的判断枠組み(基礎理論)
 刑事裁判は、過去に行われた行為に対する刑罰効果の有無の判断であるから、その後の行為によって、その効果が変更されることはないので、裁判が確定した以上、これに対する訴権が消滅する(一事不再理)。]

民訴法35/ 237/
前訴敗訴者が同一訴訟物につき同一人物に後訴提起した場合、当該訴訟物の判断の既判力により、前訴基準時前の事由についての主張が排斥され、基準時後の新主張なければ請求棄却される。新主張あればその当否が判断される。前訴勝訴者が同一請求するとき、後訴は原則、#訴えの利益を欠き、却下される。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版277頁参照。[法的判断枠組み(基礎理論)
 例外的に、たとえば、時効中断のために他に方法がないとか、判決原本が滅失して執行正本を受けられないなどの必要があれば、訴えの利益が認められる。]


■既判力の時的的限界
民訴法28/ 218/
取消権の形成原因は訴求債権に #付着する瑕疵 で、既判力によりすべて洗い去られる(遮断効)。取消しより重大な無効事由の遮断との権衡も要する。相殺権は、訴求債権に付着する瑕疵でなく別個の債権を防御方法として主張するのだから、他の形成権以上に被告の決断の自由を尊重し、遮断が否定される。
 『民事訴訟判例百選』5版〔78〕167頁(最判平成7・12・15民集49-10-3051)参照。[法的判断枠組み(権利の法的性質の検討)。
 既判力の根拠は、権利関係の安定を図る制度的保障と、手続保障(実体法の考慮、ないし、具体的な期待可能性の考慮)である。
 取消権、白地手形補充権は、既判力により遮断される(既判力の遮断効)。
 相殺権、建物買取請求権は、訴求債権に内在(付着)する瑕疵ではなく、前訴の既判力のより遮断されることはない。]

民訴法27/ 217/
#建物買取請求権 は、賃貸人の建物収去土地明渡請求権の発生原因に内在する瑕疵に基づく権利とは別個の制度目的・原因に基づく。その行使により建物所有権が法律上当然に賃貸人に移転し、賃借人の建物収去義務は消滅する。前訴の事実審口頭弁論終結時までに行使せずとも、既判力により遮断されない。
 最判平成7・12・15民集49-10-3051『民事訴訟判例百選』5版〔78〕166頁参照。[法的判断枠組み(権利の法的性質)]

民訴法29/ 219/
前訴基準時までに建物買取請求権を行使せずとも、実体法上権利は消滅しない。#予備的抗弁 の主張も自らの立場を弱めるおそれがあり、訴訟戦略上提出しにくい。建物買取請求は前訴基準時の実体状態を前提に確定判決の法的安定要求を尊重してされるのであり、当然に請求異議事由となる。遮断されない。
 『民事訴訟判例百選』5版〔78〕(最判平成7・12・15民集49-10-3051)167頁右欄タテ4、中西ほか『LEGAL QUEST 民事執行・民事保全法』86頁、参照。[法的判断枠組み(権利の法的性質、遮断効否定の論拠)
 百選の167頁右欄タテ4はちょっと読みにくかった。14行目「立法趣旨からの論拠」は、左欄タテ3、12、13行目のことだろう。タテ4の15行目「反対説」は、中野貞一郎先生の有力説のことだろう(タテ2(2)の反対説…)。]

民訴法30/ 220/
請求異議訴訟(民執法35条1項)で建物買取請求権認容の場合、建物退去土地明渡しの限度を超えては強制執行を許さない旨の判決がされる。#建物代金支払いと引換えに建物明渡しの限度においてしか執行は許さない 旨の宣言も求めうる。別訴の訴求しかできなければ、請求異議の意味がないからである。
 『民事訴訟判例百選』5版〔78〕(最判平成7・12・15民集49-10-3051)167頁タテ5参照。[法的判断枠組み(請求異議訴訟の判決の内容の説明)]

民訴法31/ 221/
請求異議訴訟認容の場合、建物収去土地明渡請求訴訟認容判決の債務名義の執行力は、建物収去を命じる限度で失われるにとどまり、建物退去土地明渡しの範囲でなお維持される。債権者は、建物引渡し土地明渡しの限度で強制執行できる旨の #転換執行文 の付与(民執法26条参照)を求めるべきである。
 『民事訴訟判例百選』5版〔78〕(最判平成7・12・15民集49-10-3051)167頁右欄タテ5、中西ほか『LEGAL QUEST 民事執行・民事保全法』53頁、54頁、参照。[法的判断枠組み(民事執行法上の請求異議訴訟についての判決の効果、執行文付与の手続についての説明)
 上記のような場合に、転換執行文の付与を求めるべきであるとするのは、有力な学説の見解のようである(上記百選167頁タテ5参照、中野貞一郎先生の文献が掲げられているが、現時点で未参照。)。条文上の根拠があるのか、よくわからない。]


■既判力の物的限界(客観的範囲)

●既判力の客観的範囲の意義

[・既判力は #判決主文 に包含されるものについてのみ生ずるのが原則である(民訴法114条1項)。主文には、本案判決の場合、請求の内容である訴訟物たる権利または法律関係の存否についての裁判所の結論的判断部分が表示され、訴訟判決には、訴えが不適法であることにつき判断が示される。もっとも、主文の文言は #簡潔 である上、請求棄却判決では「原告の請求を棄却する。」とのみ、訴え却下判決(訴訟判決)では「本件訴えを却下する。」とのみに止まるため、主文だけでなく判決の #事実 および #理由中の記載 を斟酌して、既判力の範囲を確定する必要がある。]

 

 

●既判力の客観的範囲の根拠

[・既判力の客観的範囲は、確定判決の #主文 に包含されるものに留められている(民訴法114条1項)。

 なぜなら、①当事者が攻撃防御の対象として判決を求めているのは、#訴訟物である権利関係の存否についてだから、その当事者の意思を尊重すると共に、②前提問題である権利関係や事実主張については、#既判力を及ぼすことを正当化するだけの手続保障があるとはいえないからである。

 もっとも、主文中の判断といっても、主文は #簡潔 に表現されているので、いかなる事項について既判力が及ぶかは、#判決理由中の判断 #事実の摘示 も参照する必要がある。これは、判決文の書き方という技術的理由によるものである。]

 

 

民訴法36/ 248/ 原告は訴訟物たる権利・法律関係の存否を求め、前提となる法律関係にまで既判力が及ぶのは予期しない。被告も理由中の判断に既判力が生じると計算し訴訟遂行しなければならない不自由さは望まない。そこで、#既判力を主文のみに限定し、先決問題は結論を導く上で手段的地位を占めるに止められている。

[『民事訴訟法講義案』再訂補訂版28頁、281頁参照。法的判断枠組み(基礎理論)。]

 

民訴法37/ 249/ 既判力の主文への限定は、裁判所にも、当事者の訴訟追行の自由を考慮し実体法の論理的順序に拘泥せず、比較的自由・弾力的、迅速に審判できるメリットがある。売買代金請求訴訟で、契約成立認定せず、弁済の抗弁を認定し請求棄却することもできる。根拠条文は、#民訴法114条2項、145条である。

[『民事訴訟法講義案』再訂補訂版281頁参照。法的判断枠組み(制度の効果、条文根拠)。]

 

 

●例外:相殺の抗弁の判断(民訴法114条2項)

民訴法38/ 250/ 裁判所は、受働債権の存在を認めたときに、相殺の抗弁(#予備的抗弁)を判断すべきである。もし受働債権不存在なら、相殺に供した自働債権が不当に消滅せしめられるからである。

相殺の抗弁認容の場合、訴求債権と対当額部分に限り、既判力が生じ、排斥の場合、自働債権不存在につき既判力が生じる。

[『民事訴訟法講義案』再訂補訂版282頁(一部請求でない場合。自働債権の方が受働債権額を上回る場合には、自働債権の対当額部分に限り既判力が生じる。対当額部分を上回る自働債権の存否については、既判力は生じない。なお、「対当額」という文言については、民法505条1項参照。)、283頁の図(一部請求の場合)も、参照。法的判断枠組み(手続の説明。法的効果の及ぶ範囲)。]

 

 

民訴法1/ 54/ 明示的一部請求の確定判決の既判力は残部に生じないので、相殺の抗弁についての既判力も一部請求の枠外にある自働債権の存否には及ばない。そして、相殺の抗弁により自働債権の存否につき既判力が生じるのは、請求の範囲に対し「相殺をもって対抗した額」だけである(#民訴法 114条2項)。→

[『民事訴訟法講義案』再訂補訂版283頁、最判平6・11・22民集48-7-1355、参照。法的判断枠組み(判例)。]

 

民訴法2/ 55/ →当該債権総額から自働債権額を控除し①債権残存額が一部請求額より少ないときは、当該自働債権による対抗額が存在し相殺により消滅、不存在となったことが既判力により確定される。②残存額が一部請求額より多いときは、対抗額がない程少ない自働債権額だったことが既判力により確定される。#民訴法

[『民事訴訟法講義案』再訂補訂版283頁、最判平6・11・22民集48-7-1355、参照。法的判断枠組み(判例)。]


民訴法40/ 252/
債務と責任(執行の可否・範囲)につき、後者は訴訟物ではないが、訴訟物判断と密接に関連する場合、当事者の主張提出を契機に審判対象に取り込まれることがある。
引換給付判決主文に掲げられる反対債務は、このような密接な関連性なく、強制執行開始要件(#民執法31条)の注意的掲示にすぎない。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版284頁参照。[法的判断枠組み(法概念の説明。手続制度間の違いの説明)]

民訴法54/ 290/
売買契約に基づく目的物引渡請求訴訟の同時履行の抗弁による一部認容は、「被告は、500万円の支払を受けるのと引換えに、原告に対し、別紙物件目録記載の動産を引き渡せ、原告のその余の請求を棄却する」との現在給付判決となる。#執行開始要件(民執法31条)記載により単純執行文が付与される。
 藤田『講義 民事訴訟』2版377頁参照。[法的判断枠組み(判決主文の解説)。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系520頁、521頁論点「引換給付判決…」参照。]


民訴法39/ 251/
給付訴訟で、限定承認の抗弁により、責任が限定された留保付確定判決の訴訟物は、直接には給付請求権の存在・範囲だが、限定承認の存在・効力もこれに準ずるものとして審理判断され、主文に明示されるのだから、#既判力に準ずる効力 が認められる。無留保判決を求める後訴は、前訴既判力に抵触する。
 『民事訴訟法講義案』再訂補訂版283頁、284頁(最判昭49・4・26民集28-3-503)参照。[法的判断枠組み(判例、法解釈)]

民訴法53/ 289/
訴訟物判断以外の、執行方法明示、引換給付、条件、責任限定などは、#主文に明示されることを必要条件とし_請求権の属性_訴訟物に対する審理と当価値的な攻撃防御が尽くされていることを十分条件として既判力に準ずる効力が決せられる。主文への明示による明確性の担保が争点効理論との違いである。
 藤田『講義 民事訴訟』2版379頁、376頁参照。[法的判断枠組み(判決効)。辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系520頁論点「限定承認…」参照。]


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end of the writing

参照:『民事訴訟法講義案』、『新問題研究 要件事実』、藤田『講義 民事訴訟』、『ステップアップ民事事実認定』、『LEGAL QUEST 民事執行・民事保全法』。

会社法/ 設立,株式,資金調達方法,企業の買収・組織再編

法律に関し,140字以内にまとめ,可能な範囲で,①法的判断枠組み,②事実の分析・評価 (例)に分けています。間違い等のご指摘等,よろしくお願い致します。 twitter.com 

http://twpf.jp/right_droit

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目次
〔総論〕

〔設立〕

〔株式〕 ■株式の譲渡・担保化と権利行使の方法 ■特殊な株式保有形態 等

〔機関〕 👉別稿: http://right-droit.hatenablog.com/entry/2018/02/04/194333

〔計算・債権者保護制度〕http://right-droit.hatenablog.com/entry/2018/02/24/231330

〔資金調達方法〕 ■募集株式の発行 ■新株予約権 ■ 社債 

〔組織再編〕 ■ 組織再編の意義 ■ 組織再編の手続 ■ 組織再編の無効の訴え

〔他〕 ■定款変更 ■解散・清算 

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本論
〔総論〕

〔設立〕

設立中の会社の発起人の権限

[・設立中の会社の発起人の権限は何か。発起人の権限内の行為は、設立後の会社に責任が及ぶので、問題となる。

 設立中の会社は、会社の設立を目的とするので、設立に直接必要な行為のみならず、設立のために事実上必要な行為もなしうる。したがって、その発起人の権限も設立に直接および事実上必要な行為に及ぶ。言い換えれば、#発起人の権限は会社設立のために法律上・経済上必要な行為にまで及ぶといえる。

 もっとも、会社設立のために事実上・経済上必要な行為すべてについて発起人の権限を認めてしまうと、設立後の会社の資本の充実・維持を害されるおそれがある。そこで、事実上・経済上必要な行為については、定款に記載がある範囲内でのみ、発起人の権限を認めるべきである(会社法28条参照)。]

 

会社法77/ 設立4/ 429/ 発起人の権限内の行為は,設立後の会社に及ぶ。設立中の会社は,設立を目的とするので,設立に直接必要な行為および事実上必要な行為もなしうる。したがって,発起人の権限も設立に直接・事実(#経済)上必要な行為に及ぶ。しかし,資本充実維持のため,#法律・定款の範囲で権限が認められる(会社法28条参照)。

[『工藤北斗の合格論証集』民法、商法・民事訴訟法21頁以下、会社法判例百選』2版15頁タテ2、参照。法的判断枠組み。]

 

●設立費用

[・定款には設立費用の額として70万円と記載されているのに、発起人が会社のためにAとの間で40万円を支出する契約とBとの間で60万円を支出する契約とを締結しているときの法律関係はどうなるか。

 この場合の法律関係は、行為の時系列によって効果が帰属するか否かが区別される。すなわち、Aとの取引が先に締結されたとすれば、成立後の会社はAには40万円を、Bには30万円を負担する。Bは残額の30万円を発起人等に対して請求するしかない。A、Bのいずれの取引が先になされたかが不明な場合には、A、Bは、債務の額に応じて按分した範囲で会社に請求できる。]

 

会社法75/ 設立2/ 427/ 定款の設立費用額が70万円なのに,発起人が会社のためAへの40万円支払契約,Bへの60万円支払契約を締結しているとき,法律関係如何。#行為の時系列により効果帰属が決まる。A取引が先なら,会社はAに40万円,Bに30万円負担。Bの残額は発起人等の責任。いずれが先か不明なら債務額に応じ按分し会社に請求可。
[『LEGAL QUEST会社法』3版51頁、R29②Q1(1)参照。法的判断枠組み、および事実の分析・評価。]

 

●財産引受けについて 

[・株式会社において、発起人が会社の設立を条件として、成立後の会社のために営業用の財産を譲り受ける行為を、財産引受けという(会社法28条2号)。開業準備行為ともいう。財産の過大評価により資本の充実・維持を害する危険があるので、厳格に規制されている(28条、33条参照)。

 まず、定款に記載されていなければ効力を生じない(28条柱書)。また、原則、検査役の調査(33条1項~6項)、または、価額の相当性につき弁護士等の証明(33条10項3号)を受ける必要がある。]

 

会社法76/ 設立3/ 428/ 発起人が会社設立を条件に,成立後の会社のため営業用財産を譲り受ける行為を,#財産引受け(開業準備行為)という(会社法28条2号)。財産の過大評価で資本充実・維持を害する危険があるので,#定款に記載なければ無効(28条柱書)。また,原則,検査役の調査(33条1項~6項),または弁護士等の証明(33条10項),要。

[有斐閣法律学小事典』4版430頁、304頁、『LEGAL QUEST会社法』3版51頁、R29②Q1(2)参照。法的判断枠組み。]

 

発起人の行為の効果が会社に及ばない場合の発起人の責任 

[・発起人の行為の効果が成立後の会社に及ばない場合、発起人が責任を負う。民法117条1項が類推適用される(改正民法の文言は少し変更されている)。同条項は本来、追認があれば遡って有効となる場合の規定である。本人たる会社がまだ成立していない場合は、同条項の類推適用である。

 また、発起人が明示的に会社成立を条件として開業準備行為をしたにもかかわらず、定款に記載しなかった場合、同117条2項に該当しない。なぜなら、発起人が、当該取引の後に、定款に記載することを怠ったのであり、取引時において相手方が「過失によって知らなかった」(同条項)ときとはいえないからである。したがって、同117条1項の類推適用により、相手方は発起人に、履行または損害賠償請求できる。]

 

会社法78/ 設立5/ 430/ 発起人の行為の効果が成立後の会社に及ばない場合,発起人は,#民法117条1項の類推適用により,責任を負う。発起人が明示的に会社成立を条件として開業準備行為をしたにかかわらず,取引後に,#定款記載を怠った場合,取引時に相手方が「過失によって知らなかった」とはいえないので,同条2項にはあたらない。

[会社法判例百選』2版15頁タテ2、R29②Q1(2)、参照。法的判断枠組み、後半は、29年民事系第2問設問1(2)では問われてはいないが、その事案について自分で考えてみた、事実の分析・評価例。]


商法54/ 会社法54/ 216/ #短答 #会社法。平成21年民事系第37問参照(予備校正答率49%)#設立 肢2,3正解
https://goo.gl/cifr1f
https://goo.gl/2UR3un
https://goo.gl/cmt6nW
https://goo.gl/WtjcZk

   

〔株式〕
■株式と株主 
商法62/ 会社法62/ 256/ 株式会社は社団法人であり、構成員(社員)を株主、社員たる資格(地位)を株式という。出資するか、他の株主から承継取得(個別承継、一般承継)して株主となる。#社員の地位が株式という細分化された割合的単位の形をとり、法律の認める範囲内で内容に一定のヴァリエーションを設けることもできる。
[『LEGAL QUEST会社法』3版65頁、66頁参照。法的判断枠組み(基礎的な説明)。]

 

商法63/ 会社法63/ 257/ 株主が会社から経済的利益を受ける権利を自益権という。①剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号、453条)、②解散・清算後に残余財産の分配を受ける権利(105条1項2号、502条)など。①②を一切与えないとすることはできない(105条2項)。株式会社の #営利性 の現れ。
[『LEGAL QUEST会社法』3版67頁参照。法的判断枠組み(条文および制度の説明)。]

 

商法64/ 会社法64/ 258/ 株主が①会社経営に参与し、②監督是正する権利を共益権という。①#株主総会会社法295条)における #議決権(105条1項3号、308条)、#質問権(314条)、#提案権、#総会招集権など、②各種 #提訴権(828条、831条、847条等)、各種 #書類等の閲覧等請求権 がある。
[『LEGAL QUEST会社法』3版67頁参照。法的判断枠組み(制度の説明)。]

 

商法66/ 会社法66/ 260/ 自益権は単独株主権である(会社法454条3項、504条3項等)。議決権(308条)、代表訴訟の提起権(847条)や差止請求権(210条、360条等)なども同じ。株主総会の招集権(297条)や役員解任の訴えの提起権(854条)などは少数株主権である。#共益権は微妙な政策判断が必要。
[『LEGAL QUEST会社法』3版70頁参照。法的判断枠組み(株主の権利の背景)。]


商法65/ 会社法65/ 259/ 少数株主権を含む株主権も権利の一種である以上、濫用は許されない(民法1条3項)。
総会屋による株主名簿閲覧・謄写請求が、株主としての権利の確保等のためでなく、新聞等の購読料名下の金員の支払の再開、継続目的での #嫌がらせ、あるいは、#報復 と認定され、権利濫用とされた事例がある。
[『LEGAL QUEST会社法』3版71頁参照。法的判断枠組み(法の一般原則)、および、事実の分析・評価例。]


商法67/ 会社法67/ 261/ 株式買取請求権は、①事業譲渡等(会社法469条)、合併、会社分割、株式交換・株式移転(785条、797条、806条)、株式併合(182条の4)、株式譲渡制限(#116条1項1号2号)、全部取得条項を付す(同条項2号)、他(3号)、②単元未満株(#192条以下)の場合に認められる。
[『LEGAL QUEST会社法』3版71頁、72頁参照。法的判断枠組み(制度および条文の確認)。]

 

■株式譲渡自由の原則・制限 

■株式の譲渡・担保化と権利行使の方法
商法29/ 会社法29/ 177/ 株主名簿の名義書換えなければ、株式譲受人は譲渡を会社に対抗できないが(#会社法130条1項2項)、株券占有者は真の権利者と推定され(131条1項)、株券提示により単独で名義書換請求できる(133条2項、施行規則22条2項1号)。その不当拒絶は、違法(831条1項1号参照)である。
[『LEGAL QUEST会社法』3版112、113、106頁参照。法的判断枠組み(条文)、事実の評価例。]

 

■特殊な株式保有形態 

 

■投資単位の調節

●株式の併合、分割

[株式の併合(会社法180条1項)とは、数個の株式をあわせて、より少ない数の株式にすることである。

 株式の分割(183条1項)とは、逆に、株式を分割して、より多い数の株式にすることである。

 どちらも、各株主の保有株式数を一律・按分比例的に減少または増加させるものである。

 

商法31/ 会社法31/ 186/  株式の併合(#会社法180条1項)は、数個の株式を合わせ、より少ない数の株式にすること、株式の分割(183条1項)は、逆に、既発行株式を、それより多い数の株式にすることである。前者には株主総会特別決議を要する。株主の地位を失い、端数の金銭処理に甘んじるべき株主が生ずるからである。

[『LEGAL QUEST会社法』3版125頁参照。法的判断枠組み(条文ないし制度の説明)。]

 

 

●株式の併合の手続

[・株式の併合をするには、株主総会の特別決議により、併合の割合や効力発生日等を定める必要がある(会社法180条2項・309条2項4号)。株主の利害に重大な影響を与えるものだからである。取締役は、当該株主総会で、株式併合を必要とする理由を説明しなければならない(180条4項)。

また、当該株主総会で、効力発生日における発行可能株式総数(113条参照)を定める必要がある(180条2項4号)。公開会社では、効力発生日における発行済株式総数の4倍を超えることができない(同条3項)。たとえば、従前の発行可能株式総数1万株、発行済株式総数3000株の公開会社が、2株を1株に併合する場合、効力発生日の発行済株式総数は1500株となるそのため、発行可能株式総数を、1500株の4倍以下、すなわち、6000株以下に変更する(減少させる)必要がある。既存株主の持株比率の低下の限界を定めるため(既存株主の持株比率維持のため)である。]

 

 

会社法85/ 株式12/ 440/ 株式併合は株主総会特別決議で,#併合割合,効力発生日,発行可能株式総数等の定め要(会社法180条2項・309条2項4号)。株主の利害に重大な影響があるから。取締役は株主総会で,#株式併合を要する理由説明要(180条4項)。公開会社の発行可能株式総数は,効力発生日における発行済株式総数の4倍以下(同条3項)。

[『LEGAL QUEST会社法』3版125頁、126頁、R29②Q2、参照。法的判断枠組み。]

   

●株主の保護

[・株式の併合は株主の利害に重大な影響を与えるため、併合により端数となる株式が単元未満株式に限られるような場合を除き(会社法182条の2第1項)、以下の株主保護手続がとられる。

 ①端数株式の買取請求権(182条の4)。②差止請求権(182条の3)。③事前の情報開示(181条。182条の2、施行規則33条の9)。④事後の情報開示(182条の6、施行規則33条の10)。]

 

会社法86/ 株式13/ 441/ 株式併合は株主の利害に重大な影響を与えるため,①#端数株式買取請求権(会社法182条の4),②#差止請求権(同条の3),③#事前情報開示(181条,182条の2.施行規則33条の9),④#事後情報開示(182条の6,施行規則33条の10)で保護される。併合により端数となる株式が単元未満株式だけの場合を除く(同条の2第1項)。

[『LEGAL QUEST会社法』3版126頁参照。法的判断枠組み(条文、制度)。]

 

●株式無償割当て

商法32/ 会社法32/ 187/ 株式無償割当て(#会社法185条)は、会社が株主の保有株式数に応じて、当該会社の株式を無償で交付するすることである。株式の分割と経済実質を同じくする。ただし、無償割当てでは、発行済株式と異なる種類の株式の割当ても可能である。分割は自己株式にも効力が及ぶが、無償割当てでは及ばない。

[『LEGAL QUEST会社法』3版128頁、129頁参照。法的判断枠組み(制度の解説)。]

 

 

●単元株制度 

商法33/ 会社法33/ 188/ 単元未満株主には議決権がない(#会社法189条1項。188条1項・308条1項ただし書)。株主提案権等、議決権前提の権利もない(303条等)。その他の権利は、残余財産請求権(189条2項5号)や配当請求権(同条項6号、施行規則35条1項7号ニ)等の自益権を除き、定款で排除できる。
[『LEGAL QUEST会社法』3版130頁参照。法的判断枠組み(条文および制度の説明)。株主提案権につき、T19(40イ)参照。]

 

商法34/ 会社法34/ 189/ 単元未満株式を譲渡により取得した場合の株主名簿の名義書換請求権(#会社法133条)は、定款で排除可能であり(施行規則35条1項4号参照)、株券発行会社は単元未満株主に株券を発行しない旨を定款で定めうる(会社法189条3項)。このような定款の定めで、単元未満株式の流通阻止を図れる。
[『LEGAL QUEST会社法』3版130頁参照。法的判断枠組み(条文および制度の説明)。]

 

 〔機関〕👉別稿: http://right-droit.hatenablog.com/entry/2018/02/04/194333

 〔計算・債権者保護制度〕http://right-droit.hatenablog.com/entry/2018/02/24/231330

 

〔資金調達方法〕
■募集株式の発行
商法41/ 会社法41/ 196/
#第三者割当て につき、①既存株主から新株主へのいわば利益移転(経済的価値の希釈化)の調整のため、有利発行規制(199条3項)があり、②既存株主の持株比率調整のため(支配にかかる利益保護)、差止請求権(210条2号)があり、授権資本制度(37条3項、113条3項)が限界を画する。
 『LEGAL QUEST会社法』3版307頁、308頁参照。[法的判断枠組み(制度の説明)]

 

商法42/ 会社法42/ 197/
#募集株式の発行等 は、株式会社が発行する株式の引受人の募集、株式会社の処分する自己株式の引受人の募集の2つの概念を含む(会社法199条1項)。
募集は、株式引受けの申込みの誘引であり、①株主割当て(202条)、②第三者(既存株主含む)割当て、③公募(実際、第三者割当て)をいう。
 『LEGAL QUEST会社法』3版307頁参照。[法的判断枠組み(条文の文言・制度説明)。事実の分析(公募は、わが国では一般に、証券会社が株式の総数を引き受けて投資家に販売している(買取引受け。205条)。)]

 

商法43/ 会社法43/ 198/
会社法199条以下に基づく株式発行の場合を、通常の株式発行という。
一方、①取得請求権付種類株式・取得条項付種類株式の対価として、②株式分割により、③株式無償割当て、新株予約権行使、吸収合併・吸収分割・株式交換に伴う株式発行により、株式数が増加する場合、#特殊の新株発行 という。
 『LEGAL QUEST会社法』3版307頁、308頁参照。[法定判断枠組み(概念の説明)]

商法20/ 会社法20/ 136/
会社法199条3項「特に有利な金額」は公正な発行価額より特に低い価額をいう。公正な発行価額には、価額決定前の株式価格との近接、騰落習性、売買出来高実績、資産・収益・配当・株式市況状況、発行済株式数、発行予定株式数・その消化可能性等を総合し、旧株主利益と資金調達との調和を要する。
 東京地決平16・6・1判時1873-159『会社法判例百選』2版〔24〕参照。[法的判断枠組み(条文の文言の説明。裁判例)]


新株予約権

 

社債

 

〔組織再編〕
■ 組織再編の意義
商法14/ 会社法14/ 37/
キャッシュアウトとは、ある者(買収者)が、株式会社(対象会社)の発行する株式の全部を、株主の個別の同意を得ることなく、金銭を対価として取得することをいう。経営政策上の合理性が認められる場合、差止請求権、株式買取価格の決定制度、情報開示など株主保護の仕組みの下で許容される。#会社法
 『LEGAL QUEST会社法』3版377、378頁参照。

商法45/ 会社法45/ 202/
#組織再編 手段の多様化。合併は、当事会社が合一するので、賃金体系統一の煩、簿外債務承継のリスクがある。平成11年創設の株式交換・株式移転によれば、それを回避できる。平成12年創設の会社分割によれば、事業譲渡と異なり、債権者の承諾を要せず、債務を他の会社に承継させうる利点がある。
 『LEGAL QUEST会社法』3版387参照、383頁参照。[法的判断枠組み(制度比較)]

商法15/ 会社法15/ 38/
承継型組織再編の対価は組織再編契約で自由に決められる(対価柔軟化)。代わりに、株式買取価格は「公正な価格」とされ、消滅会社等の株主が、組織再編による企業価値の増加分(シナジー等)の公平な分配を受けられる。新設型組織再編では、対価は、設立会社の株式の他は、社債等に限られる。#会社法
 『LEGAL QUEST会社法』3版391頁参照。

商法1/ 会社法1/ 9/
事業譲渡(#会社法467条 1項)とは、①一定の事業目的のために組織化され、有機的に一体として機能する財産を譲渡し、これによって、②事業活動を譲受会社に受け継がせ、③譲渡会社が、法律上当然に21条の競業避止義務を負うものをいう。法の解釈の統一性を保つため、21条以下と同様に解する。
 『趣旨規範ハンドブック』6版2民事系335頁参照。[法的判断枠組み]

商法2/ 会社法2 / 10/
「事業の重要な一部の譲渡」(#会社法467条 1項2号)とは、株主の重大な利害に関わる事業再編か否か、量的・質的な側面から判断される。量的基準として、譲渡資産の帳簿価格のほか、売上高、利益、従業員数等を総合的にみて、事業全体の10%を超えていることが必要である。
 『趣旨規範ハンドブック』6版2民事系336頁参照。 [法的判断枠組み]

■ 組織再編の手続 
商法35/ 会社法35/ 190/
組織再編が法令・定款違反の場合に、株主が不利益をうけるおそれあるとき、株主は差止請求できる(#会社法784条の2第1号、796条の2第1号、805条の2。簡易組織再編は除外)。対価が著しく不当な場合も、特別利害関係人の議決権行使(831条1項3号参照)などを理由に差止請求できる。
 『LEGAL QUEST会社法』3版413頁~415頁参照。[法的判断枠組み(条文構造、制度の説明、条文解釈)] R21②設問4(合併の差止請求)、6(株主総会決議取消しの訴え、無効確認の訴え)関連。

商法36/ 会社法36/ 181/
B社株主のA社がB社株主総会で議決権行使し、他の株主に著しく不当な対価で、組織再編が承認された場合、特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議として、決議取消訴訟提起が可能。その認容による法令違反として、#組織再編差止請求訴訟 提起も可能。その双方を本案に仮処分も求めうる。
 『LEGAL QUEST会社法』3版414頁(なお、249頁)参照。[法的判断枠組み(制度の説明)] R21②設問4(合併の差止請求)関連。


■ 組織再編の無効の訴え
商法3/ 会社法3/ 11/
会社法467条 1項違反の行為は、無効である。株主保護のためである。法的地位の早期安定の見地から、当事者双方から無効主張できるのが原則であるが、譲渡後長期間経過してから当事者の一方が無効を主張することは信義則に反し許されない。
 『趣旨規範ハンドブック』6版2民事系336頁参照。 [法的判断枠組み]

商法4/ 会社法4/ 12/
親会社の株主総会特別決議を欠く、子会社株式等の譲渡の私法上の効力は無効である。#会社法467条 1項2号の2・309条2項11号が、特別決議を要求する趣旨は、子会社株式等の譲渡が親会社にとって事業譲渡と同様の影響を与えることに鑑み、親会社株主の利益を保護することにあるからである。
 『趣旨規範ハンドブック』6版2民事系336頁参照。 [法的判断枠組み]

 

●キャッシュ・アウトの効力を争う方法 

 [・株式の併合や、全部取得条項付種類株式の全部取得には、効力を争う特別の訴えの制度はない。

 しかし、これらの行為に重大な法令違反がある場合(たとえば、株主総会決議を欠く場合)、当然に無効となる。

 また、これらに必要な株主総会決議または種類株主総会決議に取消事由(会社法831条1項)がある場合、訴えにより決議が取り消されれば、これらの行為も無効である。キャッシュ・アウト対価の不当性は、原則として価格決定手続(182条の5、172条)で、争われるべきである。もっとも、買収者の議決権行使により著しく不当な対価となった場合は、831条1項3号により決議は取り消しうべきものとなる。]

 

会社法79/ 企業再編19/ 431/ 株式併合,全部取得条項付種類株式の全部取得の効力を争う特別の訴えはない。しかし,#重大な法令違反の場合,当然無効。必要な株主総会決議,種類株主総会決議に #取消事由(会社法831条1項)ある場合,訴えで決議が取り消せば,これらの行為も無効。対価不当性は,原則,#価格決定手続(182条の5,172条)による。

[『LEGAL QUEST会社法』3版380頁参照。法的判断枠組み。]


商法5/ 会社法5/ 13/
株式買取請求権における「公正な価格」(#会社法785条、797条、806条)は、シナジー(合併による相乗効果)が生じない場合には、原則として、吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がなかりせば、その株式が有したであろう価格をいうと解する。最決平23・4・19
 『趣旨規範ハンドブック』6版2民事系339、340頁参照。[法的判断枠組み]

商法6/ 会社法6/ 14/
株式買取請求権における「公正な価格」(#会社法785条 等)は、シナジーが生じる場合には、なかりせば価格に吸収合併等によるシナジーその他の企業価値の増加分を加えた価格とすべきである。株式買取請求権は、企業再編されなかった場合の経済状態の保障、シナジーの分配を保障するものだから。
 『趣旨規範ハンドブック』6版2民事系339、340頁参照。[法的判断枠組み]

商法7/ 会社法7/ 15/
「公正な価格」(#会社法785条、797条、806条)の算定基準日は、株式買取請求をした日である。なぜなら、売買契約と同様の法律効果が発生する時点を基準とすべきと考えるからである。最決平23・4・19
 『趣旨規範ハンドブック』6版2民事系340頁参照。[法的判断枠組み]

商法8/ 会社法8/ 16/
合併契約締結には「重要な財産の処分及び譲受け」(#会社法362条4項 1号)として、取締役会決議が必要だが、代表取締役が株式会社の業務に関し一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有することにかんがみ、取締役会決議なくとも、内部的意思決定を欠くにとどまるものとして、有効である。
 『趣旨規範ハンドブック』6版2民事系341頁参照。[事実の評価例]

商法9/ 会社法9/ 17/
合併比率の不公正も、無効原因とはならない。①合併契約は当事者が互いに有利な条件で締結しようとするものだから、当事者の交渉力等の違いから、若干不公正な合併比率となることはありうるし、②反対株主は株式買取請求権を行使することにより、自己の利益を確保できるからである。#会社法828条
 『趣旨規範ハンドブック』6版2民事系341、342頁参照。[事実の評価例]

商法10/ 会社法10/ 18/
合併承認の総会決議に瑕疵(取消事由)がある場合は、無効原因となる。なぜなら、総会決議が取り消され得る場合、合併が承認決議なしになされという瑕疵は重大であり、株主を保護する必要があるからである。#会社法783条1項、795条1項、804条1項、309条2項12号
 『趣旨規範ハンドブック』6版2民事系342頁参照。[事実の評価例]

商法11/ 会社法11/ 34/
総会決議取消しの訴えと合併無効の訴えとの関係は、合併効力発生前は前者のみ、効力発生後は後者のみ可能となる。合併無効の訴えを設けたのは、法律関係の画一的確定をはかるため、合併無効原因となる各種の瑕疵を独立の訴えとして提起することを排斥する趣旨と考えられるからである。#会社法828条
 『趣旨規範ハンドブック』6版2民事系342頁参照。[法的判断枠組み]

商法12/ 会社法12/ 35/
決議に取消事由があることを合併の無効原因とする場合の出訴期間は、取消訴訟の出訴期間(831条1項)、決議の日から3ヶ月以内とすべきとの見解もある。
しかし、#会社法828条 は無効原因を限定していないのであるから、合併無効原因の訴えの出訴期間通り、制限はないと解すべきである。
 『趣旨規範ハンドブック』6版2民事系342頁参照。[法的判断枠組み]

商法13/ 会社法13/ 36/
会社法782条1項、794条1項、803条1項、施行規則183条6号、192条7号、205条7号で、事前開示事項は「債務の履行に関する事項」と改められており、会社分割の法的安定を図るため、債務の履行の見込みがないことは、会社分割の無効原因とはしない旨改められたものと解する。
 辰巳『趣旨・規範ハンドブック2民事系』6版345頁、『LEGAL QUEST会社法』3版420頁、参照。[法的判断枠組み(条文の解釈)]

 

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参照:辰巳『趣旨・規範ハンドブック2民事系』、『LEGAL QUEST会社法』、『会社法判例百選』、『合格答案を即効で書けるようになる本 ②民事系』、 『事例で考える会社法』初版。

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End of the writing

140字刑法学 (総論)

 刑法総論に関する文章を140字以内にまとめ、可能な範囲で①法的判断枠組み、②事実の分析・評価に分けています。 twitter.com; http://twpf.jp/right_droit 

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目次
Ⅰ[序論]

Ⅱ[違法性(違法)に関するもの]
1. 〔構成要件〕 ■行為 ●間接正犯 
2. 〔違法性阻却事由〕 ■正当防衛

Ⅲ[有責性(責任)に関するもの]
1. 〔責任要件〕 ■故意 ■過失
2. 〔責任阻却事由〕 ■ 違法の意識  ■責任能力

Ⅳ[処罰拡張事由]
1. 〔未遂〕
2. 〔共犯〕 ■共犯の基礎理論 ■共犯の錯誤 ■片面的共犯 ■ 共犯関係からの離脱 
Ⅴ[罪数]
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本論
[序論]
[・犯罪とは、構成要件に該当し違法で有責な行為である。]

[違法性(違法)に関する要件]
〔 構成要件〕
■行為
●間接正犯
刑法21/ 総論17/ 296/
被害者の自宅に宅配便で毒入り饅頭を送り、知らない被害者に食べさせて殺害する場合など、行為者の行為後に結果を直接惹起する他人の行為が介入するにもかかわらず、行為者が結果を自ら惹起したと見うるときがある(#間接正犯)。直接正犯とは事実上の違い。非身分者に身分犯の間接正犯は成立しない。
 山口『刑法総論』3版44頁参照。[事実の分析]

刑法22/ 総論18/ 297/
正犯として構成要件的結果を惹起したと認めるためには、#構成要件的結果惹起の原因を支配したといいうること(#正犯性)が必要である。正犯性は基本的に、構成要件的結果についての十分な認識・予見をもちつつそれを直接惹起した者に認められる。#正犯性の認められる行為者の行為を実行行為という。
 山口『刑法総論』3版68頁参照。[法的判断枠組み(法的概念などについての基礎理論)]

刑法23/ 総論19/ 298/
行為者の行為後、因果過程に介在する #他人の結果惹起に対する答責性(自律性)が、その他人の結果惹起行為への行為者の支配の限界を画する。そして、被害者の行為の介入、それと均衡する第三者の行為の介入事例解決のため、#故意行為の介入の有無(遡及禁止原則)が正犯性判断の重要な基準となる。
 山口『刑法総論』3版69頁、68頁参照。[法的判断枠組み(基礎理論)]

刑法24/ 総論20/ 299/
構成要件要素たる身分や目的のない第三者の行為により構成要件的結果を生じさせた場合、第三者の行為に構成要件該当性は肯定できない。しかし、#背後者に直接正犯が成立し第三者に共同正犯ないし幇助が成立しうるので、身分なき故意ある道具・目的なき故意ある道具を利用する間接正犯とすべきでない。
 山口『刑法総論』3版73頁参照。[法的判断枠組み(基礎理論)] R21①参照、80万円の横領につき、背後者甲が直接正犯、占有という身分のない乙に幇助犯が成立しうる(?)。


〔 違法性阻却事由〕 ■正当防衛
■正当防衛

刑法47/ 総論27/ 363/
急迫性要件は,予期された侵害の回避義務を課す趣旨ではないから、ほとんど確実に侵害が予期されたとしても、ただちに侵害の急迫性は失われない。しかし、単に予期された侵害を避けなかったにとどまらず、#その機会を利用し積極的に相手に加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、急迫性要件を欠く。
 最判昭52・7・21刑集31-4-747(『判例プラクティス刑法Ⅰ』〔188〕204頁)参照。[法的判断枠組み(判例)]

刑法48/ 総論28/ 364/
予期した侵害を回避・退避しないだけでなく、その機会を利用し積極的に相手に加害行為をするため、侵害に臨み、相手に攻撃を加える場合、実質は単に相手を侵害する場合と同視可。その反撃行為には、#緊急行為性(侵害からの保護を求める余裕がない状況での行為)がないので、侵害の急迫性が失われる。
 山口『刑法総論』3版126頁(最判平52・7・21刑集31-4-747)参照。[法的判断枠組み(理論的説明)]

 

刑法総論32/ 418/ 侵害の予期だけでは侵害の急迫性は失われないが,その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思(#積極的加害意思)で侵害に臨んだ場合,予期された侵害に対する反撃行為に,侵害からの保護を求める余裕がない状況でなされる行為(緊急行為)としての性格が失われる(侵害の急迫性要件みたさない)。

[山口『刑法総論』3版126頁(最判平52・7・21刑集31-4-747)参照。やっぱりこういう場合の事実をどう分析・評価するかという記述といえる(訂正)。]]

 

刑法46/ 総論26/ 362/
Xが自動車のダッシュボード内に本件刃物を入れておいたことは不法な刃物の携帯(#侵害発生以前からの不法な携帯)にあたり、それを護身用にポケットに移し替え携帯したとしても、不法な刃物の携帯の一部と評価できるので、検察官が本件刃物を現認した時点でのXの携帯行為には、違法性阻却余地なし。
 『判例プラクティス刑法Ⅰ』205頁〔189〕(最判平17・11・8刑集59-9-1449)、銃砲刀剣類所持等取締法2条2項、3条1項等、参照。[事実の分析・評価]


刑法49/ 総論29/ 365/
#喧嘩闘争は全般的に観察することを要し、闘争行為中の瞬間的な部分の攻防の態様により事を判断してはならないが、#喧嘩闘争においてもなお正当防衛成立の余地がある。
原審は、闘争全般を観察しなかったか、喧嘩闘争には常に全く正当防衛の観念を容れる余地がないとの前提に立ったかの点で、不当。
 最判昭32・1・22刑集11-1-31(『判例プラクティス刑法Ⅰ』〔191〕207頁)参照。[法的判断枠組み(判例)]

刑法50/ 総論30/ 366/
①侵害の予期があっても侵害の急迫性は直ちに失われないが、#積極的加害意思ある場合は急迫性が失われ、正当防衛は否定される。②憤激・逆上し、攻撃の意思が存在しても、防衛の意思は必ずしも否定されないが、積極的加害行為と認められ、#もっぱら攻撃意思で反撃が行われる場合、それは否定される。
 山口『刑法総論』3版134頁参照。[法的判断枠組み(判例)]

刑法51/ 総論31/ 367/
Aの暴行脅迫とXの刺突行為の時間的接着。Aの暴行脅迫意思放棄を思わせる行動も認められない。Xは64歳、身長168cm、体重67kgなのに対し、Aは44歳、身長178cm、体重87kgのがっしりとした体格、脱出にはAの横を通るしかない等を考え合わせると、#侵害の急迫性は失われない。
阪高判平16・7・23高刑速(平16)154頁(『判例プラクティス刑法Ⅰ』〔196〕212頁)参照。[事実の分析・評価例]

 

● 自招侵害

刑法総論33/ 419/ ①不正な暴行による侵害招致,②侵害は暴行直後に近接場所で行われた一連一体の事態,③侵害がそれを招致した暴行の程度を大きく超えない場合,正当防衛ができる状況(#緊急行為性)なく,正当防衛否定。ただし,暴行でなく,言葉による挑発の場合や,侵害程度が被告人による暴行の程度を大きく越える場合除く。

[山口『刑法総論』3版127頁、128頁(最決平20・5・20刑集62-6-1786)参照。事実の分析・評価。]

 


[有責性(責任)に関する要件]
〔責任要件〕 ■故意 ■過失 
■ 故意

刑法3/ 総論1/ 68/
故意とは「罪を犯す意思」(#刑法38条1項)すなわち犯罪事実の認識をいう。犯罪事実とは行為の違法性を基礎づける事実である。違法性を基礎づける点で構成要件が原則、違法性阻却事由が例外であり、故意があるというためには、構成要件該当事実、違法性阻却事由の不存在の双方の認識が必要である。
 平野『刑法概説』75、78頁参照。

 

刑法13/ 各論9/ 153/
「罪を犯す意思」(#刑法38条1項、故意)は、故意犯の構成要件(構成要件的故意)かつ責任要件である。犯罪事実の表象・認容が認められれば、構成要件該当性・有責性が基礎づけられ、犯罪事実の表象・認容を欠けば、構成要件該当性そのものが阻却される。期待可能性がなければ、責任が阻却される。
 団藤『刑法綱要総論』290、291頁参照。[法的判断枠組み(理論・体系的説明)。故意(mens rea)=TB(構成要件)・S(責任)。If there is no mens rea, then there is no TB. If there is no 期待可能性, then there is no S.
 そもそも故意は、責任(S)の領域の問題である。しかし、小野博士(団藤綱要134頁参照)・団藤教授は、故意は構成要件かつ責任要件(責任要素)であるとする。もっとも構成要件としての故意は、それを主観的・客観的な全体として考察した『違法類型』としての『客観的構成要件要素』と見ているようである(同頁参照)。さらに、この構成要件的故意(構成要件としての故意)は、責任要素の定型化としての意味も持ち、『有責類型』でもあるとされる(同書136~138頁参照)。]

 

刑法9/ 総論6/ 125/
母と妻からこもごも小言を言われ酒癖の悪いXは憤懣やる方なく、囲炉裏の反対側の両人めがけ憤激の余り本件鈎吊し(かぎつるし)を振りつけ、母Bの前頭部にあてたものである。Xは両人のいずれかにあたることを認識しながらこれを振ったのであり、その暴行はいわゆる択一的故意によるといえる。#刑法
 東京高判昭35・12・24下刑集2-11・12-1365『判例プラクティス』刑法Ⅰ総論〔90〕参照。[事実の評価例]

刑法10/ 総論7/ 126/
パーティー会場でABに一緒に出されるグラスの一方だけ致死量の毒薬を混入するような、いわゆる択一的殺意ある場合、1個の故意(殺意)で複数の故意犯(既遂犯と未遂犯)成立を肯定できる。既遂の可能性で足りる未遂概念の特性による。併存しうるのは未遂犯に限られ、未遂罪二罪も成立しうる。#刑法
 山口『刑法総論』2版211頁参照。[法的判断枠組み(理論的説明)]

 刑法総論/ 故意 (故意の認識対象・認識内容; 確定的故意, 認識のある過失との境など) - right_droitのブログ

 

●事実の錯誤
◆構成要件該当事実の錯誤

◆違法性阻却事由の錯誤
刑法14/ 総論10/ 183/
Xは急迫性を錯覚し、自己の生命身体を守るため、やむなく傷害に及んでおり、急迫不正の侵害がないのにあるものと誤信し、その錯誤に過失は認められない。したがって、錯誤により犯罪の消極的構成要件(違法性阻却事由)たる正当防衛を認識したもので、犯罪事実の認識を欠き、#故意 は認められない。
 広島高判昭35・6・9高刑集13-5-399『判例プラクティス』Ⅰ総論〔222〕参照。[事実の評価例(誤想防衛)。なお、山口『刑法総論』2版195頁L4①参照。]

 

刑法16/ 総論12/ 185/
急迫不正の侵害が存在し、過剰な防衛行為があるときに、①過剰性の認識・予見なければ、違法性阻却事由不存在の認識なく、故意が認められず(誤想防衛)、犯罪不成立。②その場合に、過剰性の認識・予見可能性あれば、過失犯(過失の #過剰防衛)。③過剰性の認識・予見あれば故意の過剰防衛である。
 山口『刑法総論』2版196頁参照。[法的判断枠組み。
 山口教授のいう過失の過剰防衛は、単なる過失犯とも思えるが、36条2項が適用されうるということだろうか?ただし、山口197頁の誤想過剰防衛において、過失犯が成立した場合の取扱いと同じく、刑の免除はできないと解すべきできではないだろうか?]

刑法15/ 総論11/ 184/
急迫不正の侵害がないのにあると誤信し、それに対する対抗行為が、誤想した侵害が実際に存在するとした場合の許容範囲を超えていたとき、如何。行為者に過剰性の認識・予見があれば、故意の #誤想過剰防衛 となる。なければ、故意はないが、その認識・予見可能性あれば、過失の誤想過剰防衛となる。
 山口『刑法総論』2版196頁参照。[法的判断枠組み。
1. なお、故意の誤想過剰防衛も、過失の誤想過剰防衛も、故意犯に対する刑法36条2項による刑の減免の余地の問題である。
2. これに対して、急迫不正の侵害を誤想したことについてそもそも過失がある場合には、過失犯の成否の問題である。
 その場合には、すでに過失犯が成立しているので、過剰性について認識・予見がある場合に(故意の過剰防衛?)、違法な過剰防衛となる事実について、その限度での故意犯に相当する部分に対し、36条2項を適用するとしても、すでに成立している過失犯の刑よりも軽く処断することはできないと解する。
 具体的には、刑の免除はできない(山口197頁参照)。
3. 以上、自分なりに、山口教授の説明を敷衍しようと試みたが、成功しているかどうかわからない。]


■過失
刑法11/ 総論8/ 127/
過失犯成立には、構成要件たる因果関係の認識・予見可能性を要する。行為者に認識・予見可能だった因果経過と実際の因果経過とが違っても、構成要件としての因果関係存在の点で両者が符合し、かつ、結果の具体的予見(予見の具体性)を担保しうる因果経過の基本的部分の予見可能性があればよい。#刑法
 山口『刑法総論』2版235・236頁参照。[法的判断枠組み(理論的説明)。札幌高判昭51・3・18高刑集29-1-78(北大電気メス事件)の言い回しと、山口教授の説明とをなんとか組み合わせた。
 正直に書くと、北大電気メス事件の「因果関係の基本的部分」という言い回しが、故意の錯誤論の裏返しだ(と思う。私の理解がまだ足りていないかもしれませんが)ということに、上記の文章まとめていて気が付きました。それまでは、単なる暗記にすぎませんでした。]
 刑法T29(11ウ)参照。


〔責任阻却事由〕
■ 違法の意識
刑法4/ 総論/ 69/
故意が認められれば、通常は違法の意識に達していたと考えられるので、自己の行為の違法を意識してなくとも、故意犯としての責任を問われる(#刑法38条3項本文)。ただ、違法の意識に達しないことに相当な理由がある、違法の意識の可能性すらない場合、責任が阻却され刑が減軽される(ただし書)。
 平野『刑法概説』92頁参照。[法的判断枠組み。いわゆる制限責任説。
 最大判昭44・6・25刑集23-7-975(夕刊和歌山事件)は、このような場合には、「犯罪の故意がな」いとするが、故意が認められた上での、情状に関することであるから、表現としては妥当でない。
 判例は厳密な意味で「故意がな」いと書いているのではない、いわゆる(制限)故意説(平野・概説94頁説明参照)をとったものではないと考える。
 大越『刑法各論』3版89頁説明(判例=制限故意説?)参照。]

 

■ 期待可能性

 

責任能力

責任能力

刑法総論36/ 責任10/ 504/ 責任能力は,刑法39条,41条に規定がある。#罰しない場合が責任無能力_刑の減軽の場合が限定責任能力。責任無能力者は非難できない。#責任能力は犯罪行為時に要。責任能力は責任の要素。責任要件としての故意・過失の認定後,責任阻却事由として責任無能力が問題となる。,#個々の行為について問題となる。
[平野『刑法概説』100頁-101頁参照。法的判断枠組み(基礎理論)]

 


[処罰拡張事由]
〔未遂〕
[・実行の着手(43条本文)とは、#構成要件の要素をなす行為あるいはこれに接着する行為で、#結果発生の切迫した危険のある行為 をいう。未遂処罰の実質的理由は、このような #結果発生の危険発生の防止 をも含むと考えるからである。]

 

〔共犯〕 ■共犯の基礎理論 ■共犯の錯誤 ■片面的共犯 ■ 共犯関係からの離脱 
■共犯の基礎理論
刑法20/ 総論15/ 247/ 他の共犯者の行為に加担し、他人の行為を通じ、法益侵害結果発生に心理的・物理的因果性を及ぼしたことが共犯処罰根拠である。共犯も間接的にせよ、自ら因果的に引き起こした事態に、その限度でのみ責任を負う(個人責任原理)。ここにいう因果性は #促進的因果関係 で足り、条件関係までは不必要。
[『判例プラクティス刑法Ⅰ総論』〔374〕(東京高判昭25・9・14高刑集3-3-407)395頁参照。法的判断枠組み(基礎理論)。]

 

刑法総論35/ 共犯13/ 488/ 共犯行為の危険性は,#実行行為を惹起・促進する客観的危険性である必要あり。正犯がそれを実行行為に利用する可能性が考えられないではないという程度では足りない

#犯行の具体的契機の存在や_一般的可能性を超える具体的侵害利用状況がなければ,客観的危険性は認められない(中立的行為による幇助)。

[山口『刑法総論』3版321頁-322頁(最判平23・12・19刑集65-9-1380(Winny事件)。前半,法的判断枠組み。後半,事実の分析・評価例。)]


■共犯の錯誤
刑法総論25/ 313/
教唆、幇助、共同正犯、単独正犯(間接正犯)は、構成要件該当事実の異なった惹起形態にすぎないので、これらの間で実質的に軽い惹起形態の限度で実質的符合を認め、その限りで、#客観的に実現された事実と認識・予見されていた事実の共通部分につき、犯罪の成立を肯定できる(#関与形態間の錯誤)。
 山口『刑法総論』3版364頁参照。[法的判断枠組み(基礎理論)]

刑法総論24/ 312/
①教唆の意思で幇助となった場合、幇助(共通部分)成立。②幇助の意思で教唆となった場合も幇助成立。③間接正犯の意思で教唆となった場合、教唆成立。④教唆の意思で間接正犯となった場合も教唆成立。なお、③の場合、被利用者が気づかずに実行する可能性があるので、#間接正犯の未遂も成立しうる。
 山口『刑法総論』3版365頁参照。[事実の分析・評価例]


■片面的共犯 (判例、山口教授などは否定。大越教授は肯定。その違いは、#意思の連絡 をどう考えるかにある。)
刑法27/ 総論21/ 302/
幇助の因果関係は正犯行為を介す必要があるが(因果共犯論・惹起説)、正犯の心理を介さず正犯行為を物理的に促進し結果との因果関係を生じうるので、#片面的幇助は肯定。しかし、共同正犯は構成要件該当事実の共同惹起だから、その共同性の担保のため意思連絡が必要なので、#片面的共同正犯は否定。
 山口『刑法総論』3版366頁(大判大14・1・22刑集3-921、大判昭3・3・9刑集7-172、東京地判昭63・7・27判時1300-153など。大判大11・2・25刑集1-79など)、367頁参照。[法的判断枠組み(判例)]

刑法28/ 総論22/ 303/
片面的共犯は、意思疎通なく、共同加功意思ある者が、他者の犯罪行為への一方的関与である。意思疎通ある典型的共犯と、意思疎通なく単に正犯が競合する同時犯との中間。片面的共同正犯否定、片面的幇助犯肯定。#共同者間の意思疎通こそが共同正犯に特有の一部実行の全部責任を基礎づけるからである。
 大越『刑法総論』4版194頁参照。[法的判断枠組み(判例。責任共犯説)]

刑法29/ 総論23/ 304/
人食い虎のいる部屋に人を押し込め被害者が食い殺されたら、押し込めた者に殺人罪が成立するが、殺人者Aが待つ部屋に押し込め、Aにより殺された場合、押し込めた者に殺人罪(間接正犯)不成立。#自律性・当責性を備えたAに殺意ある限りAの行為を介し死亡結果惹起を支配したといえないからである。
 山口『刑法総論』3版367頁、368頁参照。[事実の分析・評価例]

[・片面的共犯とは、意思の疎通なく、共同加功の意思を有する者が、他者の犯罪行為に、一方的に関与する場合である。意思疎通のある通常の共犯と、単に正犯が競合しているにすぎない同時犯との中間の概念である。
 判例は、片面的従犯は肯定するものの、片面的共同正犯は否定する。意思疎通こそが、共同正犯の一部実行全部責任を基礎づけると考えるからであろう。
 しかし、共同正犯の全部責任は、因果関係に基づくものと解され(惹起説)。犯罪結果惹起の態様はさまざまで、相手の心理を通じて行う方法、相手の行為・結果に直接働きかける物理的な方法によっても、共同正犯たりうるといえ、犯罪結果惹起に共同者間の意思疎通は必然ではない。(疑問:物理的な方法による共同惹起がありうるのか?やはり、共同性を担保するためとする山口説がすんなり来るように思う。)
 したがって、たとえば、甲が暴行をもちいて乙女を強姦しつつあるときに、共に犯罪を犯す意思で、甲の気づかない間に乙女の足を押さえていた丙に、強姦罪の片面的な共同正犯(60条)が成立すると解する。(この場合、甲も共同正犯かとの疑問ももったが、片面的というのは、その名前の通り、片面的に一方の共犯にしか生じないものといえる。)]

 


■共犯関係からの離脱
刑法5/ 総論/ 70/
共犯関係からの実行の着手前(#刑法43条本文)の離脱者には、予備罪を除き、刑事責任は生じない。実行着手前に①翻意して離脱の意思を表明し②それを他の共謀者が了承することが必要である。ただ、共謀者団の頭である者については、共謀がなかった状態に復元しなければ、離脱を認めるべきではない。
 山口『刑法総論』2版 352、353頁参照。
[Q:住居侵入窃盗の共謀の下、住居侵入後窃盗着手前に①・②を満たした場合は?
A:リプライ有難うございます😂
 130条前段の構成要件を検討しみたしていれば、住居侵入罪(共犯)のみが成立しうる。235条の実行の着手(犯罪実現の現実的危険性ある行為、具体的には物色等)前なので、①②をみたせば、離脱者は窃盗罪の未遂も既遂も責任を負わない。窃盗の予備罪もないからである。
 いわゆる組織的犯罪処罰法違反(6条の2第1項2号・別表第三2号ネ参照)除く。]

刑法17/ 総論13/ 244/
被告人は、見張り役が住居内の共犯者に電話で「先に帰る」などど #一方的に伝えた のを認識していただけで、犯行防止措置をとることなく、見張り役らと共に離脱したにすぎず、たとえ、強盗着手前であり、残された共犯者らが被告人の離脱を了知していても、当初共謀が解消したということはできない。
 最決平21・6・30刑集63-5-475、平成21年度『重要判例解説』〔刑法3〕179頁参照。[事実の評価例]

刑法18/ 総論13/ 245/
共犯処罰根拠は因果的惹起にあるから、自らそれまでの因果的寄与を撤回し犯罪結果との因果性を遮断すれば、共犯処罰根拠を欠き離脱以降に生じた犯罪事実の責任を負わない。実行着手前に離脱の意思を表明し、他の関与者の #了承 があれば、共同正犯関係は解消する。ただし、一方的通告では足りない。
 平成21年度『重要判例解説』〔刑法3〕179頁、180頁(最決平21・6・30刑集63-5-475)参照。[法的判断枠組み。
 葛原力三先生は、「継続者の了承は離脱者の因果的寄与とは関係しない」と書かれているが、納得して了承すれば、認識(了知)以上に、心理的影響力(心理的因果性)を除去できるのではないのかな?
 私の理解が足りていないだけなんでしょうね?
 他の関与者の了承があれば、共同正犯関係の解消を認める一連の裁判例があるようですので、とりあえず、因果性遮断論(因果的共犯論)と、了承とを組み合わせて書いても、あながち間違いではないのだろうと思います。]

刑法19/ 総論14/ 246/
いったん犯罪遂行を共謀しても、着手前に他の共謀者に実行中止を明示し他の者が #了承 し、犯罪を実行した場合、前共謀は全くなかったものと評価でき、他の共犯者の実行した犯罪の責を分担すべきでない。
Xは自発的に犯意放棄し他の共謀者に明示しており、他3名が了承し窃盗に及んだのは明らか。
 東京高判昭25・9・14高刑集3-3-407『判例プラクティス刑法Ⅰ総論』〔374〕395頁参照。[法的判断枠組み+事実の分析・評価例]


刑法6/ 総論/ 71/
共犯関係からの、実行の着手後(#刑法43条本文)既遂前の離脱の要件は、①離脱意思の表明、②他の共謀者の了承、③他の共謀者が現に行っている実行行為を中止させ、以後は自己を含め他の共謀者の誰もが当初の共謀に基づく実行行為を継続することのない状態の作出である。未遂の限度で共犯となる。
 山口『刑法総論』2版 352~355頁、最決昭元・6・26刑集43-6-567、R19①、参照。


[罪数]
刑法8/ 総論5/ 104/
「1個の行為」(#刑法54条1項前段)とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が、社会的見解上1個のものとの評価を受ける場合をいう。公務執行妨害罪と傷害罪、収賄罪と盗品等無償譲受け罪などである。複数罪の内、最も重い刑(の罪)により処断する。
 ⇒複数の罪の内、最も重い刑を定めた罪の、その法定刑により処断する。
 辰巳『趣旨・規範ハンドブック』5版刑事系77頁、山口『刑法総論』2版379頁、参照。[法的判断枠組み(判例)、最大判昭49・5・29刑集28-4-114参照]

The end of the list
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参照:辰巳『趣旨・規範ハンドブック』。『判例プラクティス』、『判例百選』、『重要判例解説』。LEX/DB。『基本から合格答案を即効で書けるようになる本』刑事系。『工藤北斗の合格論証集』。受験新報。
 山口『刑法総論』『刑法各論』、平野『刑法概説』、西田『刑法各論』、団藤『刑法綱要総論』、大越『刑法総論』有斐閣Sシリーズ。等

 

 

強盗,詐欺,恐喝,盗品等罪,文書偽造罪,等 (刑法各論, 2/19/2018)

法律に関し,140字内にまとめ( @right_droit , http://twpf.jp/right_droit)、可能な範囲で,①法的判断枠組み,②事実の分析・評価(例)に分けています。間違い等ありました、ご指摘お願い致します。


〔財産に対する罪〕
■ 強盗罪
刑法1/ 各論1/ 60/ 強盗罪(#刑法236条)の手段たる「暴行」「脅迫」にあたるか否かは、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものかという客観的基準により決定される。その際、暴行・脅迫の態様、犯人の性別・年齢・体格、人数、意図、被害者の性別・年齢、人数、犯行の時刻・場所などが考慮される。
[『趣旨・規範ハンドブック』5版3刑事系116頁、最判昭24・2・8刑集3-2-75、R28①、参照。]

刑法12/ 各論4/ 139/ 強盗利得罪(#刑法236条2項)では、相手方は反抗を抑圧されており、任意に基づく処分行為介入の余地がないので、債務免除、支払猶予といった処分行為を要しない。ただ、処罰範囲限定のため、財物移転と同視できる、事実上支払いを免れたなどの、財産的利益移転の具体性・確実性を要すると解する。
[西田典之『刑法各論』5版171頁、最判昭32・9・13刑集11-9-2263、参照。法的判断枠組み、判例+西田説。]

 

■詐欺罪

刑法各論23/ 309/ 拾得・窃取したキャッシュカードを使用し現金自動支払機で、#振替送金したときなど、電子計算機使用詐欺罪(刑法246条2)が処罰する。①財産権得喪・変更に係る不実の電磁的記録の作成、②財産権得喪・変更に係る虚偽の電磁的記録の供用により、財産上不法の利益を得たとき等に限り処罰する。

[山口『刑法各論』2版274頁参照。法的判断枠組み(条文)。R21①参照。]

 

刑法各論24/ 310/ 財産権得喪・変更に係る電磁的記録(刑法246条の2)は、作出・更新により、#直接_事実上_当該財産権得喪・変更を生じるもの。銀行の顧客元帳ファイルの預金残高記録、カードの残度数など。カードの磁気ストライプ部分中の記録や不動産登記ファイルなどは一定事実証明のもので、あたらない。

[山口『刑法各論』2版275頁参照。法的判断枠組み。事実の分析・評価例。]


■ 恐喝罪
刑法2/ 各論2/ 67/ 自力救済禁止の要請から、権利の実行が権利の範囲内をこえ、かつ、その方法が社会通念上一般に認容すべきものと認められる程度範囲を逸脱するときは、行為全体が違法となる。
したがって、債権3万円なのに、6万円喝取した行為につき、6万円全額について恐喝罪(#刑法249条1項)が成立する。
[・山口『刑法各論』2版285、286頁、最判昭30・10・14刑集9-11-2173、参照。]

 

■ 横領罪👉別稿 http://right-droit.hatenablog.com/entry/2018/02/19/175721

 

■盗品等関与罪

●保護法益、罪質

[・盗品等関与罪の保護法益は、前提の犯罪である財産犯の被害者が被害物に対して有する回復請求権(#追求権)であると解する。

 もっとも、盗品等運搬罪、保管罪、有償譲受け罪、有償処分あっせん罪(刑法256条2項)の法定刑が窃盗罪などより重いのは、単なる追求権の侵害のみでは説明できない。これは、前提犯罪(本犯)の犯人による盗品等の利用行為を援助する、#本犯助長性、#事後従犯性が考慮されたものである。また、このような罪質に加え、#利益関与性も認めることができると解する。]

 

刑法各論21/ 438/ 盗品等関与罪の保護法益は,前提犯罪たる財産犯の被害者が被害物に有する回復請求権(#追求権)。しかし,盗品等運搬,保管,有償譲受け,有償処分あっせん罪(刑法256条2項)の法定刑が窃盗罪などより重いのは,本犯の犯人による盗品等の利用を援助する,#本犯助長性_事後従犯性の考慮。また,#利益関与性もある。

[山口『刑法各論』2版337頁、338頁参照。法的判断枠組み。]

 

 

〔風俗に対する罪〕

●わいせつ物頒布等罪

[・わいせつ物頒布等罪(刑法175条1項2項)の構成要件的行為は、①頒布、②公然陳列、③有償頒布目的所持である。]

[・「頒布」とは、#有償・無償を問わず、不特定または多数の人に対する、対象物の交付である。わいせつ物が現実に交付されてたことが必要である。

 頒布の相手方となる行為については、当然予想される対向行為の一方について処罰規定が存在しない。これは、わいせつ物を積極的に伝搬する行為は当罰的な違法性を備えているが、その相手方として伝播を可能にするにとどまる行為については当罰性が低いと考えられるからである。このような理由から、刑法総則の共犯としても処罰することはできないと解する。]

 

●顧客によるダウンロード操作に応じた自動的なデータの送信と「頒布」

[・刑法175条1項後段にいう「頒布」とは、不特定または多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめることをいう。

 本件事実関係によれば、Xらが運営する配信サイトには、インターネットを介したダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能が備え付けられていたのであって、顧客による操作はXらが意図していた送信の契機となるものにすぎず、Xらは、これに応じてサーバーコンピュータから顧客のパーソナルコンピュータへデータを送信したというべきである。したがって、同条項後段の「頒布」にあたる。]

 

 

〔偽造罪〕 ■文書偽造罪 
刑法各論25/ 311/ 私電磁的記録不正作出罪(刑法161条の2第1項)は、#人の事務処理を誤らせる目的で_事務処理の用に供する権利・義務_事実証明に関する電磁的記録を不正に作った場合。公電磁的記録不正作出罪(同条2項)は、公務所・公務員により作られるべきとき、それらの供用罪は未遂も罰する(3項4項)。
[山口『刑法各論』2版473頁参照。法的判断枠組み(条文)。]

法学エッセンス essence of law

 法律に関することの140字以内でのまとめ。

  ①法的判断枠組み(定義、規範、考慮事由等)②事実の分析・評価例、などの確認。

 判決文の記述・理論のままでない所があります。短すぎ、理解不足などによる間違い等あると思います。ご指摘いただけたら有り難いです。

 対象とする科目は、倒産法、憲法行政法民法、商法、民事訴訟法、要件事実論、刑法、刑事訴訟法などです。

 

1. 記憶に残るように、①規範等の法的判断枠組み、②事実の分析・評価例を抜き出しているところです。論文苦手です。[2017年4月]

2.(1) 問題提起は、まだよくわかりません。①法的判断枠組みについての答えを求める問題提起でよいか、②事実の評価、ないし、③結論を求める問題提起をすべきか、答案練習を積まなければ、うまくならないんだろなーと思います。[6月23日]

(2) ①法的判断枠組み(規範等。大前提)をできるだけ理由をつけて書いて、②事実の分析・法的評価・設定した法的判断枠組みに該当するか否かていねいに説得的に書いて(小前提のあてはめ過程)、③妥当な結論を導く。法的三段論法って、こういう感じでいいですよね?論文得意な方教えてください!![4月]

(3) 全く同じ事案は出題されないにしても、具体的事実がどのような法的評価を受けているかを、あらかじめ知っておけば、似たような事案の分析・評価、素早くできるだろうな。やっぱり、事実の分析・評価の例などの確認の方も大事なんでしょうね。[5月10日頃]

3.(1) 印刷物に書かれていたのか、答案添削で書かれていたのか、直接指導されたのか忘れましたが、上記の①法的判断枠組みと、②事実の分析評価まで、セットで書けていないと、点数にならないというようなことを聞いたことがあります。

(2) ①②をセットで書いていれば、短くても、その論点に割り当てられた部分点(たとえば、10点)を基礎点として、それからマイナスしていく(10~7点くらいになる)。
 ①だけしか書いていないと、上記の部分点の半分くらい(たとえば、5点)を基礎点として、プラスあるいはマイナスされる(6~3点くらいになる)。
 ②あるいは③だけしか書いていないと、裸の利益衡量に過ぎず、法律論とはいえず、0点を基礎点として、何かいいところがあれば、少しプラスがつくかもしれない(2~0点となる)。
 採点って、こんな感じでしょうか?私の単なる推測ですが。[6月27日]

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▼参照:
☆辰巳『趣旨・規範ハンドブック』。『判例百選』、『重要判例解説』。
☆『例題解説 新破産法』、山本和彦ほか『倒産法概説』。
☆『基本から合格答案を即効で書けるようになる本』公法系、民事系。『工藤北斗の合格論証集』商法・民事訴訟法。『判例プラクティス』。
☆芦部『憲法』、『憲法の急所』。『事例研究 行政法』、『LEGALQUEST 行政法』。
☆『改訂 紛争類型別の要件事実』、『新問題研究 要件事実』。『LEGALQUEST 会社法』。『民事訴訟法講義案』、『ステップアップ民事事実認定』。
☆山口『刑法総論』『刑法各論』、平野『刑法概説』、西田『刑法各論』。 /twitter.com